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アニメ『緑山高校 甲子園編』のスコアボード

 今回は1990年7月25日にオリジナル・ビデオアニメ作品として公開された『緑山高校 甲子園編』についてです。原作漫画は桑沢篤夫氏によって週刊ヤングジャンプに1984年から1987年まで連載された作品ですが、ここで扱うのは原作をもとに制作されたアニメ版のみです。あらかじめ全篇ネタバレであることをお断りしておきます。

はじめに

 私自身がこのアニメを初めて視聴したのは、かつて関西のテレビ局で夏休みなどの学休期間中に放映されていた『アニメだいすき!』という夕方の放送枠でした。直球一本槍の主人公エース二階堂をはじめとする登場人物の破天荒さ、野球アニメとは思えない極端なアクション、主要キャラである二階堂・犬島・花岡のコミカルかつ激しいやりとりと不意に見せる緩いユーモア、チームワーク皆無の全員一年生ナインが並み居る強豪校を倒していく過程など、それまで経験したことのなかった世界観に、一緒に視聴していた同級生とともに引き込まれたことを覚えています。その後も世に送り出されてきた野球漫画・アニメをある程度は目にしてきましたが、定番のテーマである「努力と友情」や、リアル路線とは対極にある『緑山高校』のような野球漫画・アニメ作品は、完全にギャグとして分類できる作品を除けば寡聞にしてその存在を知りません。

 今回はそんな、過去の私に強烈な印象を残したアニメ『緑山高校 甲子園編』の全試合のスコアボードを作成したうえで試合経過を確認することで、改めてどのような作品であったかを振り返る試みです。対象となる試合は全10話のOVA作品のなかで描かれる、夏の硬式高校野球大会の福島県予選決勝から全国大会である甲子園決勝戦までの全7試合です。原作ではこの後に「アメリカ遠征編」「二年生編」「プロ野球編」までが展開されますが、今回はアニメ作品内で扱われた「甲子園編」のみで、原作との差異についても気にすることなく、アニメ版のみについて語ります。また、試合の得点シーンを中心に記事としているため、試合間や観客席などの出来事はスルーします。

福島県予選決勝戦 神堂高校

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 第1話冒頭は甲子園出場を決める福島県予選決勝戦の延長十五回から始まる。作中で表示されるスコアボードから十二回までに両軍が1得点していることはわかるものの、正確な経過は不明である。本作が扱う試合の中で唯一、いつ誰が得点したか分からないのが、この両軍の計2点。

 剛速球で優勝候補筆頭の神堂高校を15イニング1点に抑えていた二階堂だったが、延長15回裏のベンチでキャッチャー犬島、キャプテンでサードの花岡の言葉に気を悪くした直後の16回表、気のない投球で連打を許して1点を勝ち越される。マウンドに集まった緑山ナインは「勝てば甲子園出場」という当たり前の事実を思い出させ、二階堂はこれにより気を取り直す。しかし直後に二階堂が全力で投じた直球は敵軍主砲の三田村によりスタンドに運ばれて3ランとなり、点差は4点にまで開く。
 その裏の攻撃、緑山は二死一塁から1番佐山のホームランで2点を返す。連投による疲労と自信喪失で調子を崩しはじめた神堂高校エース室伏が二者を四球で歩かせた後に4番花岡がフェンス直撃の長打を放つ。二者生還で同点となってなお、バッター花岡は三塁コーチの制止を振り切って本塁突入。これが見事セーフとなり、創立一年目で全員一年生の緑山高校はサヨナラランニングホームランで甲子園出場を果たす。

 特筆すべきは神堂高校4番の三田村が「全力で投げた」二階堂のボールをホームランしていること。実はこのあとの甲子園全国大会でも、二階堂が本気で投げてヒットを打たれるシーン自体がかなり珍しいうえに、この試合の三田村は文句なしのホームランを放っている。
 もうひとつ注目すべきは後述の甲子園での全国大会6試合全てでホームランを放つ二階堂が、負ければ終わる16回裏の打席であっさり三振に倒れていること。チームメイトの反応からも地区予選の二階堂は、バッターとしては全く期待されていない。この時点では、原作者も二階堂をバッターとして活躍させる考えがなかったのかもしれない。

甲子園一回戦 宮島商業

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 甲子園初戦の相手は、昨年の優勝校である広島県代表の宮島商業高校。初回、調子が上がらないと話す二階堂は3者連続のフォアボールで満塁とする。緑山ナインがマウンドに集合し、犬島と花岡の嫌味に二階堂が機嫌を損ねる。直後に投じた棒球を宮島の4番国枝が捉えて満塁ホームランとする。センター佐山がやけくそで投げたグラブが偶然打球に当たってグランドに落ちるも、当然打球妨害と判定される。再びマウンドに集合する緑山ナインは初回からの絶望的な状況に二階堂に対して恨み節だが、宮島商業ナインの見下した態度と、犬島・花岡がいたずらに口にした「27連続三振」の言葉に二階堂が奮起する。公言通りに後続を連続三振に切って取り、打席に立った宮島ナインは二階堂による規格外の剛球に驚愕する。
 緑山の反撃は6回裏、投手二階堂が甲子園のバックスクリーン最上部にあるアナログ時計に届く2ランホームランを放つ。本作で二階堂が初めてその驚異的な打力を見せつけたシーンである。
 8回表、ここまで21連続奪三振と二階堂の剛球に手も足も出ない宮島商業ナインは、監督の指示によりバント作戦に出る。二階堂はこれをものともせず二死まで三振を奪うが、この回三人目の打者である根性の男・佐々木が決死のバントで二階堂のボールを前に転がす。三塁線を切れる可能性のある打球を、サード花岡が二階堂の連続三振への思いを汲んで(後腐れないように)見送る。結果内野安打。連続三振が途切れてモチベーションを喪失した二階堂は後続に棒球を投じて連打を浴び、二死満塁のピンチ。マウンドに詰め寄った犬島が戯れに発した「連続は途切れたが27三振は残っている」という言葉から我に返った二階堂が次打者に再び剛球を投じて三振に打ち取る。
 続く9回表も、二死までを三振に取って26三振、27三振まで残りひとつとする。しかし迎えた4番国枝は二階堂の剛球を見事打ち返す。ライトのファインプレーで惜しくもスタンドインを逃すも、三塁を回って本塁に突入。しかし捕手犬島が決死のブロックで国枝のランニングホームランを阻止してチェンジ。この試合唯一となる三振以外のアウトに、二階堂は意気消沈する。
 2点差を追う9回裏の緑山は宮の振り逃げ、高村の犠打(野球経験のない監督による采配ミス)で二死二塁とした後にキャプテン花岡が三塁打を放って1点差とする。続く5番犬島の打った当たりは平凡な外野フライに見えたが、見る見る伸びた打球はフェンスに登ってこれを捕球した左翼手とともにラッキーゾーンに入って2ランホームランとなる。逆転サヨナラで前年優勝の宮島商業をくだして二回戦への進出を決める。

 作中の二階堂の初安打が6回の2ランホームラン。以降の試合も、二階堂の全ての安打はホームランとなっている。この試合で全力の二階堂からヒットを放ったのは8回表の佐々木のバントヒットと、9回表の主砲国枝による記録上三塁打の当たり(その後、本塁生還を狙って憤死)。佐々木のバントヒットは花岡が二階堂の連続三振への挑戦を考慮せずに一塁送球していればアウトだったことを考えると、まともに二階堂を打ったのは9回の国枝の一打席のみ。ライト高村の好守がなければラッキーゾーンに飛び込む当たりだった。

甲子園二回戦 桜島高校

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 二回戦の対戦校は鹿児島県代表の強豪、桜島高校。二階堂の傲慢さに業を煮やした緑山ナインはエース二階堂をベンチに下げ、先発のマウンドには中学時代にピッチャーだった花岡があがる。快速球を操る投手花岡は、打者一巡目までの桜島打線を出塁なしに抑える。
 桜島の先発は緑山と同じくエースではなく、切れのあるカーブが持ち味の二番手投手・伊集院。緑山高校は2回裏の攻撃、5番犬島がカーブを捉えてレフトポールの低い位置に直撃する2ランホームランを放って先制する。
 3回までは花岡に封じられていた桜島打線だったが、打者一巡して目が慣れた4回、四球二つを挟む7連打、2本塁打の8得点と、花岡を滅多打ちにする。それまで意地を張っていた花岡の心が折れたことを見て取った犬島が、1回裏に死球で負傷した佐山に代わってセンターを守っていた二階堂への交代を命じる。代わった二階堂は二者三振で剛球を見せつけた後に3番をわざと歩かせ、4番の主砲阿久根から三振を奪って4回表の攻撃を終わらせる。
 その裏の攻撃、花岡のソロホームラン、犬島・白石・早坂の連打で3点を奪った緑山打線の前に、桜島はエース東郷を投入。しかし交代直後には伏兵北村にタイムリーヒットを打たれ、1番に入っていた二階堂からは予告本塁打を場外に打たれて追いつかれる。
 5、6、7回の投げ合いを経た8回裏、6番白石がレフトラッキーゾーンへ生涯初となるホームランを放って、緑山が2点を勝ち越す。続く9回裏を二階堂が三者三振で締めてゲームセット。緑山は三回戦にコマを進める。

 緑山が後攻で、サヨナラで終わらない試合は本作中、この試合限り。決勝打となる8回の白石のホームランと4回の集中打では、二階堂・犬島・花岡以外の緑山ナインが隠された打力を示している。二番手伊集院に代わって登場した桜島のエース東郷は、二階堂以外にも北村と白石に打たれるなど、失点数も先発伊集院と半々で分け合う5点。その威圧感と裏腹に微妙な活躍に終っている。一方、花岡の後を受けた二階堂はわざと歩かせた一四球を除いて18連続三振と、一本のヒットも許さず桜島打線を寄せ付けなかった。

甲子園三回戦 東京学院

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 三回戦の対戦校は、二階堂の挑発も爽やかに受け流す東東京代表の東京学院。1番二階堂は、東京学院のエース神保が力んで投じた初球のワンバウンドの失投を打つ。これが先頭打者ホームランとなって緑山が先制。
 一気に8回裏まで進み、東京学院の4番永田が何とか二階堂の剛球にバットを当てるもファーストフライの当たり。打球が一塁線間際に泳ぐのを見た、連続三振記録にこだわる二階堂がファースト北村に「捕るな」と叫ぶ。驚いた北村が落球するが、結局ボールがフェアゾーンに落ちて初ヒットを記録する。連続三振記録が21でストップしたことに気落ちした二階堂が、その後も無気力投球で2連打を許して同点となる。しかし、マウンドに集結した緑山ナインとのやり取りから気力を取り戻した二階堂は復活。その後を三者三振に切って取る。
 続く9回表の緑山の攻撃。先頭打者二階堂が放ったピッチャーライナーの当たりは、捕球した神保のグラブを突き抜けてバックスクリーン上空の場外に消え去る。勝ち越した緑山がそのまま勝利してベスト8進出。
 試合途中、緑山の剛球を受け続ける犬島の異状に、観戦していた次戦対戦校の徳田監督が察知してほくそ笑むシーンがある。

 本作中で唯一、緑山が先攻となる試合。東京学院のヒットは8回の三安打だが、二階堂が北村に落球を指示した凡打と、無気力になった二階堂が与えた二安打であることを考えると、まともな安打はひとつもない。緑山の2得点も二階堂の2本のソロホームランのみとなっている。
 また、この試合と次戦の海征院戦は二試合を合わせて、ほぼ第6話のみに収まるニコイチとなっており、延長15回から始まる県予選決勝と並んで扱いの小さい三試合のうちのひとつとなっている。その他の4試合は幕間劇も含めれば、それぞれ約2話ずつであることを考えれば、7試合のなかでは明らかに重要度の低い試合という位置づけである。

甲子園準々決勝 海征院

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 準々決勝の対戦校である千葉県代表の海征院は、智将・徳田監督と、その孫である綱吉の存在で知られるチーム。海征院との試合は9回裏まで進んだ時点から始まり、それまでに海征院の主砲・徳田綱吉がここまで唯一のヒットとなる2ベースで、早々に二階堂の連続三振記録を阻んでいることが実況アナウンサーによって伝えられる。一方、緑山は12もの安打を放ちながらも、徳田監督の指示による二階堂に対する敬遠策や守備シフトによって一点も取ることができない。
 このポイントは緑山の捕手である犬島の左手の負傷。二階堂の剛速球を受け続けた犬島は緑山ナインにも負傷を隠しながら試合に臨み続けていたが、敵軍の徳田監督は、前試合の偵察で犬島の異状を知ったうえで、犬島の限界が訪れるタイミングを待っている。
 5番犬島のブレーキでサヨナラのチャンスを潰した9回裏直後の延長10回表、海征院の徳田綱吉は本気の二階堂から二度目の2ベースを放ってチャンスメイク。この後、二階堂のエラーと暴投から緑山は1点の勝ち越しを許してしまう。
 この後に続く一人の打者を三振に打ち取ったタイミングで犬島の左手の負傷が限界に達し、治療のため一時退場。代わってキャッチャーを務めようとした花岡が投球練習で二階堂の剛球に吹き飛ばされ、二階堂が投げられない絶望的な状況を迎えた緑山は、徳田監督のシナリオ通り敗戦するかに見えたが、治療を終えた犬島がグランドに姿を現す。二階堂たちには、「負傷は二階堂の投球のためではなく素振り練習が原因」と嘘をつき通した犬島は、その回の残る一人に投じた二階堂の全力の三球を何とか捕球し、10回表の守備を切り抜ける。
 その裏の緑山の攻撃。ヒットで出塁した北村を一塁に置いた状態で打席に立った二階堂は、ここでも敬遠する海征院バッテリーに対して片手を思い切り伸ばしてスイング。二階堂が片手で打った打球はセンター真正面の当たりに見えたが、そのまま伸びてフェンスを越える。二階堂のサヨナラ2ランホームランで緑山高校は準決勝に進出する。

 犬島の負傷が大きく取り上げられる試合で、視聴時にはその印象が強く残るのだが、振り返ってみれば結果的に試合展開にはあまり影響していないことが意外だった。
 無得点とはいえ、緑山ナインは10イニングで14安打を放っている。それも敬遠され続けた二階堂が最後の本塁打のみ、負傷のために「ブレーキになっている」とされている犬島はおそらく無安打であることを考え合わせれば、驚きに値する安打数である。甲子園準々決勝まで進出した強豪校に対し、予選で打率2割程度だったチームとは思えない活躍である。
 あまり目立たないが、本気の二階堂相手に複数のヒットを放ったのは、この海征院の徳田綱吉のみ。しかもいずれも長打の2ベースである。

甲子園準決勝 南国高校

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 準決勝は高知県代表の南国高校。自作の木製バットで打席に立つ主砲の怪力捕手・海豊、魔球クロスファイアーボールを操るエース岬田、「出塁率100%の男」1番・佐輪知、坂本龍馬を尊敬し剣道のようなフォームの北辰一刀流打法を繰りだす3番・黒谷と、個性的、かつ強力なタレントが揃うチーム。とくに4番の海豊は、試合前日の街中でトラックを持ち上げる場面を目にした二階堂が、珍しく試合前から警戒する選手である。

 1回表から振り逃げで出塁した佐輪知の俊足と、あわやホームランの当たりとなる大ファールを連発する海豊の豪打に苦しみながらも四者三振で切って取る二階堂。海豊の木製バットは二階堂の剛球に砕け散る。
 その裏の攻撃、目視することができない南国・岬田の投げるクロスファイアーボールに緑山ナインは乱心。3回裏の左打者二階堂がナインに対してボールは消えないという言葉をヒントに、5回裏に左打席に立った花岡はボールが見えることを証明するが、打てないことに変わりはなかった。
 8回表は負傷が響く捕手犬島がパスボールを連発。満塁のピンチを迎えるも、後続を何とか打ち取って無失点で守り抜く。三人目のアウトを、ホームスチールを敢行した相手走者をタッチアウトしたことで連続三振記録は途切れるが、これまでの時点で振り逃げとパスボールを含め、既に念願の27連続三振を達成していたことを犬島が二階堂に伝えている。
 ピンチの後の8回裏、三度目の打席に立った花岡が疲労により球威の落ちた岬田のクロスファイアーボールをホームランにして、緑山が先制する。つづく5番犬島も負傷した左手を使わない、「片手+一回転」の奇想天外な打法でホームラン性の当たりを放つが、佐輪知による大ファインプレーの前に阻まれる。
 9回表の南国高校は1番からの攻撃。二死まで打ち取った二階堂は、主砲・海豊との勝負に臨むためにあえて三番・黒谷を歩かせる。海豊が必死にジャストミートした二階堂の剛球が、なんと海豊の右腕を骨折させる。打球は平凡な外野フライに見えたが、風に運ばれてスタンドイン。2ランホームランとなり南国高校が緑山を逆転する。
 続く9回裏は左腕一本となった海豊が何事もなかったように捕手を継続。緑山は9番・二階堂のソロホームランで同点に追いついて延長突入。
 12回表の海豊との5度目の対決を圧倒した二階堂は、裏の攻撃で自身の打席に対する敬遠策に対して空振りを見せて南国バッテリーを挑発。これを受けて立った海豊と岬田だったが、二階堂から二打席連続となる場外ホームランを打たれてゲームセット。「最高の球だった」と敗れて悔いのない南国バッテリー。試合後の整列では、二階堂が珍しく対戦した二人を讃えている。

 試合の盛り上がり、対戦相手としての手強さ、冒頭に書いたような出場選手の個性のいずれを取っても、この後に迎える国明館との決勝戦をはっきりと凌駕している。なかでも主砲である海豊は、傲慢な二階堂が作中で唯一はっきり好敵手と認めた選手であり、本気で投げた二階堂からホームランを放った打者も福島県予選決勝16回表の三田村以来である。
 二階堂の剛球が初めて数値化されているのもこの試合の見どころのひとつ。記者と思われる二人がスピードガンの故障ではないかと見せ合った計測値は2回表の時点で時速178km。この後、4回表の海豊を前に180km、海豊との対戦のなかで183km、191kmと、ありえない球速と短期間でのスピードアップを見せている。ちなみに自身の球速が178kmと聞いた二階堂は、「俺の球は新幹線(210km)より速いはずだ」と不服そうな様子を見せている。

甲子園決勝 国明館

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 遅刻した二階堂はハングライダーを使ってバックスクリーン頂上部から登場。犬山のトスバッティングに直撃されながらもマウンドに着地。お騒がせな二階堂の登場とともに、春のセンバツ優勝校でもある大阪府代表・国明館との決勝戦がプレーボールとなる。

 初回をあっさり三者三振で打ち取って見せた二階堂は、1回裏の先頭打者として特大ホームランを放つが、ベースを踏み忘れてアウト。しかしその後、初の3番に入った犬島がラッキーゾーンに飛び込むソロホームランを放ち、緑山が早々に先制点を奪う。
 その裏の攻撃中のベンチで、花岡から有力選手は日本代表としてアメリカ遠征に選抜される情報を聞いて俄然やる気を出す緑山ナイン。一方、それまでの素行の悪さから日本代表はあり得ないと決め付けられたエース二階堂は完全にやる気を失う。
 無気力投球を続ける投手二階堂だが、アメリカ行きを賭けて張り切る緑山ナインの度重なるファインプレーで、二階堂以外の緑山ナインが国明館の得点を許さない。一方の国明館も好打を連発する緑山打線に対して、これまた必死の好守連発で追加点を阻止する。
 1対0のまま迎えた9回表、二死満塁からの投手ゴロを二階堂が悪送球。3人が生還して打者走者までも本塁に向かったところを満身創痍の犬島が意地のタッチアウトで攻守交替。
 2点を追う立場となった緑山の攻撃は二死走者なしとなるが、9番佐山がヒットで出塁。ここで打席に立つのは味方のアメリカ行きを妬んで足を引っ張り続ける二階堂。直前の守備で自身の悪送球をきっかけに瀕死の重傷を負った犬島に責任を感じたに見えた二階堂だったが、やはり緑山ナインのアメリカ行きを許せず目をつぶってスイング。しかし、これがたまたまバットに当たり、二階堂の怪力で運ばれた打球はライト場外へのホームランとなって同点。続く2番・宮が甲子園初ヒットを飛ばすと、3番・犬島が長打を飛ばして宮が生還する。しかし重傷で歩くこともままならない犬島は一塁に辿り着くことができず、絶好のサヨナラ勝ちのチャンスを逃してしまう。
 10回表は引き続きやる気のない二階堂が敵軍の3番・武神にホームランを許す。ここでマウンドに向かった花岡が、「優勝投手が選抜から漏れるはずがない」と、拗ねる二階堂の機嫌をようやく取り戻し、1回以来となる本来の投球を取り戻した二階堂は後続を三振にとる。
 再びビハインドを背負った10回裏、4番・花岡の長打をファインプレーで阻まれて絶体絶命に見えた緑山だったが、6番・白石、7番・早坂の連続ポテンヒットで再び同点にする。その後、弱気になった国明館エースの佐田丸が四死球を連発した後に1番・二階堂を迎える。気力を取り戻した二階堂が佐田丸のボールをジャストミートし、捕球した一塁手がボールごとスタンドに向かって吹き飛ばされる。しかし、ラッキーゾーンから飛び上がったライト立浪が一塁手ごとキャッチして着地し、結果ライトフライに終わる。
 観客の投げ入れたフランクフルトソーセージを口にした二階堂が審判から注意を受けるなどのゴタゴタもありつつ、お互い失点を許さないまま延長15回に突入。体力の限界に達した犬島がついに二階堂の剛球を捕球できなくなる。これを見た二階堂は打たせて取る投球に切り替え、再三のピンチを迎えながらも延長17回表まで失点を許さない。延長18回が終われば翌日再試合となり、疲労の極みにあるナインでは勝つ見込みがなくなると焦る二階堂。
 迎えた18回表の守備では、ついに犬島以外のナインも疲労の限界に達する。投手二階堂がセンターまで捕球するなどの俊足を見せてただ一人奮戦するも、疲労で動けない野手の間を抜けた当たりがランニングホームランになり、ついに2点を勝ち越される。続いて三連打のあとに4番の主砲・立浪がバックスクリーンへの完全なホームラン性の当たりを放つ。これを外野まで俊足を飛ばした二階堂が大ジャンプで打球を叩き落とす。ボールが外野を転々と転がり三人の走者が生還するなか、打者走者である立浪も本塁に向かう。これを見た二階堂が拾ったボールを剛球でバックホーム。あらかじめ前方で待ち構えた犬島が捕球したボールに吹き飛ばされながらも本塁上で立浪をタッチアウト。5点を失いつつもようやく国明館の攻撃を終わらせる。
 18回裏の最後の攻撃。緑山は犬島と花岡の連続ソロホームランで2点を返す。疲労と自信喪失から四死球を出しながらも二死一二塁とした国明館の佐田丸は、9番・佐山に安打を許して二死満塁。ここで1番・二階堂が登場。3点のリードがある状況で敬遠押し出しの選択肢もあるなか、国明館のエース佐田丸は二階堂との勝負を選択。国明館ナインも納得してエース佐田丸に託す。そして佐田丸の第一球を二階堂が強打。打った打球はなんと、スコアボードを破壊して突き抜ける場外ホームラン。甲子園決勝戦は逆転サヨナラ満塁優勝ホームランで幕を下ろす。
 その後、優勝に浮かれる緑山ナインが審判の激怒を買ったところで、二階堂の打球が貫通したバックスクリーンが爆発、炎上する。

 決勝戦ということもあって、試合は本作最長となる延長18回に及び、最終的に二階堂を除く緑山ナイン全員がボロボロになる激戦が描かれる。しかし、接戦の原因はアメリカ行きはあり得ないと宣告された二階堂の無気力投球にあり、普通にやっていれば緑山があっさり勝てたであろう試合を二階堂が足を引っ張って接戦にした形である。そんな経過のため、準決勝の南国高校や一回戦の宮島商業と比べれば冗長な印象もある。
 同時に、アメリカ行きの可能性に奮起した緑山ナインが本来以上の実力を発揮したとはいえ、8回までの時点で無気力投球の二階堂の前に3安打止まりなど、対戦校である国明館の不甲斐なさも目立つ。主力選手である佐田丸と立浪も、南国高校の四人などと違って影が薄い。

まとめ

 最後に、改めてアニメ『緑山高校 甲子園編』について、得点・試合経過を中心に記事にしてみて気が付いたことを三つ挙げます。

①極端なご都合主義の得点経過
 7試合中6試合が1点差、うち5試合がサヨナラ勝ちと、ご都合主義な試合展開が顕著です。明確な箸休めにあたる試合もなく、スポーツをテーマにした漫画・アニメ作品としては仕方がないとはいえ、そのなかにあってもとくに極端でしょう。例えていえば牛肉以外は出さない焼肉屋のような、作品の方向性自体に、直球しか投げない二階堂の投球の性質と共通するものを感じます。この一本調子だったからこそ、決勝戦では二階堂による緑山の自滅以外に描くべき対象がなくなり、決勝の国明館が最後の対戦相手としては物足りない存在として登場せざるをえなかったとも考えられます。

②二階堂への依存度の高さ
 守備に関しては二階堂が本気で投げていれば1試合にせいぜい1点しか奪われず、失点の大半は二階堂が機嫌を損ねた無気力投球中に生まれています。攻撃面についても三回戦以降の緑山の17得点のうち12打点が二階堂のホームランから生まれており、攻守を通じて二階堂の能力の高さが浮き彫りになりました。
 圧倒的な能力を誇る二階堂が明らかにライバル視したのは南国高校の海豊ただひとり、その海豊も二階堂の剛球に利き腕をへし折られ、投手ではないことを踏まえると、やはり野球選手としての二階堂の能力は他選手を圧倒しており、ただひとり完全に別格扱いです。野球漫画に限らず、こういったキャラは普通敵役として設定され、主人公が自身の成長や仲間の協力を経て打ち倒す対象となるのですが、本作はある意味「ラスボスを主人公に据えてみた」作品ともいえます。

③試合経過を抜き出しても魅力が伝わらない
 得点経過を中心に全試合を記事にしてみましたが、試合経過だけを取り出しても本作の魅力はそれほど伝わらなかっただろうという、結果的に今回の試みの一部を否定するような結論に至りました。
 先の2項目やこれまでの試合経過だけをご覧になれば、おそらく大味な印象が先に立ち、過程だけを見ると緑山ナインもそれなりにチームワークを備えた助け合いで勝ち上がっているように見えてしまいます。実際は、あくまで我欲に従ってプレーする緑山ナインのチームプレーの精神を真っ向から否定するかのような展開、登場人物たちのコミカルで軽妙なやりとり、そして野球を題材にしているとは思えないような数々の奇想天外なアクションシーンの躍動感が大きな魅力であり、その魅力を言葉で伝えにくい種類の作品だと感じました。

 以上、アニメ『緑山高校 甲子園編』の得点経過を中心に作品を辿りました。30年前の超有名というわけでもない作品ですが、継続的に新たな作品が発表され続ける野球漫画・アニメ作品にあっても後続を生まなかった、「進化の行き止まり」の感もある類例の少ない名作だと考えています。しかし、豪快な内容に、次回予告から聴き手を勇気づけるエンディングテーマ『遅れてきた勇者たち』への爽快な流れも相まって、いま視聴しても胸のすく思いを得られる方は多いのではないでしょうか。

 今回の記事作成にあたって視聴したメディアは数年前に購入した以下のブルーレイ商品で、一枚のディスクに全十話分が収録されています。投稿時点で残念ながら既に新品は販売されていないようで、中古についても amazon、楽天などの大手通販サイトで高値、もしくは取り扱いがない状態のようですが、amazon の Prime Video 等で視聴可能なようです。


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