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かわってゆくということ

別冊ムーンライト Vol.2


ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。よどみに浮ぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとゞまりたるためしなし。

『方丈記』冒頭文








すべてのものは過ぎ去って行き、
ひとつとして同じ時はない。

一瞬の記憶は、時とともに色褪せてしまう。せめてもの抵抗でシャッターを切る。写真という記録方法で、かわってゆく者たちを留めていく。


デザインフェスタVol.59で販売しました。
購入いただいた方、誠にありがとうございます。

2024.5.22追記
あとがき

いわゆる諸行無常を描きたくてこのフォトブックを制作した。また、これは僕の写真に図らずも写り込んでいたテーマであった。

タイトルと雰囲気でピンと来た人もいらっしゃるかもしれないが、僕は川内倫子さんのファンである。
彼女の展示は観に行くようにしているし、トークショーに脚を運んだこともある。

そして、このフォトブックは少しでも彼女近づきたい一心で制作した。

彼女は「生と死」を想起させる写真を撮られている。彼女の写真集も持っているが、写真のまとめ方も楽しい。
写真集の見開き。一見して全く異なる2つのものを、色や形などの共通点を見出し、両開きのコンビにしてしまう。

そして、言葉で補うことなく写真だけが淡々と貼られている。捉え方は読者に委ねているのだろうか。

ところで、僕は何をテーマにすれば良いんだろう?
彼女のような豪華絢爛なものを作ることは出来ないだろうが、精一杯の今を作品にしたい。


5月の連休明け、所属する写真サークルでデザインフェスタに出展することになった。
僕はフォトブック制作に挑戦することにした。
しかし、どの写真を、どんなテーマで組み立てればいいのか、さっぱり分からなかった。

とりあえず、過去に自分の撮った写真を見返してみる。
どうしてこの瞬間をシャッターで切ったのか。そして、自分の「好き」を見出すんだ。

分からん。

その答えが一朝一夕に出てきたら人生苦労しない。

4月も終わる。
デザフェスまで1ヶ月を切ったぞ。

GWを迎えた。

僕は茨城へ車を走らせていた。
昨年まで住んだ場所、実に7ヶ月ぶりである。
フォトブックの準備は出来ていない。

朝日を眺めたくて、日立市内にある海を臨むロードパークで車中泊をした。
住んでいた当時もよく訪れていた場所だ。

僕は海が好きだ。海の写真もしょっちゅう撮る。
常に揺れ動いて、この世界が一つとして同じときがないことを再認識させてくれるからだ。

やがて朝が来て、海の肌が露わになる。
引いては満ちる波、かつ消えかつ結ぶ泡沫、
そして、中学の古典の授業で習った『方丈記』の冒頭文が思い浮かぶ。


素晴らしい刺激になった。
でも、アイデアはまとまらなかった。


そのまた数日後、生まれ故郷の浜松へ帰った。
地元ではお祭りが開かれ、古い顔馴染みとも偶然再会できた。

少年少女だった子たちはみんな大人になり、話す話題も歳相応になっていた。
けれども、醸し出す空気はどこか昔と同じで、心地よい安心感を覚えた。

僕も彼らも、皆少しずつ変わっていく。留めない時間を漂い、ふとした巡り合わせで今、再会できた。

波も、人間も、ひとつとして同じときはない。ただ、否応なくかわってゆくさまの一瞬を捉えられたことに、喜びを感じずにはいられない。

連休が終わり、再び写真を眺め出した頃には、イメージがふつふつと湧いてきた。


…川内さんの足元にも及ばないのは言わずもがな。
でも、せっかくなら憧れの人のような作品に仕上げたかった。

無事、デザインフェスタに並べることができ、数名の手に渡ったようだ。


フォトブック制作は自分自身の「好き」について考える貴重な機会となった。

何かをまとめるときは、どうしても自分と向き合わなければならない。

今後も、写真という記録方法を用いて、「世界をどう観たのか」を自分に問い、表現への欲求を増大させることが出来るだろうか。

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