スパイ大作戦「コロナ」の転身 ~地球の謎に挑む~ (IISIA研究員レポート Vol.24)
去る1995年2月24日ビル・クリントン米元大統領が大統領令に署名した。
米国勢の第一世代「写真偵察衛星(photo-reconnaissance satellites)」、コードネーム「コロナ(CORONA)」等と名付けられたシステムが収集した画像情報の機密解除の指示である。
去る1960年から1972年の間に収集された86万枚以上の地表の画像の存在がこれによって明らかになった(参考)。
(図表: コロナ(CORONA)が撮影したフィルムの回収)
(出典: Wikipedia)
「コロナ(CORONA)」衛星は1950年代に開発され、1960年5月に発生したU-2撃墜事件をきっかけにソ連の核兵器を探すために使われ始めた。これが冷戦時代のアメリカによるソ連に対する一連の偵察衛星プロジェクト「コロナ(CORONA)」計画である。
どのようにして収集されたのか。ロケットが宇宙からロールフィルムで撮影し、それをパラシュートで地上に落下させる。地上に着陸してしまえばソ連の諜報機関に見つかってしまうため、その前に空中でアメリカの軍用機がつかまえていた。
そして今この時の画像が「生態学」の世界で第二の人生を歩んでいる(参考)。「生物多様性」や「種の減少」など生態系の謎を解くために世界中の研究者たちが活用しているのだ(参考)。
(図表: 1970年に撮影されたモスクワ)
(出典: National Archives)
これまで森林学者たちは景観(landscape)の変遷を把握するために不正確な地図や昔ながらの樹木の目録(inventory)に頼るしかなかった。それが20世紀のスパイ画像のおかげで「鳥瞰図」(bird’s-eye view)が手に入った。
これによってベトナム戦争中にアメリカの爆弾によって残されたクレーターがどのようにして魚の池になったかを実証したり、第二次世界大戦によって東ヨーロッパの樹木の被覆がどのように変化したかを説明したりできるようになったのだ。
さらに未来の予測に役立てることもできる。「土地利用」に関する現在の決定が数十年後に環境にどのような影響を及ぼす可能性があるのか。ネパールの縮小した湖が今後110年以内に80%の水を失う可能性があると推定して、次に何が起こるかなどを予測することも可能だ。
19世紀に気球を用いた空中写真の撮影を起源とし、現在では人工衛星や航空機などから「地球の表面を観測する」技術のことを「リモート・センシング」(remote sensing)と呼ぶ。
我が国においてもこのような日常的には目にすることができない情報や立ち入ることが難しい場所の情報を得られる衛星データが最近ではAIと融合されたり、ビジネス活用が模索されたりしている(参考)。
機密解除されたコロナ衛星データだが、それでもまだ「手つかずのまま」とも言える状態のようだ。実際に科学者たちがこれまでにスキャンしたのはまだ全体のわずか5パーセントだ。
これからの更なる地球の謎の解明に期待したい。
グローバル・インテリジェンス・ユニット Senior Analyst
二宮美樹 記す