見出し画像

君と宇宙を歩くために

愚痴ばかり書いてると気が滅入るので、たまには違う話。最近読んだ漫画、あまりにも良かったので。

【あらすじ】
ヤンキー(と言っても喧嘩三昧というわけではない、ただ真面目に頑張ることから逃げて何となく無為に遊んで適当にバイトして日々を過ごしている)の小林くんが通う底辺校に、ちょっと変わった転校生の宇野くんがやって来た。調子っぱずれに声が大きく、何かがみっしり書かれた小さいノートを持ち歩いていて、いつもブツブツ言っている。ある日ちょっとした偶然から彼と接点ができた小林くん。普通に暮らすのに工夫が必要な宇野くんを見ているうちに、いつもバイトが続けられずに居心地の悪さとイライラを感じ続けてきた自分にも何かわかるような気がしてきて…

【感想】
小林くんが宇野くんの「宇宙を歩くための工夫」をフラットに受け入れて、なんの気負いも偏見もなく一緒に歩いていく描写が、とんでもないほどに優しくて良い。小林くんはその工夫と努力を素直にカッケーと感じ、自分が躓き挫けそうになったときに宇野くんを思い出して踏みとどまる。宇野くんははじめて自分と話してくれた小林くんのおかげで、少しずつ地球に足をつけて歩くことができるようになっていく。そんなシーンが積み重なる二人の日常は確かに今までより楽しいものになっていて、何度読んでも…もうね、おっさんになると涙腺がちょっとね。
一方で小林くんがちょっと道を踏み外してる先輩に誘われてグラついてしまうところ、バイト先で上手くいかなくて投げだしそうになってしまうところなんかはなんか妙にリアルでもある。こういうところで紙一重で悪い方に転がることで後の人生が全く変わってしまうケースって、結構あるんだろうな。一時期話題になった「ケーキを切れない少年」の話だなあ、と。
宇野くんはたぶん高機能ASDだし、小林くんはLD、3話から出てくる美川くんもコミュニケーションに難を抱えている。でも、少なくとも今のところそれを言葉として明示することなく、それぞれに学校やバイト先、家族とのやり取りの中でぶつかったり悩んだり考えたりしながら少しずつ宇宙に踏み出していくさまが丁寧に描かれていてすごく良い。

発達障害とか、インクルーシブとか、そういう概念がまだ一般的になってなくて、皆がガラケーだった時代(そんな昔のことではないのだけど)。生きにくさを感じながら何とか踏み留まってきた人、世界からこぼれ落ちてしまった人。周りでそれを受け入れていた人、受け入れざるを得なかった人、受け入れることができなかった人。診断名がつくことで、概念が広がることで、皆にとって世界は生きやすくなっているのだろうか?

この記事が参加している募集

マンガ感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?