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他者と生きるということ(五竜山荘ピストン)

8月13日、北アルプスは五竜山荘
私は山小屋で働き出した友人を訪ねた。

片道4時間程度の山登りは、運動不足の僕の体に随分と応えた。
でも、全身を使って黙々と歩みを進めるこの行為は、陸上競技部出身の性分には合っていて、なんだか楽しかった。

霧が沸いていたせいか余計に瑞々しかった

登山道には、夏山らしく草花が生き生きと生い茂っていた。
美しさに見惚れ、カメラを構えるけれど、あまり気を取られてはいけない。
目的地は山荘だ。

道中には、私以外にも登山者がいた。
私は序盤は飛ばしていたが、2時間を過ぎる頃には、バテ始めた。
対して彼らは、規則正しいペースでサクサクと登っていった。

あ〜あ、抜かされるなぁ。

山登りにも人それぞれのペースがある。
集中すべきは自分自身の歩みだ。
追い越されることが癪で、気持ちを掻き乱され、無理をしては良くない。

水を飲み、塩飴を噛み、呼吸を整える。

時折山頂付近の山肌を拝むことができた

それにしても、さっきから耳元がうるさい。

草花の香りに誘われたのか、アブ・ハチ・ハエたちがブンブンと羽音を立てている。
虫の羽音というものは、実に不愉快だ。
反射的に避けたくなる音だ。

余計な雑音のせいで、歩みに集中できなくなってきた。
そして、イライラしてきた。(ただでさえ暑いのに)

僕はふと思った。

野薊…漢字でこうやって書くんだな…?(のあざみ)

「この状況、どこかで経験したような…」

紛れもなく日常の忠実な再現だった。

「今日はこの仕事をやるぞ」と思っても、電話やら唐突な依頼やらで、結局あまり進められなかったこと。(外部からの依頼が雑音と言っている訳ではありません…震)

他人の言動や顔色を気にしすぎてしまい、結局自分の言いたいことを言えなかったこと。

虫たちは何も僕を邪魔しようとして「不愉快な」羽音を立てているのではない。
彼らは蜜を吸うためにその辺を漂っている。
僕は友人に会うためにその辺を登っている。
たまたま二者のルートが重なり、僕は羽音を不愉快に思った、というだけの話だ。

社会で、この世界で、生きていれば自分ひとりで完結できることはまずない。
必ず他者があり、それらは自分とは無関係に動いてくる。
ときには、他者の動きが「雑音」となることがあるかもしれない。
ただ、いちいちそれに気持ちを掻き乱されていては、自分の歩みが進まない。

他者と生きるには、自分自身の歩みを見失わずに、
余計な「雑音」には耳を塞ぐことも必要だ。

「危ねぇじゃねぇか、落ちたら実際死ぬじゃねぇか」

西遠見山を過ぎると、草木も減ってきた。
虫たちの姿も、音も、気づいたころにはなくなっていた。

尾根歩きに苦しむこと1時間半、なんとか五竜山荘に到着した。

友人も元気そうだった。今はCaliforniaにいるらしい。

「そういえば、登りのとき虫がうるさくてさぁ」
「あ〜、いるよな。そういうもんよ。」

そういうもんらしい。

わずかな晴れ間が五竜岳山頂を照らした。

All pic.by
📷 SIGMAfp
🔍 AI AF Nikkor50mm F/1.4D


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