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SF創作講座2023非公式梗概「宇宙には味がない」

裏SF創作講座への投稿を目的とした、SF創作講座の非公式梗概です。
形式や文字数上限はSF創作講座2023に倣っています。

ゲンロンSF創作講座2023
超・SF作家育成サイト2023
裏SF創作講座


第1回テーマ:
「宇宙、または時間を扱うSFを書いてください」

梗概

「宇宙には味がない」

 宇宙には味がない。カムラとナヒトにとって、それは深刻な問題だった。カムラとナヒトは他の人々と同様、飼育している家畜から宇宙を摂取して暮らしている。彼らの肉体は宇宙によって構成されており、新しい宇宙を摂取し続けることで、肉体の半永久的な維持を可能としていた。

 ただし、家畜から採れる宇宙はどれも純正の虚無。食卓に並ぶ家畜の肉は安全管理が徹底されているため、混じりけのない無の空間が成分のすべてを占めている。そんな肉には味だって存在しない。

「もういやだ!」と発したナヒトにカムラも同意する。自分が生き続けるとしても、この肉を食べ続けるのはお断りだ。「けど、どうするんだ?」と聞くカムラに、ナヒトは答える。「簡単だよ。味のある宇宙を生み出せばいい」

 ナヒトの計画は単純明快。成長過程の家畜に余計なものを食わせ、形成される宇宙に影響を与える。カムラとナヒトは何頭かの家畜を管理施設から盗み出し、様々な物質を餌として食べさせていく。だが、何を食べさせても味に変化は生じない。

 思い詰めていたある日。余ってしまった家畜の肉を、生きている家畜が食べ始めた。「これだ。奴らに共食いをさせるんだ」ナヒトの提案にカムラは青ざめるが、一度経過を見ることに。成長過程で家畜の身体は膨らみ、その体内では爆発が起きた。体内を調べると、家畜内部の宇宙では膨大な量の物質が生成されていた。

「奴らが保存できる宇宙の量には限界があった。共食いで保存量が許容量を超え、内部で爆発。結果、物質が生まれた。この物質が味なんだ」家畜から切り出した肉に、2人はかぶりつく。肉には味があり、そして美味だった。

 カムラとナヒトの生活は一変した。味のある宇宙を食べ、それが永遠に続く。幸せだと思う一方で、カムラは身体に違和感を覚え始める。妙に、身体が重い気がする。カムラはそれ以降、味のある宇宙を食べなくなるのだが、ナヒトはカムラの訴えを無視して味のある宇宙を食べ続けた。

 やがて、ナヒトは倒れる。その身体は膨らみ、体内では爆発が何度も起きた。意識不明の状態になったナヒトを調べたところ、ナヒトの体内では濃縮された物質群が次々と反応を起こし、球状の物体を何億個も誕生させていた。物質が大量に含まれた宇宙を食べ続けたせいで、身体がパンクを起こした。家畜と似た現象がナヒトにも起こったのだ。

 虚無の宇宙であれば延々と処理できたのだろう。安全管理もきっとそのためだった。後悔から、カムラはナヒトの容態を観察し続けることにした。

 長い年月が経ったあるとき、カムラはナヒトの体内に生物を発見する。毛だらけのその生物は、ある球状物体の上で独自に発生したらしい。口を開き、植物らしき何かを食らう。美味そうにしていたが突然うずくまり、倒れて動かなくなってしまう。

 食に固執して身を滅ぼす。ナヒトの身体に生じたナヒトらしい生物だと、カムラは奇妙な感慨に浸るのだった。

(1190字)

アピール

宇宙・時間というお題で自分に何ができるのか。それを漠然と考えたとき、お題に対する印象を吐き出すことが一つの答えだと思いました。
じっと宇宙・時間と向き合った結果、「どっちも固定されてないし、ドロドロの血液みたいだな」というアイデアが生まれました。
これが「宇宙が血肉になっている生き物もいるんじゃないか」という考えに繋がり、「じゃあ宇宙を食べるのか」と転がって、「宇宙、不味そうだな。スカスカだし」というところにたどり着きました。

「宇宙に味がなくて困る」という前提から物語はスタートし、カムラとナヒトの行動によって家畜内部の宇宙でビッグバンが生じます。
謎多きビッグバンの発生要因がここまでくだらなくて、どこか共感できるものだったらいいなぁという想いも込めています。

ラストシーンは自分たち人間のことを考えながら練りました。人間が持つ食への執着が創造神譲りだったとしたら、腹が減るのも許せるでしょうし。

(397字)


時間があったら実際に執筆してみたいですね。

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