見出し画像

台本冒頭「YOKOHAMA Ammonite Night」

こちらは2021年上演、妖精大図鑑「YOKOHAMA Ammonite Night」上演台本の冒頭です。

YOKOHAMA Ammonite Nightはその名の通り横浜での公演を想定して書きました。ランドマークタワーの大理石の壁には、アンモナイトの化石が埋まっているらしい。そこから着想し、古代生物と現代の人間、それから遠い未来で人間の化石を観測するであろう未来の研究者が、いなくなってしまったものを想像したり懐かしがったり。かつてそこに居たけど、もう会わなくなってしまった友達のことを思い出す夜のお話です。


妖精大図鑑
YOKOHAMA Ammonite Night

〈オープニングダンス カンブリア紀の爆発的な進化〉

人間のラジオ
「お聞き頂いたのは、サカナクションで「ホーリーダンス」でした。時刻は23:55 日付がまもなく変わります。 84.8 この後はお知らせを挟んで」

電波は乱れて、波の周波数。深海から聞こえてくるのは生きた化石のラジオ。

シーラカンス
「さあ今夜も始まりましたアンモナイトナイト。眠れない夜のお供、明日のことはシーラカンス!生きた化石、シーラカンスです。今夜は快晴。波も穏やかです。甲殻類、は虫類の皆さんは脱皮をしながら聞く、なんていうのも良いかもしれませんね。おかげさまでこのラジオも多分4億周年。3000年過ぎたころから数えなくなりましたが、多分そのくらいです。その間に上の世界では陸上生活が流行り、鰓呼吸から肺呼吸へ。足が生え、空を飛び、一周回って海に出戻りなんてのもあるんですってね。時の流れは早いものです。」

〈警備員①〉

ここは深夜のランドマークタワー。警備員室で休憩中の斉藤さん。斉藤さんがラジオを聴いていると、新人の伊藤くんがやってくる。

伊藤:お疲れ様です。
斉藤:お疲れ様。
斉藤:…引き継ぎノート?
伊藤:あ、はい。過去の記録見ると色々分かるから、目通しておいてって言われまして。
斉藤:あー。え、めっちゃ古いのまであるじゃん。
伊藤:この◯◯って何ですか?
斉藤:◯◯の略。
伊藤:ああ…
斉藤:一個食べる?
伊藤:いいんですか?
斉藤:どうぞどうぞ
伊藤:いただきます。

【♪豆大福ラップ】作曲:鈴木はじめ
モチモチお餅のこんにちは
ようこそここは餅ランド
お餅は も知事に立候補
お餅のお気持ち第一の
街を作るため あちこち土地見て
駅近立地にひとめぼれ
もちもちお餅のお気持ちに重き
つくるよお餅のための街

白餡 黒餡 さくら餡
粒餡 こし餡 デロリアン

モチモチお餅へこんにちは
よろしくお願い 豆大福 
ライバルいつもいちご大福
バチバチ激しい戦い モチモチ
お餅の街を守るため
真面目な面持ちお餅たち
後々お餅はこう言った
考える事は皆お餅

斉藤:あ、内藤さんじゃん。
伊藤:この…「ない」ですか?
斉藤:そうそう。
伊藤:あ、内藤さんって、もしかして僕のロッカーを前に使ってた人ですかね?
斉藤:そうかも…そうだわ。あれ前は内藤さんのロッカーだった。
伊藤:最初ネームプレートがまだ出来てなくて、「内」の字の上に無理矢理「イ」って書かれてたんですよ。
斉藤:そうだそうだ。「イトウくん…ナイトウくん…いける!」って上田さんが無理矢理書き込んでるところ見てたわ。
伊藤:あれ上田さんですか。
斉藤:そうそう。あ、このラジオもね、元は内藤さんのなんだよね。
伊藤:あ、そうなんですか。斉藤さんのだと思ってました。
斉藤:ちょっと待って!一年前の今日も豆大福食べてる。
伊藤:この一時期、引き継ぎ内容と一緒におやつの報告入るの何なんですか?「異常なし。どら焼き」「異常なし。月餅」「拾得物あり。エクレア。」
斉藤:なんか、いっとき流行ったんだよね。
伊藤:その後は思いついた駄洒落を添えるようになりますよね。
斉藤:駄洒落時代ね。あったわー。(ノートを遡る)伊藤くんさ、えーと、このラジオ、ちょっとしたオカルト話あるんだけど、聞く?

〈豆大福〉

豆大福1:もちもち
豆大福2:もちもち
豆大福3:もちもち
豆大福1:ねえねえ餡餡の最新号読んだ?
豆大福2:もち!
豆大福3:自分史上最高の粒あんになる
豆大福1:それー
豆大福2:あなたもなれる、アン・ハサウェイ
豆大福3:見たー
豆大福1:アンジュルムとあんころ餅のコラボやばかったー
豆大福2:かわいー
豆大福3:あんころ餅好きー
豆大福1:でもぜんざいも捨てがたーい
豆大福2:羊羹もはずせなーい
豆大福3:わかるー
豆大福1:こしあんも良いよねー
豆大福2:苺大福もかわいいよねー
豆大福3:雪見大福も冷たくっていいよねー
豆大福1:あの皮だけ好きって人もいるよねー
豆大福2:いるねー
豆大福3:でもさー
全員:やっぱり餡もないとー

〈博士①〉
 おやつのミルクレープを持ってカセ博士がやってくる。

カセ博士:みなさんこんばんは。カセ博士です。
ツマヅキ:お手元のレジュメをご覧ください。図1の資料がカセ博士です。ご覧の通り、歯が抜けています。歯の無い、加瀬太郎博士。そのため、博士の話は聞き取りづらい点が多々見受けられます。本来のカセ博士は
カセ博士:みなさんこんばんは。カセ博士です。
ツマヅキ:このぐらいですが、これでは話が全く頭に入ってこないため、デジタルリマスター版でお送りします。
カセ博士:みなさんこんばんは。カセ博士です。こちらはおやつのミルクレープです。みなさんはボーリング調査を知っていますか?(ボーリングをする、パカーン)これではありません。ボーリング調査は地質調査の一種です。簡単に言いますと、こう地面に刺して行きまして…採取します。で、その地質の調査をするんですね。ここに家建てられるのかなとか。そういう(ミルクレープを見て)この場合…調査してみましょう。

【♪ボーリング調査の歌】作曲:永野百合子
(ボーリングボーリング…)
ボーリング調査を知ってるかい?(知ってるかい?)
ボーリング調査って何でしょね?(何だろう?)
理科の授業で名前だけ 覚えやすいやつベスト3(ベスト3)
ボーリング調査 地質調べる
ボーリング調査 うまくできるかな
ドキドキワクワクボーリング(調査)
ここの地層は丈夫かな?

カセ博士:ボーリング調査!………美味しい!

ツマヅキ:こんにちは。助手のツマヅキです。こちらはおやつのミルクレープです。クリーム、クレープ、クリーム、クレープ、クリーム、クレープ…このようにクリームとクレープ、時代は繰り返され、研究にはおやつが必要ということが分かります。美味しい!

斉藤:美味しい!あ、内藤さんお疲れ様です。おひとつどうです?

〈シーラカンスラジオ① 献血の歌〉

シーラカンス:続きまして、固体液体それが聞きたい!のコーナーに行きたいと思います。今回のテーマは「あのひとに聞かせたい一曲」です。早速、本日1枚目のお便り。ラジオネーム:献血なうさん 「シーラカンスさんこんばんは。」こんばんは。「ズバリ、後輩になめられています。彗星の如く現れた期待の新人君に、ここ最近。無茶なお願いをされるようになりました。一切躊躇のない後輩と、うまく断れない自分。最近何だか貧血気味です。考え過ぎでしょうか。君のそれは結構無茶なことを言っているよと伝えるべく、どうかこの曲を後輩に聞かせたいなと思います。」とのちょっと切ないお便り頂きました。なるほど。後輩君にはぜひ聞いていただきましょう。「献血の歌~カブトガニ編~」どうぞ。

【♪献血の歌~カブトガニ編~】作曲:荒井優

※らららカブトガニ 強制的に献血
だからカブトガニ だいたいいつも貧血

カブトガニの血液は「LAL試験という細菌汚染の実験」につかわれてますー
アメリカ東海岸で 捕獲・輸送・洗浄!
専用の装置に入れたなら さあ献血、開始です
(※繰り返し )
だいぶ取られるよ約30% 
年間で約25万匹  そのうちの約10%死ぬよ
(※繰り返し)
お前の血は何色だ 俺は青い色
お前の血は何色だ 俺は淡い色

カブトガニ:し…死ぬ…

〈警備員②〉

シーラカンス:ラジオネーム献血なうさんからリクエスト頂きました、「献血のうた~カブトガニ編~」でした。アンモナイトナイトでは夜中に聴きたい曲を大募集しております。リクエストはこちらまで。郵便番号…

ラジオから途切れ途切れ聞こえるシーラカンスの声。
内藤さんと斉藤さんが休憩室で休憩している。

斉藤:なんか…そんな番組でしたっけ?
内藤:いえ、最近たまに聞こえて来るんです。調子が悪いのか、違う電波を拾っちゃってるみたいで…。
斉藤:ジャミングじゃ無いング?
内藤:いやあの妨害電波とまでは行かないと思うんですけど…でもなんか不思議なんですよね。アンモナイトナイトっていう番組みたいなんですけど。
斉藤:アンモナイトナイト?
内藤:知らないですよねえ。その上、その番組も途切れ途切れで、壊れちゃったのかな…
斉藤:うーん…。ちょっと見せてもらえます?

斉藤さんはラジオを動かしてみる。波長は合ったり合わなかったり。

斉藤:高いところだと拾いやすいみたいですね…。内藤さん。電波を探しに行ってみません?
内藤:え?
斉藤:もっと上の階に行ったら電波があるかも。
内藤:ええ?一応仕事中ですよ?
斉藤:休憩中じゃないですか。それに、内藤さんもう少しで辞めちゃうし、探検しましょうよ。
内藤:えーーいいのかなあ…
斉藤:いいじゃないですか。ちょっと上の階に行ってみるだけですよ。
内藤:もー。ちょっとだけですよ。

チーン。エレベーターに乗り込んだ二人。そして大理石の壁の中、アンモナイトは怪しく光る。

〈地層エレベーター〉

天の声:これは地層を旅する不思議なエレベーター。進化とはいったい何なのか。この大きな謎に取り掛かるべく、過去の偉大な生き物たちを訪ねるのであった…

チーン。

ツマヅキ:こんばんは…
ハルキゲニア:はい、こんばんは。
ツマズキ:あの、進化って何だと思いますか?
ハルキゲニア:【ハルキゲニアの回答】
ツマズキ:ありがとうございました。

ガーーー
エレベーターの扉は閉まり、ツマヅキ君は去っていく。

天の声:次は、どんな地層にたどり着くだろう…

〈私はカブトガニ〉
カブトガニは呑気に暮らしていた。捕まるとも知らずに。甘い匂いに誘われた私はカブトガニ。(ダンス)

〈修羅場の会議〉
ところ変わって横浜ランドマークタワー内のオフィス。

会議中の人間:えー…。皆さんご存知の通り、予算が底を尽き、締め切りが明日に迫っているわけですが、ここで起死回生のアイディアはありますでしょうか。……何か…いい案が無いですかね?無いですか?案は…誰か無いんですか?!……はー…。時間も無い、予算も無い、案も無いと。



全編はこちらで販売しております。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?