不遜の泥 1夜
「カシャッ・・・・ピピピピピピ」
「カシャッ・・・・ピピピピピピ」
軽快なシャッター音の終わりに、次のフラッシュを促す電子音が地下の固い空間を心音のように木霊していく。
その鼓動の輝きに合わせて、別の雰囲気を漂わせる簡単なお仕事。
私は、この輝きの中で生きていく事を約束された女なの──
この頃私は、それをアイデンティティとしてネオンの混じる時間を飛んでいる気になっていたわ。
事の発端は、
見知らぬ男に話かけられた。
街角のスカウトだった。
でも私には良くある話。
いつもなら腐った蜜柑を見つけた時のような目線でソレをあしらうのだけれど。
ただ何故だか その時は退屈だったのか。
それともその男が、スカスカのシフォンケーキみたいに、口の含むのを躊躇う臭い言語のような息を並べる男より幾分かマシだと感じたのかは、もう昔のこと。
曰く、どうやらその時の私は、ガラス張りのショウケースに飾られているどのマネキンよりも美しかったのだそうよ。
それから暫くして私は読者モデルと名乗る事に恥ずかしさを感じない位には知られるようになったわ。
だって求めてなくても華が向こうから寄ってくるんですもの!
でも、決してその華に留らなかったわ。私は華を選ぶ側の蝶なのですから。
天狗女なんてダサい形容で罵られたって良い。
所詮そんな事をいう奴らなんて、あのショウウインドウに並べられているマネキン以下でしょう?
そんな不遜天狗が腐り溶けて、夜の泥に成り下がってしまう私に起きる、この世界には良くある話。
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