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駐在妻は”ブランク”なんかじゃない。”価値”のある経験なんです。ー三浦 梓(駐在妻/人事コンサルタント)

皆さんは”駐在妻”って言葉、聞いたことがありますか?

駐在妻は旦那さんの転勤に伴って、海外へ帯同し、そこで生活する奥さんたちのこと。

今回インタビューをした三浦梓さんも、旦那さんのブラジル転勤を機に、ブラジルへ帯同した駐在妻のひとり。

ブラジルへ行く前は何社もの企業と契約するバリバリのフリーランスだったという三浦さん。しかし、ブラジル行きが決まってから「自分ってなんの価値があるんだろう」という悩みを抱えてしまったそうで・・・。

そこから立ち直った三浦さんは、現在、「駐在妻の価値」を発信するために精力的な活動を行なっています。

三浦さんの言う「駐在妻の価値」とは?

優雅な生活をしているイメージがある駐在妻の現実と、キャリアの悩みについてお伺いしました。

<Profile>

三浦梓

駐在妻/人事コンサルタント

茨城県出身。大学院卒業後、株式会社リクルート(現リクルートホールディングス)に就職。営業、商品企画、人事と計10年勤務。退職後、A.T Kearney株式会社に人事責任者として就職。その後独立し、フリーの人事コンサルタントとして活動し、ベンチャー企業の経営陣採用や新卒、中途の採用設計から運用まで幅広く関わる。面接した人数は合計1万人以上にのぼる。また友人と会社を立ち上げ、COO就任。

2020年1月末に夫の海外赴任に帯同しブラジルへ。現在は、世界中の駐在妻・元駐在妻・プレ駐在妻を応援し、共に成長するコミュニティ『駐妻キャリア net』の代表として活躍中。転職ノウハウブログ『駐妻 本気の転職術』を執筆。話し方研究所プロフェッショナルインストラクター。慶應義塾大学大学院SDM研究科研究員在籍中。

ブラジル転勤への帯同が決まってから「自分ってなんの価値があるんだろう」って考えちゃって。


ー三浦さんはブラジルで駐在妻をしながら、パラレルキャリアをされています。駐妻キャリアnetの運営メンバー業務、慶応義塾大学大学院SDM研究科起業デザインラボの運営、人事コンサルタント・・・など、ものすごく多彩ですね。

それと、メンターの資格講座と在宅PR塾にも通い出しました(笑)ゆくゆくはメンターの仕事と、在宅PRの仕事も複業にしていく予定です。

ーええ!そうなんですか!バイタリティにあふれていますね。三浦さんがブラジルでもパラレルキャリアをしよう、と思ったのは何かきっかけがあったんですか?

ブラジルへの引越しを仕事関係者に伝えて、週に5日常駐していた企業人事の契約終了が決まった時にふと、「自分は何者だ」という喪失感を感じたことがきっかけですね。

ー「何者だ」ですか。

そうです。それまでは、それこそ週7日ずっーーと仕事のことを考えていたんですよね。「会議の資料どうしよう」とか「次の戦略どうしよう」とか。それが全部、目の前からパツっとなくなって、急に暇になってしまったんです。そうすると「自分ってなんの価値があるんだろう」って考えちゃって。

ー三浦さんにとって、仕事がご自分のアイデンティティでもあったんですね。

そうですね。だから、仕事を手放すことが自分自身の喪失感にもつながったんです。まあ、それでも、悩んだのは3日間くらいでしたけどね(笑)

ーえ、3日間だけですか!?

ええ(笑)「悩むだけ悩んだからあとは這い上がるだけ」だなと。私、子供の頃から「悩んでも何も解決しないから、あとは行動に移すだけ」という信条を持っていて。だから、3日間で気持ちを切り替えて、ブラジルに引越ししても続けられる仕事と、ブラジルに行くからこそできる仕事に分けて考えてみました。

まず、慶応義塾大学大学院のSDM研究科起業デザインラボの運営と人事コンサルタントとして企業人事に関わる仕事は、ブラジルにいても遠隔でもできるので、日本から継続することにしました。

三浦さん2

ーでは、ブラジルに行くからこその仕事というのは?

『駐妻キャリアnet』の運営ですね。まず、ブラジル行きが決まった時点で、「駐在妻×キャリア」で、私に何かできることがあるだろうか、と考えたんです。人事コンサルタントなりの新しい切り口で、駐在妻のキャリアに関わることができるんじゃないか、と。そこで、「駐在妻 キャリア」で検索してみて引っかかったのが『駐妻キャリアnet』だったんです。これだ!と思って、創業した方にすぐ連絡し会いに行きました。

ー三浦さんのように海外に帯同してキャリアを築き上げるのはなかなか難しいと思います。腰が引けたりはしなかったんですか?

腰が引けることはなかったですね。ただ、気にしたことはあって。日本でフリーランスの仕事をしていたままの精神で、地域の駐在妻の会話に入っていったら、「いや、私は働きたくないから旦那の仕事についてきているんだよね」って話す人もいたりして。キャリアの話をするとその場の空気がシーンみたいな(笑)ここではタブーな話なんだと実感する。そういったジレンマは感じましたね。

ーいきなりブラジルの生活がスタートして、普通だったら簡単には気持ちを切り替えられないと思いますが・・・。海外でキャリア形成するには相当な覚悟が必要ですよね。

はい、覚悟はして行きました。ただ、私の場合、ブラジル行きは自分のプラスアルファにもなると、前向きに捉えましたね。子どもの頃から、世の中に何かしらの業績を残したい、って思っていたので、ブラジル行きもチャンスだな、と。

ー今はご主人の仕事を支えつつ、ご自分のパラレルキャリアもされているんですか?

そうですね。主婦業もこなしつつ、仕事で悩む夫に「あなたは十分頑張っている!大丈夫!自信を持って」など、臨機応変に言葉をかけて、精神面をサポートしています。

ー今は家事と両立してパラレルキャリアの時間を確保しているんでしょうか?

そうですね。でも、最近はパラレルキャリアの時間の方が家事よりも比重が大きくなってきました(笑)というのも、ポジティブなマインドを保つためには、自分がイキイキとしてるのが大切だな、と気がついて。私の場合はイキイキとした気持ちは仕事から生まれるので、主婦業とパラレルキャリアの時間の使い方は意識的に工夫していますね。毎日家事の予定をスケジューリングをしたり、夫とはホワイトボードを使って情報を共有したり。あ、「シュハスコパーティ」ってご存知ですか?

ーシュハスコパーティ?聞いたことないですね。

「シュハスコパーティ」は、いわば地域コミュニティのバーベキューパーティみたいな感じなんですけど、そこでは家族ぐるみの付き合いがあるんですね。駐在妻をする上で、地域コミュニティとの触れ合いってめちゃめちゃ大事で。そこに参加するかしないかで、生活する上での情報量が全然違ってくるんです。旦那さん同士の悩みを共有できる場でもあるし、横の繋がりを作る場でもある。私にとっても夫にとっても意義のあるイベントだから、もしシュハスコパーティに誘われたら、予定のすれ違いがないようにホワイトボードに書くようにしているんです。

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ーでも、駐在妻の方々って優雅に生活してるイメージがありますよね。マッサージやランチに友人たちと出かけて、プールサイドでカクテル、それをFacebookにアップ!みたいな。

いやいやいや。実際はかなり泥臭いんですよ(笑)実際の駐在妻は、言葉も文化もわからない環境で必死に生き抜いています。スーパーでの買い物の仕方や、現地で強盗に狙われないようにするには何を気をつけるべきか、駐在妻コミュニティ内での振る舞い方とか知らないと、大変な思いをするし、このコミュニティで生きていけない。日々、人間関係構築力と適応力が必要だな、と実感しています。現地での優雅な生活をイメージをして現地に行っても、現実にぶち当たって悩みを抱えちゃうこともあるのはこの所以だと思います。

ー駐在妻の方々が抱える悩みというのは具体的にどういったものなのでしょうか?

キャリアの断絶に悩みを抱える方は多いですね。特に駐妻キャリアnetの会員の方は今まで「仕事仕事仕事ー!」って生きてきた人たちで。それがぷつっと切れたことで、以前の私と同じように「自分の価値っていったい何?」って悩んでいるんですよね。

ー再就職するにも駐在妻期間は日本の企業的にはブランクと捉えられるのでしょうか?

私が人事をやっていた観点からすると、伝え方によってブランクになるのは事実です。しかし、ブランクがあるから採用しません、ということでは決してないんです。ただ、そこで苦労する人はやっぱり多い。その理由は二つ。一つは駐在妻の”現役感のなさ”。仕事から離れていると、会話や仕事を進めるスピードなど仕事の感覚はどうしても失いがちになってしまいます。二つ目は”自信のなさ”ですね。自分の実績がアピールに繋がらない。「3年間特に何もやっていなかったんですけど・・・」って面接で言っちゃったら、3年間の駐在妻の経験が全く活かされませんよね。駐在妻が遊んで優雅に暮らしていると思われがちな面を逆転して、”駐在妻の価値”をアピールすれば、全くブランクにはならないどころかプラスに働きます。

ー”駐在妻の価値と”いうと?

二つあります。「適応力」と「アンラーニング力」です。

「適応力」は限られた地域のコミュニティに入って、円滑にそのコミュニティの中で生き抜く力。現地のコミュニティは会社よりも断然狭いので、そこで自分を主張しすぎず、バランスとりながら順応していく能力のことですね。

「アンラーニング力」は今まで当たり前だった価値観をリセットして新しい文化にも馴染む力のことです。駐在妻は日本ならではの固定観念を、現地の生活常識に合わせ直す必要があるので、「アンラーニング力」が自然と身につくんですよね。

ーでも、どうやってアピールしたら企業で評価してもらえるのでしょうか?どこか漠然としているというか・・・。

そこでさっきのシュハスコパーティなんですよ!シュハスコパーティで30人の幹事をやっていました、とか、具体的な例を上げてスキルをアピールして、現役感を保つのが何よりも大事なんです。

ーシュハスコパーティの幹事の経験を、”仕事の価値”までグレードアップする、ということですね。

そうですそうです。だから、私は駐妻本気の転職術というブログで「駐在妻はブランクじゃない」「駐在妻は価値のある経験です」というメッセージを発信しています。実際に「勇気をもらえました」「ブログを読んで泣きました」「再就職で悩んでいたけど、ぜひ相談したいです」というコメントが届きました。「これが私のやるべきことなんだ」という使命感が湧いてきましたね。

三浦さん4

自分の価値は自分で上げられるんだよ、というメッセージをこれからも発信していきたい。


ー三浦さんの今後の目標を教えてください。

駐在妻と日本企業のマッチングサービスをしたいと思っています。例えばさっきのシュハスコパーティなど、人事的な観点がないと、仕事レベルまで価値を引き上げるのはやっぱり難しいんです。だから、駐在妻で仕事を希望する人がいたら、生活の経験の中からその価値を引き出して、現役感を保った状態に会話して、仕事をマッチングする。その事業を友人と立ち上げようかな、と思っています。

駐在妻って企業からは「暇してるでしょ」みたいに思われているところがあって(笑)空き時間に誰でもできるような仕事を請け負う”安い労働力”としてしか見られていない部分もある。でも、これからは、高い賃金を払ってでもお願いしたいと思われるように、駐在妻の価値の底上げを目指しています。

ー駐在妻のパーソナルな価値をあげるためには、日本企業自体のマインドも変えなきゃいけませんよね?

そうですね。あと、日本の企業はそもそも仕事の振り方がわからないんだと思うんですよ。業務委託に仕事を作ること自体が企業にとって大変な作業ですしね。だからこそ、実績を作っていくのが大事なんです。例えば「駐在妻は現地調査ができますよ」という実績を作って、企業側にアピールしてみる。食品会社が海外へ進出する場合、現地のスーパーマーケットの売れ筋だったり、現地の人が実際にどんな料理を作っているのかできる限りリアルな情報が欲しいですよね。それは実際のところ日本から1週間出張に行ってもわからないんですよ、でも、駐在妻だったら、何年間もその国に住んでいる人が当たり前にいて、「こんな商品あったらいいよねー」って現地の人とも会話をしている。現地に住んでいるからこそのリアルな意見を企業に上げられるんです。しかも一週間滞在するよりコストもかからない。

つまり、駐在妻の日常は、仕事を生み出すこともできるんです。それをどんどんアピールしていく必要があるんです。

ー下請けに案じていた駐在妻のブランディングでもありますよね。

そうですね。ブランディングをするために、今は駐在妻の方々の専門スキルを整理しています。日本企業なニッチなところを攻めるつもりです(笑)

ー三浦さん自身の価値に悩んだ過去があるからこそ、生まれてきたビジネスですよね。

そうかもしれないですね。日本にいたら思いつかなかったでしょうね。

やっぱり何よりも現役感が大事で、専業主婦も、駐在妻だって、アピールの仕方によって、自分の強みを生かすことができる。自分の価値は自分で上げられるんだよ、というメッセージをこれからも発信していきたいです。


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