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ツイてないバッドフィンガー

ビートルズのアンソロジープロジェクトのCDに入っていたポール・マッカートニーの歌う「マジッククリスチャンのテーマ」(Come and Get It)の原曲を聴きたくてCDを買ったのが、私とバッドフィンガーの出会いでした。

いや、原曲というかマジッククリスチャンのテーマはマッカートニーが作った曲をバッドフィンガーに提供した曲なので、ビートルズの方こそ原曲なのでは?というややこしい感じです。

オリジナルメンバーにリバプール出身者がいるものの、ビートルズに曲をもらえるなんてすごいことなんですが、バッドフィンガーはビートルズのスタッフのマル・エヴァンズがプロデュースしてビートルズが作ったレーベルのアップルレコードからデビューしたバンドなんだそうです。

事情を知らずにCDを何枚か買って聴いてみたら実にイギリスらしくて素敵なバンドで、気に入りました。それなりに有名なバンドですし、じゅうぶんに評価されてはいるんですが、どんな曲をやっても漂うもの悲しさは何なんだろうと思ったら、恐ろしいほど気の毒なツイてないバンドだったようです。

▼ツイてないその1
バンド名をアイヴィーズと名乗っていた頃に出したファーストアルバムは、アップルレコードの内部のゴタゴタに巻き込まれてイタリア、西ドイツ、日本の3ヶ国でしかリリースされず。アメリカとイギリスの市場が抜けてるもんだから、当然セールスも奮わず。

▼ツイてないその2
バッドフィンガーとバンド名を変えてからは順調に活動をして「嵐の恋」(No Matter What)がヒットするなど名を売る。しかし雇い入れたマネージャーが詐欺師みたいなヤカラでメンバーは不当に安い報酬で活動するハメに。これ以来というもの金銭トラブルがずっと続く。

▼ツイてないその3
アフター・ビートルズのアップルレコードは財政難、そんな折バッドフィンガーの詐欺師マネージャーがレコード会社を移籍しようとしていることをアップル社長のアラン・クレインがかぎつけて揉める。結局ワーナーに移籍するも、アップル側からアルバムのリリースを妨害される。

▼ツイてないその4
ワーナー移籍後も金銭トラブルの連続。なんだかんだで所属レーベルのワーナーに訴訟を起こされた結果、リリースを完全に止められ既存のレコードも店の棚から引き上げられる。詐欺師マネージャーはメンバーへの送金を停止。絶望と揉め事の連続に疲れ果てて中心メンバーのピート・ハムが自死。

▼ツイてないその5
ピートの死後、メンバー再編成で再結成しアルバムを出すもあまり売れず。その後メンバーのトム・エヴァンズとジョーイ・モーランドが別れてそれぞれにバッドフィンガーを名乗るバンドを持ち、バッドフィンガーが2つあるという変なことに。ニルソンのカバーで有名になったバッドフィンガーの曲「ウィズアウト・ユー」の権利をめぐってトムとジョーイが揉めて訴訟騒ぎに。結局、疲れ果てたトムが自死。

ツイてないものの、精力的に活動して頑張っていたようです。私はバッドフィンガー改名後の最初の3枚「マジッククリスチャン・ミュージック」「ノー・ダイス」「ストレート・アップ」の3枚しか持っていませんが、どれも力作で、イギリスらしくてちょっと枯れた感じの気持ちの良いロックです。

特に「ノー・ダイス」はバリュー感、クオリティ、幅広さ、とても充実した内容になっています。私の愛聴盤です。兄貴分で世話になったビートルズのデビュー曲と同じタイトルの曲をやるというのもイカしてます。そしてその曲が実に良いです。

「嵐の恋」「ウィズアウト・ユー」も収録されています。ここでもプチ不遇が。というのも名曲の「ウィズアウト・ユー」はカバーの方が有名だったりします。70年代にはニルソンがカバーしてヒット、90年代にはマライア・キャリーがカバーして大ヒットです。

マライアのバージョンは壮大に歌い上げる感じに仕上がっていて、多分それが良かったんでしょう、かなりヒットしたと思います。ただ、この曲の私が好きなところは素晴らしいメロディーなのに漂う貧乏臭さと、せつなさ、いじけた雰囲気なんですよ。

マライア版のゴージャスさはちょっと違うんだよなあと思ってます。そして、かわいそうなバッドフィンガーのことも思い出してあげてほしいという気持ちになります。

私が生まれる前にデビューしたバンドですから、当然後追いで聴いたわけでリアルタイムで追っていたわけでもなく、悲しい事情は知らずに単純に素敵な曲を演奏するバンドとして聴いていたわけです。しかしそれでも悲しさとツイてない空気を感じつつ聴いていたような気がするんですよねえ。曲からそれがハミ出ちゃってる気がしてならないんです。

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