日本ペイントHDの決算から考える今後の業績と、どうしてシンガポール企業の子会社となったのか

どうもコージです!
私は、毎日決算書を読んで企業の未来を妄想しています。
そんな私が決算書の中で面白かったポイント、未来への妄想ポイントを説明しています。

今回見ていくのは日本ペイントホールディングス株式会社です。
その社名の通り塗料の販売をしている会社です。

さてこんなニュースがありました。

日本ペイント、シンガポール社による買収発表
2020/8/21 14:37
日本ペイントホールディングスは21日、シンガポール塗料大手のウットラムグループの子会社になると発表した。2021年1月に実施する第三者割当増資をウットラムが引き受け、出資比率を現在の39%から58.7%に引き上げる。ウットラムの取得総額は約1.3兆円になる。両社一体でアジアの需要を取り込み、欧米の塗料大手に対抗する。

ウットラムの子会社になった後も上場は維持する。増資などで調達した資金でウットラムとアジア各地に設けた合弁会社を子会社化する。ウットラムのインドネシアの塗料子会社も買収する。

ウットラムは華僑系の企業グループで塗料事業のほか、不動産や投資事業を手掛ける。塗料の売上高は年2千億円弱とみられる。日本ペイントは塗料の国内最大手で19年12月期の連結売上高は6920億円だった。自動車や建築用塗料に強みを持つ。

両社は1960年代から塗料事業で協力関係にあった。合弁会社を通じてアジア事業を共同で展開してきた。中国やマレーシアではトップシェアを持つ。日本ペイントはアジアを中心に海外に幅広いネットワークを持つウットラムと一体で海外展開を加速する。

どうやら日本ペイントはシンガポール企業である、ウットラムの子会社となり、その一方でウットラムとのアジア各地の合弁企業は完全子会社化し、ウットラムの完全子会社であるインドネシアの塗料企業も買収するようです。

今回は日本ペイントHDがどうしてウットラムの子会社となり、逆にウットラムの子会社や合弁会社を日本ペイントの完全子会社化していくのかについて考えていきましょう。

それではまずこちらの資料をご覧ください。

売上高は10.6%増の3454億円、営業利益は17.3%減の346億円、純利益は14.4%減の263億円と増収減益となっている事が分かります。

増収ながらも減益となってしまった要因としては、豪州やトルコで塗料メーカーを子会社化したことによって売上高は増加したものの、新型コロナによる影響で収益性が悪化したためだとしています。

という事は子会社を増やしたことによる増収であって、実質には減収減益だったと考えられますね。

もう少し詳しく売上と利益の内訳をみていきましょう。

日本ペイントは①日本②アジア③オセアニア④米州⑤その他と地域ごとにセグメントを区分している事が分かります。

各地域ごとの推移は
①日本:売上901億円→757億円 利益274億円→53億円
②アジア:売上1777億円→1504億円 利益256億円→212億円
③オセアニア:売上0→668億円 利益0→83億円 (豪州企業買収によるセグメントで前期はゼロ)
④米州:売上377億円→327億円 利益26億円→11億円
⑤その他:売上67億円→196億円 利益4億円の赤字→9億円の黒字(トルコ企業買収によって大幅に増加)
となっており主要市場の①日本②アジア④米州では業績が悪化している事が分かります。

その一方小規模なセグメントである③オセアニア(豪州塗料メーカー買収によるもの)⑤その他(トルコ塗料メーカー買収によって大きく増加している)ではしっかりと利益を出せており、買収に関してはそれなりに結果を出せている事が分かります。

買収金額としては豪州が3005億円、トルコが2億4,600万ドルで現在の為替レートだと約260億円ほどですから、もちろんこの金額を回収出来なければ成功とは言えませんがとりあえずは新型コロナ禍でも利益への貢献はできているというのは一定の評価が出来そうですよね。

続いては主要な市場である①日本②アジア④米州で業績の変化についてもう少し詳しく見ていきましょう。

まず日本ペイントの製品区分としては1.自動車用、2.汎用(建設工事やDIY向けなど)、3.工業用、4.ファインケミカルとあり、日本市場ではすべての売上が
大幅に減少しており、トータルでは23.6%もの減少となっている事が分かります。

特に自動車向けは51.7%というものすごい落ち込みを見せています。

続いてアジア市場の中で大半を占めている中国に関しては、自動車や工業用は落ち込みを見せる一方で汎用は建設工事の再開によって7.9%の増加を見せておりトータルでは実質ベースで9.6%増となり完全に回復していることが分かります。

投資の意思決定が必要な建設工事がもうプラスに転じていますし、最近だと武漢でのナイトプールでのイベントが話題となりましたが、国民のマインド的にも中国の経済的強さを感じます。

他のアジア各国では、日本よりはるかに強力な都市封鎖が行われていた影響で実質的に34.5%の減収となっている事が分かります。
タイでは自動車工場の停止が続いた事も大きな減収要因のようです。

米州は実質ベースで23.6%減で、特に自動車が63.6%と物凄い落ち込みを見せる一方で、汎用(建築)は5.7%の下落に収まっている事が分かります。
日本と違いロックダウンで経済を完全に止めていた割には回復が早い印象ですね。

まとめてみると、日本以外の国では建築用や、DIYなどに使われる汎用の塗料の回復が早く、自動車に関しては各国で大きな落ち込みを見せている事が分かります。

日本ではアメリカなどと比べると新型コロナの被害自体はかなり小規模で済んでいますが、長期的に経済の停滞感がある事や、投資の資金力や意思決定権を持っているのが重症化リスクの高い高齢者層に多いということからマインド面の問題で建築用の需要回復が遅れる事になるのではないでしょうか。

この決算で日本ペイントは業績の上方修正をしたのですが、続いてはその前提となる見通しがどのように変化したのかを見ていきましょう。

中国では、全体で5~10%減の見通しから0~5%減の見通しとなり良化している事が分かります。
特に汎用(建築用)は増加の見通しとなるなど見通しがかなり良化しているようです。

また最大の減少見通しとなっているのは自動車の10~15%減だという事も分かります。

日本では全体の見通しが5~10%減だったところから10~20%減の見通しと悪化している事が分かります。
そして日本も最大の減少見通しとなっているのは自動車です。

米州は15~25%減の見通しから5~10%減の見通しまで良化している事が分かります。
そして米州でも最大の減少見通しとなっているのは自動車です。

続いてはこちらの資料をご覧下さい。

当初にも書きましたが、シンガポール企業のウットラムの子会社となる一方で、アジア各国の合弁会社を完全子会社化しインドネシア事業も完全子会社化している事が分かります。

日本ペイントは、今回の一連の動きはこのアジア事業とインドネシア事業の完全子会社化が目的だったとし、ウットラムが日本ペイントを子会社化するためのものではなく結果的にそうなったものだと発表しています。
さらに将来的な増資によってウットラムの子会社ではなくなる可能性もあるといっています。

また新たに子会社化するインドネシアでは経済成長が続きますから今後も建築需要が大きく伸びそれに伴い塗料市場が拡大する見通しだとしている事が分かります。

という事で、今回シンガポール企業の子会社となってもアジア事業とインドネシア事業を欲しがった理由がみえてきます。

主要市場の1つである日本では、業績の悪化が他国と比べ大きく、人口減少と高齢化の中で建築需要も回復が遅く見通しも唯一悪化傾向にある。

一方中国やアメリカなどの経済成長が続いている国では汎用塗料(建築用塗料)が堅調で業績の下落は小さい、もしくは上昇しており見通しも良化している。

さらに収益源の柱の一つである自動車向け塗料は、各国市場で新型コロナの影響を大きく受けているうえに、今後は自動運転とともに自動車需要の減少が予測されている。

という事は、日本以外の成長が続く地域で自動車以外の柱を作りたいという状況にあるでしょう。

なので建築需要が旺盛で今後も成長が予想されるアジアやインドネシア企業を完全子会社化するという動きに出たと考えられます。

という事で日本市場と自動車向けが足を引っ張り、しばらくの間は業績の悪化が続きそうですが、長期的には成長市場での建築需要の増加によって業績が向上していく可能性は十分にありそうです!!

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