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“ロスジェネ世代”が会社の枠を飛び越えて、業界を変えるー伊藤昌明(建設コンサルタント/「建設コンサルタンツ協会 若手の会」発起人代表)

普段、我々が”当たり前”に道路や橋。

それを日々、私たちの安全・安心・快適を考えて、建設し保守してくれているのが、建設業界の皆さんです。

その道路や橋をどこにどんな形でつくればよいか、調査したり設計したりしているのが建設コンサルタントです。よく知られているのはゼネコンだろうと思いますが、ゼネコンは施工している、つまり実際にモノを造っている存在なんです。

建設業界って、3K(きつい・きたない・危険)のイメージ、旧態依然とした保守的なイメージが強いですよね。

そんな業界に、今、新しい風をもたらしているのが、伊藤昌明さんです。

伊藤さんは本業の建設コンサルタントのかたわら、2015年に「建設コンサルタンツ協会 若手の会」を設立。全国の建設コンサルタント企業に努める同世代のネットワークを構築し、保守的だった業界に変革を起こそうとしています。

今回はその業界の”闇の部分”を変えるべく立ち上がった伊藤さんのストーリーと、複業で社外活動をする意義、そして、”ロスジェネ世代”が起こそうとしている”変革”についてお伺いしました。

<Profile>

伊藤昌明

建設コンサルタント/「建設コンサルタンツ協会 若手の会」発起人代表

2001年 株式会社オリエンタルコンサルタンツに入社し、建設コンサルタントの道へ。2017年からグループ会社の株式会社エイテックに出向し、経営企画リーダーとなる。全社経営戦略、事業戦略、採用戦略、ブランディング等を担当。2015年から社外活動で「建設コンサルタンツ協会 若手の会」を設立し、若手の力で業界活性化のムーブメントを興すべく、精力的に活動を行う。そのほかにオンラインサロン建コンアップデート研究所の共同発起人や、土木学生有志Doboku-Labアドバイザーとしても活躍中。

”闇の部分”も含めて、業界のリアルを見える化し、業界の課題を解決するために若手主体でアクションを起こしていく。


ー伊藤さんは本業と並行して、社外活動として「建設コンサルタンツ協会 若手の会」発起人代表としても活躍されています。「若手の会」を発足したきっかけはなんだったんですか?

まず、10年後20年後に向けて建設コンサルタント業界をいかに魅力的にしていくか。この命題を考えているのが、現状、白髪混じりの現経営層ばかりなんですよね。それを危機的に感じたんです。10年後は僕たちの世代が経営者の立場になりますよね。僕らの世代が業界の明るい将来像を描いて、現時点からその実現に向けて行動しないと、いざ10年経った時に「あれ?他の業界より遅れてない・・・?」ってことになるんじゃないか、と思ったんです。

そのために、「若手の力で業界活性化の一大ムーブメントを興す」をミッションに、共通の思い、価値観を持つ他の企業の仲間とつながり、①”闇の部分”も含めて、業界のリアルを見える化する。②業界の課題を解決するために若手主体でアクションを起こしていく。この二つを目標に掲げた「若手の会」を発足させました。

ー”闇の部分”や”業界の課題”ですか。ぶっちゃけ、建設コンサルタント業界はどんな問題を抱えているんですか?

やっぱり長時間労働の問題は根強く残っていますよね。近年の働き方改革で以前に比べれば劇的に改善されているのですが、例えば発注者から急な仕事を振られたり、国会対応があったりすると深夜残業や休日出勤になることもあります。なかなか長時間労働の問題解決は難しいです・・・。それに、なによりも問題なのは、建設コンサルタントは長時間でめちゃくちゃ大変で、就職したくないという認識が土木を学ぶ学生にも根付いちゃってるんですよね。その解釈は変えていかないといけないと強く思っています。

ーあと、建設業界は保守的なイメージがありますよね。

致し方ない部分はあるんですけど、土木はどうしても経験工学的な要素が強いですし、それも相まって旧態依然としているんだと感じます。変化するのが難しい業界だ、って感覚はありますね。

だからこそ、自分たちの頭で、自分たちの未来について考えていかないといけないと思ったんです。現状に対する不満とか、上層部への不満・不信感というよりは、我々の世代が今、目の前の仕事ばかりしていて、将来をどうしていくべきか、っていう議論をしないことの方が不健全だな、って。

ー「若手の会」は伊藤さん個人の活動になるんでしょうか?

それはちょっと違います。協会の活動は会社から認められているんです。例えば僕だったら「自分の業務時間のうち25%を協会の活動に使っていいよ」ということになっていて。他の会社のメンバーも、業務の一環としてアサインしていますね。完全な個人の時間というわけではなくて、業務時間の一部としてやっています。

ーなるほど。でも、業務時間の25パーセントを使うとなると、周りから反発がありそうなものですが・・・。

設立当初は協会内からも反発がありましたね(笑)「若手が集まって何の成果があげられるんだ」「ただ集まって飲んでいるだけじゃねえか」って言われたこともありますし。

ですが、精力的に活動していると、われわれと思いを一つにする仲間がどんどん増えてきたんです。そして、2年後には協会内の9つの地方ブロックすべてで若手組織が立ち上がるまでになりました。今では、全国で2000人を超える規模になっていますし、業界全体に「やっぱり若手の意見は大事にしなきゃ」って意識が浸透してきているのは間違いないですね。

あと、リクルート主催の「Good Action Award 2017」の受賞は大きかったですね。対外的に認められたことで、周りの反応も変わってきました。

5年たった今では反発はほとんどなくて、むしろ後押ししてくれています。

伊藤さん2

ー複業として若手の会で活動をして、どんなやりがいを感じていますか?

僕は基本的に、知らない世界の人と交流を持とう、という意識の元に活動しています。例えば働き方の先進企業であるサイボウズやGoogleといった先進的な企業の方々の話を聞きながら、その取り組みを業界や自社にどう転用していくか、ってことを常に考えています。他の企業の方々を呼んでイベントをしたりコラボをしたり、勉強会をしたり。それがめちゃくちゃ刺激的なんです。「他の業界ではこんな先進的な取り組みをしているのに、何でうちの業界ではできないんだろう」っていう問い立てから始まって、どんどん議論が活発化していって、それがアクションになり、最終的に実装される。この経験を積んでいくと、自分たちの活動が実際に業界や会社を変えているんだとモチベーションも高まりますし、自分のアイディアで現状がより良くなっていくことが、何よりも一番のやりがいになっていますね。

ー他の業種の方々と交流することによって、自分たちの現状を客観的な視点を持てる、ということですね。

そうですね。自分たちの殻に閉じこもっていたら、業界の良いところも悪いところも見えなくなっちゃうんですよね。外の世界を見ることで、「自分たちの業界って全然イケてんじゃん!」って部分にも、逆に「ここが全然ダメだよね・・・」って部分にも気付くことができる。常に他と比較することでしか自分たちの立ち位置を確認できないと思うんです。ある人から「自分という存在は比較級でしか語れない」という教えを大事にしています。

ーご自身の会社で働き方改革をされて、どんな事例が生まれましたか?

業界の中では浸透していなかったリモートワーク(育児・介護に限らず誰もが利用できる)を3年前に自社で実現できました。その他、同時期に服装の自由化とか、健康経営の推進など、いくつか業界内では先進的な事例を作ることができましたね。僕は経営戦略や人材戦略にも携わっているので「社員の幸せ、エンゲージメントを高めるための取り組みってなんだろう」ということを常日頃から考えていて、「若手の会」で得た知識をまとめて会社で実践しました。やはり、社員の幸せとか、エンゲージメントを高めるものって、会社が一方的に押し付けた制度やルールではなくて、多様な選択肢がありかつ自分で選択できるという状態だと思うんです。そういう環境を作っていければよいなと思っています。

ー伊藤さんご自身は、他の取材記事を見ると、新卒の時にTシャツ姿で出勤したり、カフェで仕事をして上司に怒られたりしていたんですよね。昔から根本として業界然りとしている固い雰囲気を変えたい潜在意識があるのでしょうか?

現状を変えたいという思いよりかは、自分がやりたいようにやらせてもらいたい、っていう思いが強いんです。そうやって自分の決めて行動してきて、今幸せな状態で働いています。なので、自分が行動して得た情報を周りの人に与えてあげることで、その人の価値観や考え方に変化をもたらして、結果的にその人の行動が変わったり、幸せそうに働いてくれたり、「ありがとうございました」って言ってくれたりすると、めちゃくちゃハッピーな気持ちになるんです。周りからのリアクションは大きなモチベーションになっています。「ありがとう」って言われることで、自分っていい影響を与えられているという自己肯定感も得られるし、何よりもっとハッピーな気持ちになるために、もっと自分の知らない情報を得ようと行動するようになっています。それって、結果的に自分自身の成長にも繋がっています。

ー色々な人と交流して、知識をインプットしていくことが、自分自身の成長にも繋がるんですね。

そうですね。でも、僕の場合はそれをインプットしているだけでなくて、「若手の会」を通してアウトプットもしている点で恵まれているなと思っています。例えばイベントを一回開催するのにも、色々な決断をしなきゃいけませんよね。組織を動かすには、メンバーはもちろん、協会全体の同意も取る必要がある。意外と自分の会社で働いている時って、そこまで大きな意思決定する機会ってなかなかないんですよね。

伊藤さん3

”ロスジェネ世代”が情報発信をする土壌が生まれつつあって、それを上の世代が新しい風として認めようとしている。


ー伊藤さんはどんなところに複業の面白さを感じていますか?

僕の場合は元から金銭的報酬が目的ではないので、仲間とつながるとか、経験値を増やすとか、本業に活かせるとか。つまり、「若手の会」が自分が成長できる場であるという非金銭的報酬を得られる点は面白さを感じていますね。

ー今後の夢や目標はありますか?

実は・・・特にないんですよね(笑)。夢や目標をきちっと決めないでおこうと意識的にしています。最近、僕は「計画的偶発性理論」にハマってますね。

ーええ!そうなんですね。「若手の会」の活動ってビジョンや理念を持っているし、自然と目標が生まれそうな活動ですよね。なぜあえて、目標に固執しない「計画的偶発性理論」を掲げているんですか?

そもそも、「若手の会」を立ち上げた時から、壮大なビジョンや理念は特になくて(笑)同じ価値観を持っている仲間と集まって、会話することが大事なんですよね。で、そこから色んな議論をして、色んな業界の方々と交流する中で、どんどんやりたいことや目標は変わってきたんです。

ー「計画的偶発性理論」をキャリアに取り入れるようになって、身の回りにどんな変化がありましたか?

間違いなく人とのつながり、縁が増えましたね。例えば自分でゴールを決めて、自分でルートを定めてしまったら、出会いの範囲も狭まってしまいますよね。でも、自分の中に”一本の軸”を持って、自分の興味を持った世界に飛び込んでみれば、縁って思いもよらない大きさで広がっていくんです。僕の場合、その”一本の軸”が「計画的偶発性理論」なんです。

ーなるほど。偶然を頼ってキャリアを広げてみるのも選択肢としてアリなんですね。

そうですね。会社で働いていると、自分の将来像に追い詰められたりする人も多いじゃないですか。将来が見えないから悩みを抱えてしまったり。この間コーチングの講義を受けたのですが、実は日本人の80%は自分のビジョンを持っていない、っていうデータもあるそうなんです。欧米のようなビジョン先行型の考え方は日本人には合わない。日本人の場合は過去の強烈な実体験に基づいて、自分の「やりたいこと」を身につけるのが性に合っているらしいんですよね。それなのに、会社の掲げるビジョンに盲信的に従っていて自分の「やりたいこと」を見失っているのが、今の日本社会の現状なんじゃないかと感じています。

ー例えば本業では会社のビジョンに添いつつ、複業では「計画的偶発性理論」に基づいて自分の活動ができると、新しい道がひらけそうですね。

その通りですね。僕は「アクションなくしてリアクションなし」って言葉を自分自身の基本にしています。これも計画的偶発性理論の主旨に一致すると思いますが、なによりもまずは一歩踏み出さない限り、身の回りの環境は何も変わらないんですよね。まずはアクションしまくって、失敗を恐れずに数打ってみる。最初からどんな活動が自分の成長に繋がるか、なんて考えてもあまり意味がないんです。なので、その時間があるならアクションしてみる。いわゆる「PDCA」ではなく、「DCPA」で行動するようにしています。

ーなるほど。

あと大事なのは、「なんのためにその活動をやっているのか」を自分の中に明確にしておくことです。それがないと、効果が薄くなってしまうし、情報だけいっぱいになって処理しきれない、なんてことにもなりかねない。僕の場合は「自分が成長するため」ってことを常に考えていますね。もちろん、会社や業界にいかに還元するかもセットで。

ー「若手の会」のように会社の枠超えた活動を「とりあえずスタート」させてみて、業界がクリアになれば、結果的にいい人材や若手が入ってくる土壌もできますよね。

自分たちがアクションしている姿を、業界内の若手世代や土木を学ぶ学生に向けて情報発信することは意識的にやっています。「若手の会」では、同じ世代の同じ価値観を持ったメンバーとつながり、業界の本質的課題である”闇の部分”をあぶりだし、課題解決に向けてアクションを起こして、しかも、外の世界にもネットワークをつくってきている。僕らの世代が10年後に業界を背負う立場になったら、自ずと強烈なチームになりますよね。もしかしたら、今よりも将来的に生み出される価値の方がすごく大きいんじゃないかと思っています。

ー若手が夢を持てる業界に変化していくと、社会的にもいい流れを生み出せそうですね。

そうですね。業界や会社が変わるということは、自分たち一人ひとりが変わることの総和だと思います。結局人の集合体が会社や業界ですからね。

土木という仕事は道路や橋を作る事業です。道路とか橋って”当たり前の存在”なんですよね。安全に使えるのが当たり前。毎日使えるのが当たり前。あまり日の目を見ない分野ではあるんです。でも、その”当たり前のもの”を作っている人たちがより幸せになれば、サービスの質はより高まるはずだし、そうすると世の中にも笑顔が増えるんじゃないかな、と。

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ー今後「若手の会」のような会社の枠を超えた団体活動は増えていくと思いますか?

間違いなく増えるでしょうし、今すでにその流れは盛り上がっていますよね。他の業界ではONEJAPANのようなめちゃくちゃ大きな若手有志団体もありますしね。また、国土交通省でも、中堅の職員が中心となって道路のビジョンを作って発表したり、経済産業省や農林水産省でも中堅若手の発信が話題になっていますよね。特に今は情報発信の媒体はものすごい数存在しているし、個々人の発信の影響力は大きくなっている。時代の流れを感じますね。

ー終身雇用の崩壊が叫ばれたり、個人が会社に100%依存できる時代ではなくなると思います。その中で会社を超えて業界団体を作るのは新しい流れになりそうですね。

そうですね。業界団体は多いのですが、若手が主体になった組織というのが多くないし、逆にもったいないと感じますね。我々の世代はいわゆる”ロスジェネ世代”ですし、今までのやり方で本当に大丈夫なのかと、疑問を持っている人が多いんだと思います。これからの時代を生きていかなきゃいけない当事者ですし、僕らの世代で「なんとかしないと」って危機感があるんだと思います。

ー”ロスジェネ世代”はネガティブなイメージが根付いている面もありますよね。

ええ。でも、その世代が年齢を重ねてきて、決定権がある世代になりつつあるんですよね。”ロスジェネ世代”が情報発信をする土壌が生まれつつあって、それを上の世代が新しい風として認めようとしている。それが重なって露出も多くなってきているんですよね。そう考えた時に、”ロスジェネ世代”をキャッチーな言葉として使ってもいいのかな、って。

ネガティブなイメージを持たれていた“ロスジェネ世代”が、会社の枠を飛び越えて、世の中を変えるようになる。それってすごく面白いですよね。



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