事業再生ADRを行うワタベウェディングの今後の展開と債務整理を行う企業が増える話

どうもコージです! 私は、毎日決算書を読んで企業の未来を妄想しています。 そんな私が決算書の中で面白かったポイント、未来への妄想ポイントを説明しています。

今回取り上げるのはワタベウェディング株式会社です。この会社はその社名の通りでウェディング関連の事業を行っていて、とくにリゾート地でのウェディングに強みを持っている企業です。

具体的にはハワイやグアム、フランスのパリやイタリアのフィレンツェ、インドネシアのバリや中国、シンガポールといった各国のリゾート地で拠点をもち海外ウェディングを行う体制を構築しています。

もちろん国内拠点も多数ありますし、国内ではフォトスタジオなども多数抱えていたりとウェディング関連の多様な事業を手掛けている企業となっています。

さて、こんな発表がありました。

ざっくり説明すると、事業再生ADRの申請を行い受理されたよ、今後は興和株式会社をスポンサーとして20億円を第三者割当増資を実施するよ。
既存株主の株式は買取られて180円貰えるよって話です。

ワタベウェディングの現在の株価が352円ほどのようですから、既存株主は5割近い損となってしまうという事ですね。

ちなみに事業再生ADRをするのではないかとの報道が2021年3月19日の朝にあったのですが、私は事業再生ADRをした後の株価がどう動くのか気になって500株だけ買っています。
どうやら半値になるようで悲しいです、お遊び程度の金額にしておいてよかったということにします笑

さて、そもそも事業再生ADRとは何なのでしょうか?

めちゃくちゃざっくり説明すると、会社更生法や民事再生法といった法的な債務整理ではなく私的な債務整理を行う事です。

つまり債務が返せないよってなった時に、裁判所に介入してもらって法的な手続きで債務を減らしていくのではなく、銀行などの債権者と直接交渉して裁判所を介さずに私的な交渉で債務を減らしていくという事です。

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そして事業再生ADRでは取引金融機関と債務免除や猶予について行われるものであり、既存の取引先や挙式を行う予定の顧客に対しては影響の出るものではないとしています。

あくまで金融機関との交渉なので、通常の営業活動は滞りなく進めるよって事ですね。

また、今後は興和に1株40円で5千万株で20億円出資して大株主となってもらったのちに500万株を1株とする株式併合を行うようです。

それによって既存株主は1株に満たない端株を持つだけの株主となるために、会社法上の規定にしたがって売却され、今持っている1株当たり180円を受け取ることになるという事ですね。

そしてその結果、興和が単独の株主となるようでワタべウエディングは上場廃止となるようです。

現在の大株主である千趣会や受泉といった会社は株式の1部の無償譲渡を行い実質的な受領金額は1株40円ほどになるようです。
少数株主に一応の配慮した形ですね。

ちなみにですが現在1パーセント程度をもつ大株主にZOZO創業者の前澤友作さんがいるようです。
調べてみたところ大量保有を出したのは今年の3月に入ってからのようで最近投資したばかりのようですから、なかなかの早さで投資の失敗をしてしまったようですね。

時価総額から考えると1500万~2000万ほどの損失でしょうから、前澤さんクラスだと大した話ではなく笑い話として回収しそうな感じすらしてしまうのが凄いですよね。

さて続いてはどうしてこの事業再生ADRが必要となったのか見ていきましょう。

それでは業績を見ていきます。

2020年12月期の通期の業績は、売上高が49.6%減の196.8億円、営業利益は11.5億円の黒字→139.8億円の赤字、純利益は7.1億円の黒字→117.4億円の赤字となっており売上は半減して100億円を超えるような赤字転落と大きな業績悪化となっています。

その結果8.6億円ほどの債務超過となってしまっていた事が分かります。

2019年12月期で自己資本比率は44.4%ほどあり、債務超過になるような不安定な経営には見えませんが、総資産が250億円ほどの企業ですから、その企業が100億円もの赤字と新型コロナの悪影響の規模の大きさが分かります。

もう少し詳しく業績を見ていきましょう。

ワタベウェディングの事業セグメントは①リゾート挙式事業②ホテル・国内挙式事業と2つあり、それぞれの事業の業績の推移は
①リゾート挙式事業:売上82.9億円(63.0%減) 利益45億円の赤字→45億円の赤字
②ホテル・国内挙式事業:売上113.7億円(59.5%減) 利益65.5億円の赤字→65.5億円の赤字

となっており両事業とも大きな業績悪化となっています、ウェディング自体が大きく減少してしまいましたから当然といえば当然の結果ですね。


リゾート挙式に関しては海外への渡航が難しくなる中で、挙式自体の履行が難しくなった、国内挙式に関してはGoToで一時的な回復はあったようですが、年末以降は再び業績が低迷したとしています。

結果としてリゾート挙式は挙式組数が71.4%減、国内挙式は54.3%減と非常に低迷してしまっています。
そして国内に関しては単価が13.0%減となってしまっています、大規模披露宴などを行う事がなかなか大変な空気感ですから、小規模化による単価下落が起きていると考えられますね。

今後に関しても、海外挙式はもちろんしばらくの間回復しないでしょうし、国内挙式に関しても組数の減少に加えて単価下落の悪影響が続きそうですから業績回復というのはそうとう時間がかかりそうです。

そんな中で財務状況はどうなっているのでしょうか?

現金もしくは現金化が容易な資産としては、現預金は91.9億円、売掛金は7.2億円、流動資産全てでは131億円ほどある事が分かります。

一方で流動負債は243.3億円と資金繰り的には容易な状況ではなく、その中でも短期借入金が178億円と多額の借入負担によって財務状況は苦しくなっているようです。

2019年12月末には12億円だった借入が178億円まで166億円ほど膨らんでいる事が分かります。
コロナの悪影響がどれほど大きかったか分かりますね。

具体的には2020年の4月にはコロナ融資として130億円、11月には追加で30億円を受け入れたようです。
ちなみに短期借入金は1年以内返済の借入の事を言います、つまりこの4月に受けた融資に関しては1年期限だったと考えられその返済期日が目前に迫っている状況だという事ですね。

なので、業績回復の目途が立っておらずこれ以上の融資を受ける事も難しい中で、今回事業再生ADRによる債務整理が必要になったという事ですね。

そもそもワタベウェディングはコロナ前は財務状況は悪いほうではありませんでした、例えば2019年12月期の段階ではキャッシュフロー対有利子負債比率は1.3年となっています。

単純に言うと1.3年稼いだ分を返済に回せば有利子負債全部返し終えられるよって事です。

しかし今回借り入れ負担は160億円ほど増加していますのでこれが大きく悪化したわけです、この借り入れ負担がコロナの影響が明けた後にどれほど響く規模の物なのか見ていきましょう。

コロナ融資という事で借入の利率がどの程度なのか見当がつきませんが、とりあえず少なく見積って利率が年利1%だとすると1.6億円の利息負担が出ます。

営業キャッシュフローは前期の段階で18.3億円ほどですから利払いが1.6億円増加すると営業キャッシュフローは16.7億円ほどになります。

借入は全てで185億円ほどありますから、キャッシュフロー対有利子負債比率は11年ほどになります。

つまりコロナの影響が無くなったとしても、キャッシュフロー対有利子負債比率は10倍ほども悪化してしまった状況で、今後11年間分の得たキャッシュを全て返済に回してやっと有利子負債が返しきれるといった水準になってしまったという事です。

またもちろん業績を維持するためには設備投資も必要です。
前期の投資キャッシュフローはマイナス20億円ですから、今後投資を抑制したとして半分の10億円に抑えたとしても、フリーキャッシュフロー(営業活動の中で得られた資金から投資分を引いたもの)は7億円ほどになるという事です。

となるとざっくり投資を抑制し続けても返済まで25年ぐらいはかかるという事です。

少子高齢化、未婚率の上昇、結婚式をしないという選択肢も一般化している中で挙式数自体が減少していくでしょうから、投資を抑制すれば業績維持も難しいですし、持到底返しきれるような水準の借入ではない事が分かります。

この点から考えても債務整理をしなければ、どのみち立ち行かなくなる状況だという事が分かると思います。

そして同じようにコロナの影響が強く出てきた4月~5月頃に大規模な借入を行った企業は多いです。

そういった企業も返済期限を迎え始める中で今後は倒産や債務整理といった形が増えてくるのではないでしょうか。

またコロナ融資で融資の基準が明らかに緩和された中で、ワタべウエディングのように返済しきれない、数十年規模の借入負担を増やして一生かかって返せるかどうかといった水準の借入の企業もふえています。

コロナの影響が無くなればという事を考えている企業が多いでしょうが、その後には金融機関側も正常化していく動きが起きてくると考えられます。

その際にどのような措置を取っていくのか、倒産や債務整理のような事が増えるのか、ガラガラポンが起きるのか、それとも公的な介入が起こるのかどうなるのかは分かりませんが、注目して見ていく必要がありそうです。

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