見出し画像

書評:『絶対に挫折しない日本史』古市憲寿


①紹介

(今はどうかわからないけれど)『真相報道バンキシャ!』などに出ている社会学者の古市憲寿さんが書かれた『絶対に挫折しない日本史』(新潮新書、2020年)。中学高校時代に使った歴史教科書にありがちなダラダラ感は一切なく、退屈する暇もなし。本書は2部構成。第1部は日本の興りから終わりまで。第2部はいくつかのテーマに分けて「日本とは何か?」を読者に問う内容となっている。

②考察

・「現在の日本政府は、直接の『日本』誕生を明治維新だと考えているのかも知れない」
→地質学的にではなく、あくまで歴史学的にそういう解釈なのだろう。確かに税制・教育改革がなされ、県やナショナリズムといった概念が確立したのはこの頃だ。戦前・戦中の天皇制や昨今のヘイトスピーチを連想しそうな要素なのでやや近寄り難いが、一読者として考えることは避けて通れないだろう。

・「戦争はなくならないが、『ほとんど誰も死なない戦争』の時代は到来しつつある」
→皮肉かな。この本が出た2年後(昨年)にウクライナで、3年後(今年)にイスラエルで戦火が広がっているという事実。この間にも死者の数は増えている。だとすればこれらの戦争は、いずれ訪れる『ほとんど誰も死なない戦争』の前段階と捉えるべきなのか。

・「しばしば歴史は後世の人々に『利用』される。たった一つの真実として歴史を描くことは不可能に近い」
→本書のみに依拠して日本史を完全に理解した気でいるのはとても危うい。他の歴史学者の本にも目を通し、わからない点を明らかにしなければならない。人の数だけ歴史はあるのだろう。

③総合

本書は時代区分を「古代」「中世」「近代」の3つに限定し、要点を絞りやすくしている点が魅力的だ。はるか昔、島国日本に根を下ろしたホモ・サピエンスが生み出した政治や経済、文化は現代に通ずるものがある。日本は衰退を過去に何度も経験しており、決して今に始まったことでない。さらに、どの時代に生きた人も皆、自分たちの代が最後だと思っていた。しかし、こうも言える。説得力は全くなく、楽観視するわけでもないが、いつだって生きていれば何とかなるのだと。余談だが、コメ(米)が日本人の主食として定着したのが弥生時代ではなく、100年前だという事実には思わず驚嘆した。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?