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台本冒頭「無関係のジョバンニ」

こちらは2023年上演、妖精大図鑑「無関係のジョバンニ」上演台本の冒頭です。
吉祥寺シアターで上演する作品ということで、舞台奥にあるシャッターで遊ぼうと思いました。世界にある門や扉の伝説をかき集め、シャッターの向こう側には何がある?と想像します。妖精大図鑑ってなんなんだろう。結成10周年の記念に、妖精大図鑑とは結局なんなのか?という御伽噺を書きました。



妖精大図鑑
「無関係のジョバンニ」

黒い舞台、そこにはまだ誰もいない。
舞台奥にはシャッターがある。
長いこと開いたことのないシャッターはダンマリを決め込んでいる。
そこにジョバンニがやってくる。

【序盤にジョバンニ】

ジョバンニ:こんにちは。ジョバンニです。お話の序盤にやってまいりました。序盤にジョバンニです。ご存知の通り、ジョバンニは無関係。このあと、二度と出て来ません。このあとのお話には何の関係もないのです。…不安でしょう。初めて見る舞台でタイトルは大きなヒント、道標です。が、序盤にジョバンニはこれにて終了!ノータッチ!これが世に言う出オチというやつです。始まる前に終わってしまったというわけです。皆さんはノーヒントでこの先の展開にのぞまなくては成りません。羅針盤を奪われて迷宮に放り出されるようなもの…。ですが大丈夫。安心してください!
このあと、お話が中盤戦に入りますと、兄のチューバンニがやって来ます。それでは、皆さんどうぞお元気で。序盤にジョバンニでした!序!(じゃ!みたいなテンションで)

【オープニングダンス】
暗闇の中サスが現れ、そこに妖精大図鑑が降ってくる。通りすがりの人間が現れて拾いあげる。ページを捲ると次の章。風の噂。風が吹いてくる。東風、西風、南風、北風が井戸端会議をしている。四つの方位が提示される。

【風の噂1】
後輩の声:先輩。あの、前から気になってたんですけど、このシャッターって開くんですか?
風達:あ~…

東風:え、このシャッターって開くんですか?
北風:これだよね。
南風:それ自分も気になってました。
北風:いやーどうなんだろ。開いてるところ見た事ないな。
東風:え、北さんも知らないんですか。
西風:ガワだけ残ってるとか?
北風:いやーどうなんだろ。長いこと北風やってるけどさあ、見たことないよここ開いてるの。
東風:余計に気になるな。揺らしとこ。(SE:ガタガタ)
西風:やめろやめろ
南風:開かずのシャッターの向こうには一体何が…?
西風:倉庫?
東風:廃工場?
北風:いやいや、この向こうにはね、もう一つの吉祥寺が広がっているんだよ…
南風:と言いますと?
北風:(怖い話風に)開かないはずのシャッターが、ある時偶然開いている…。あれ?ここが開いてるところなんて見たことないなぁとちょいと覗いてみる…
東風:真っ暗だなあ…何にも見えないや…ん?なんだ?なんかあるのか?
北風:と、ぐっと身を乗り出して覗き込むとグイーーー!引きずり込まれてシャッターが閉まる!
西風:うわうわうわ!
東風:うわ!暗い!怖い!暗い!
北風:出口を探して手探りで歩くと扉があって
東風:なんだ?扉?(ギ~~~バタンとコナンのCMブリッジ音のようなSE)
北風:開けると無事に外…かと思いきや、そこは似ているようでちょっと違う、裏吉祥だったのです…
南風:いい!いいですよ!これはいい噂の予感!(拍手)
西風:風の噂、本日のお題は、開かずのシャッター!
北風:え~、それではですね、人の噂は七十五日と言いますが、風の噂、これはどうでしょうか。本来は風のたよりが正しい日本語でして、風の噂っていうのは間違っている言葉なんですね。でも、間違ってるってご存知でしたか?(残り三風わざとらしくと首を捻る)ねえ!知らなければそこまで!それでは、有る事無い事、尾鰭付き背鰭付き、風の噂はじまりはじまり!
南風:本日初めのお題はこちら。「こんなシャッターは嫌だ」
西風:…はい!
南風:はい西風さん早かった。

【裏タモリ】
裏タモリ:本日は裏吉祥寺に来ております。
アシスタント:早速ですが、裏タモリさん。裏吉祥寺といえば、どんな町でしょうか?
裏タモリ:そうですねえ…やっぱり、取り憑きたい町として有名ですよね?
アシスタント:その通りです。妖怪・幽霊の皆さんから圧倒的な指示を受け、憑きたい街ランキング堂々の一位となっております!
裏タモリ:…やっぱり、鬼門ですか?吉祥寺とか。(寺としての発音)
アシスタント:さすが裏タモリさん!そうです。ここ裏吉祥寺にはいくつも鬼門が存在し、異界へのアクセスがずば抜けているんですね。
裏タモリ:なるほど。
アシスタント:さて…何か気がつきませんか?
裏タモリ:…ん~…さっきも通りましたよね?
アシスタント:やっぱりお気付きでしたか。そうです。さっきも全く同じお店の前を通りました。そしてこの先も永遠にこの通りが続くのです。
裏タモリ:なるほど。一度迷い込んだら二度と出られない、あの裏吉祥寺に来てしまったというわけですね。

【超超超訳天岩戸伝説1】
♪ムーンライト伝説 字幕:超超超訳天岩戸伝説 
この曲が流れると強制的に踊らなくてはならない。伝説の音楽が流れるとここは日本神話の世界、人間が古事記を読んでいる。

ナレーション:超超超訳天岩戸伝説!その昔、天照大神は弟にバチギレて岩の中に引きこもった。天照が引きこもることにより世界は光を失う。暗い!怖い!暗い!不便!集まった神々はけんけんがくがく。どうしたら天照は部屋から出て来てくれるだろうか…(ごめんね♪で曲CO)

神1:どうする?
神2:どうするって、頼むしかなくない?出て来てくださーいって。
神1:でもさ、相当怒ってたよ?!
神2:怒ってたね~。ブチギレてたね…。
神1:謝ってもあれは許してくれなさそうじゃない?
神2:なんか、他のことで気を紛らわせるとか…?
神1:…ってなると一発芸大会か
人間:ん?
神2:一発芸大会しかないね。
人間:ん?
神1:一発芸大会しかない。
人間:え
神2:何がいいだろう?
人間:え
神1:確かこないだアメノウズメちゃんが宴会場をドッカンドッカンに沸かせてたって風の噂を
神2:まじか。じゃあそれだ。ちょっと連絡してみるわ。
神1:そしたら会場とか他の企画とか手配するわ。
神2:オッケー
人間:…え?

神12が解散する。

【暗闇】
人間:…なんだこの話?
暗闇ちゃん:それは妖精大図鑑。
人間:え?……ええとすみません。あの、ごめんなさいちょっと見えなくて…
暗闇ちゃん:ああ、すみません暗闇です。
人間:真っ暗ですね。
暗闇ちゃん:あーそういうことではなく、私が真っ暗なんですね。
人間:ん?
暗闇ちゃん:こんにちは。私、暗闇です。

映像:暗闇ちゃんが目を開ける。

人間:…こんにちは。
暗闇ちゃん:「暗闇ちゃん」と
人間:暗闇ちゃん…
暗闇ちゃん:へっくしょん!
人間:暗闇ちゃーん!
暗闇ちゃん:噂されてるわ~。それかアレルギーなんじゃないかって最近疑ってる。
人間:あー。ハウスダストアレルギー的な。
暗闇ちゃん:そうそう。あ、この後、天岩戸伝説がどうなったか知ってはります?
人間:ぼんやり…?
暗闇ちゃん:アメノウズメがドッカンドッカンにウケて暗闇の世界が笑いに包まれます。そしてその声が気になった天照がまんまと扉を開けます。
人間:まんまと!
アマテラス:何事?!
アメノウズメ:あなたよりもすげー神様がいらしたんですよ。
鏡:私は神特注の鏡です
アマテラス:え?誰?…私?…(よく見ようと乗り出す)
神1:今だー!!引き摺り出せ!!!
アマテラス:え?え?誰?誰ーー?
暗闇ちゃん:こうして、世界に光が戻って来ましたとさ。めでたしめでたし!
人間:本当にこんな話?
暗闇ちゃん:さあ?
人間:さあ?!
暗闇ちゃん:いや~暗闇に明快な答えを求められてもねえ…?それに、その「本当」ってのはどのあたりを指して?本当っていうのは難しいもんですねえ。でもこのお話、暗闇ちゃんはまあまあ気に入ってるんです。だって、一度は暗闇が世界を手に入れたんだって思えるし、窮地を救うのが踊って笑いを取るって…なんかええやん。
暗闇ちゃん:せやな。暗闇の中の、鏡に写った自分をよく見ようとして、こちら側に引き摺り出されるっていうのも好き。これは別の読み方も出来るんやない?
暗闇ちゃん:どないやろね。
暗闇ちゃん:ねー
人間:あれ?これは自問自答か?
暗闇ちゃん:しゃーないやん。暗闇に質問したとて、そこにあるんは鏡やで?
小さな暗闇:せやでせやで~!
暗闇ちゃん:こんなところで目に頼ってもしゃーない。門の中に音と書いて闇。耳をすませば、カントリーロード。

暗闇ちゃんが目を閉じる。映像終了。完全暗転。

暗闇ちゃん:さてここで問題です。ここはどこでしょうか?

カエルの鳴き声、踏切の音、雨が降ってきて海になる。どこかから心地よい音楽が流れてくる。目が慣れてきてだんだんと見える様になっているのか、うっすらとあかりを入れるかしてぼんやりと見える様になってくる。舞台上には人間、そして妖精が居て、人間の持っている妖精大図鑑を奪って去っていく。そこにミノタウロスがやってくる。

【ミノタウロス1】
人間:この音楽…無印良品…?
ミノタウロス:また暗いところに出た!
人間:うわ!
ミノタウロス:うわ!!!!
人間:あ、すみません。
ミノタウロス:びっくりした…うわ、びっくりした…
人間:ええと、暗闇…ちゃんですか?
ミノタウロス:いいえ。違います。
人間:違った。すみません、何も見えなくて。
ミノタウロス:見事な真っ暗闇。
人間:何も見えない
ミノタウロス:…どっちから来たんだっけ
人間:こんなところで目に頼ってもしゃーない
ミノタウロス:なるほど?

(SE:ウッホーウッホーウッホーウッホー)

人間:聞こえました?
ミノタウロス:聞こえた。
人間:…とりあえず、行ってみます?

音の方向に歩いていくと袖の中が微かに明るい。そこに去りながら。

人間:あーちょっと見えてきました。
ミノタウロス:ここは…洞窟?
人間:うわ!ケンタウロスじゃん?!
ミノタウロス:ミノタウロスだ!!

虫の音。カラフルな鳥が鳴き、ここはジャングル。光に包まれる。

【五里霧中1】
天の声:ここはジャングル。霧の中に何か居ますね。ゴリラです。このゴリラはニシローランドゴリラ、学名をゴリラ=ゴリラ=ゴリラと言い、現在、最も生息数の多いゴリラです。おや、どうやら帰り道がわからなくなってしまったようです…。

ゴリラ:ウッホー(エコー:ウッホーウッホーウッホー…)

天の声:仲間からの返事を待つゴリラ。しかし、自分の声が反響するばかり。霧の中のゴリラ。これがいわゆる「ゴリ霧中」です。ゴリラは、どっちに行けばいいのか、さっぱり分からなくなってしまったようです。どちらに住処があるのか…ゴリラは方向を知りたいと願いました。このような、「方向を知りたい」という原始の願い。ここから、人類は羅針盤を発明しました。三大発明の一つと言われている羅針盤。今でこそ当たり前のようにある道具ですが、思いついた人はすごいものです。

昔の人:方向を知りたい…なんかこう、頼りになる…うーん…

昔の人の背後にぬるっと鬼が現れる。

鬼:羅針盤使いな
昔の人:え?
鬼:羅針盤(一度去ろうとする)あ、あとこれ。ラッキーアイテム。
昔の人:あ、ラッキーアイテムどうも…はっ!なるほど…!(羅針盤を注視する)君、これはすごい思いつきだねえ…(振り返るともう居ない)居ない…?

天の声:鬼門とは北東のことを指します。そして南西に裏鬼門。この鬼門もしくは裏鬼門から人ならざる者がやってくるので、その方向に玄関や水場は作らないほうがいい。とか何とか。

妖精がやってきて妖精大図鑑を土に埋める。と鳴り出す。妖精はそれに耳をすます。

天の声:さて、何かがこの場所に埋まっている様です。何も見えない霧の中、果たして、ゴリラは家に帰れるのでしょうか…。

ゴリラ:ウホ…ウッホ…

ジュマンジのように妖精大図鑑からは太鼓の音がする。妖精大図鑑を土の中から掘り出し、ゴリラが去っていく。それを見送る妖精。

【鬼門】
シャッターには方角、舞台上には一本道。鬼門から裏鬼門へと何かたちが通り過ぎていく。それを眺める妖精。と、シャッターが風にゆらされる音。そして向こう側から風の声。

西風の声:やめろやめろ
南風の声:開かずのシャッターの向こうには一体何が…?
西風の声:倉庫?
東風の声:廃工場?
北風の声:いやいや、この向こうにはね、もう一つの吉祥寺が広がっているんだよ…!

暗闇ちゃんがくしゃみをする。

暗闇ちゃん:へ、へ、へ、へっくしょん!

暗闇ちゃんがくしゃみをすると、方角も霊道も吹き飛び暗転。名もなき怪異が生まれ出る。
映像:暗闇ちゃんが目を開ける。

暗闇ちゃん:あー…誰だ噂してるのは…あら?なんか出てきたね…身から出た錆?闇から出たくしゃみ!

生まれたてのくしゃみはまだ怪異として定まっていない。

暗闇ちゃん:生まれたての都市伝説!こんにちはくしゃみ。クシャ美?あ、クシャ美かな?

妖精がクシャ美の様子を伺う。

暗闇ちゃん:クシャ美~。立派な都市伝説に育てよ~。

暗闇ちゃんはウィンクをするとポンッと消える。映像終了。
霊道が戻ってくる。妖精は自由に動けるが、クシャ美はまだ闇から出られず霊道エリアには入れない。妖精はクシャ美を連れ出そうとするが、うまくいかずに霊道が狂ってしまう。おばけは行き先を見失う。彷徨うおばけ。


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