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友達が結婚する

 君が踏んだコンクリでコーティングされた地層はブラジルまでわたしの絶望がみっちりと詰まっていて、君はその上を談笑しながら歩いていく。あの時はキツいローファーで踵の上を靴擦れさせながら。今は高いヒールで爪先を圧迫させながら。昔からほんと歩くの速いよね、毎日遅刻ギリギリでも間に合ってたもんね。でも君はタフだけどコンクリを剥がすまでの力は無くてよかった。わたしの絶望は君の前では空気に触れぬまましっかりと密閉されている。
 いつも何事もないような顔で思慮深く努力し、極上の"普通"を取り零すことなく1つずつ、しっかりとその両手で掴み取っていく君。私の1度目の人生の上を、何度目かの14歳で、何度目かの19歳で、何度目かの25歳で、長いコートを翻しながら颯爽とした足取りで歩いていく君。過不足ない愛嬌、無駄のない表情筋の使い方、それによって成り立たせている爽やかな笑い方がすき。

 結婚するんだね。私は1度目の人生を使って、なりたくなかった大人に成長できたから、使い古した劣等感はもういらなくなってしまった。惨めさはまだ少しは使えてきもちいいかな、まだそこまで老けてないしまた役立ってくれよな。結婚式には絶対に行くけど、行かなくったって君の晴れ姿は鮮明に想像できるから、式場で手持ちぶたさになりそうで嫌だな。知り合いもほぼいないし。友達少ないからすぐ無駄になりそうなパーティードレスを選ぶのも面倒だな。写真なんて1枚も撮らなくても君のうつくしさは1秒で誰よりも、新郎よりも理解ってしまってきっと暇だから、骨格ぴったりのドレスを選んでハイキャリアの男を逆ナンでもしとこうかな。嘘だけど。

 元からどこかミステリアスだけど、もっともっと君が私の知らない君になっていったとしても、いつも優しくて優秀で要領が良い君がかっこ良くて大好きです。前から聞いてみたかったんだけど、人生何回目ですか?ずっとわたしの憧れだから、ずっと誰よりもどの女よりも幸せでいてね。

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