雑居ビルの1階が店舗で、その上が賃貸になっている私の職場(今となっては元だが。)には、 2階以上の階層で夜を振り撒く「蝶達」が、やけに暗く狭い外階段をピチピチのボディラインで駆け上がっていく。 いつ見ても、辺鄙なテナントビルだ。 オーナーの顔がみたいよ...。 そんな職場に引かれる後ろ髪などなく、足早に自宅へと歩を進める。 最後までそれなりに扱き使われヘトヘトになった足は、厄日だからだろうか。 コーヒーショップの前で止まった。 「今日は疲れた....コーヒー飲みた
厄日だと感じた日は、どこまでいっても厄日だと感じざる終えない事が重なる。 大根役者の登場にリズムを完全に崩された私は、スマホを弄りながら無駄にサドルを高くしたインテリ系ロードバイク乗りと危うくぶつかりそうになるし、 声に化粧でもしてるのかと言わんばかりのティッシュ配りの女性から差し出される腕に、首を横に振っただけで舌打ちされるし、 極めつけは、バイト先のコンビニのロッカーで、青と白のシマシマで飾られた制服に袖を通し終えた後にそれは起こった。 着替えて事務所に戻ると、視
信号が青に変わる。 対岸から押し寄せてくる人波。 雑踏とすれ違う。 ノイズが私の身体を土足で通り過ぎていく。 交差点の音を、鼓膜で呼吸していると、 よくもまぁ‥‥溜息の積もり固まった上に出来た様な街を、愛想笑いで闊歩できるもんだなと、「媚び」を愛想笑いに変換させながらスーツ姿の中年小太りジジイが電話越しでリアクション芸人宜しく、 周りに聞いてほしいかのような声でヘコヘコしているのを視界の片隅に捉えた。 「あぁ…厄日だ…。」 私は、愛用のノイズキャンセリング機能の付
「カシャッ・・・・ピピピピピピ」 「カシャッ・・・・ピピピピピピ」 軽快なシャッター音の終わりに、次のフラッシュを促す電子音が地下の固い空間を心音のように木霊していく。 その鼓動の輝きに合わせて、別の雰囲気を漂わせる簡単なお仕事。 私は、この輝きの中で生きていく事を約束された女なの── この頃私は、それをアイデンティティとしてネオンの混じる時間を飛んでいる気になっていたわ。 事の発端は、 見知らぬ男に話かけられた。 街角のスカウトだった。 でも私には良くあ