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鉋の仕込み

私は、木工をやっているので、鉋の仕込みをやる。

鉋には、色々な形、大きさがあるのだが、基本は皆同じで、鉄の鋼と樫の木という二つの構造物だけでできている。

一見なんともシンプルな構造だけれど、実は、これがとっても奥が深くて、もう鉋の仕込の修行してから十年以上にもなるが、未だに思う様に言うことを聞いてくれない事がある。

「言う事を聞かせる」なんて思っている事自体、まだまだ未熟なわけで、要するに、我技術が、自然の摂理に沿っていないだけである。

物事の殆どは、自然現象との対話であり、如何にその自然現象を利用して付き合ってゆくかと言う事に尽きる。脱線するが、真空管アンプだって自然現象をうまく使った電気の増幅と言う事だ。

要するに、物理や化学や数学的な要素で人はその自然現象を説明してきたけれども、まさに、人の経験や感覚をもとに自然現象に我が身を沿わせ、従う事ができた時にのみ、物事は思う通りに進められると言う事なのである。

実は、久しぶりの鉋の仕込みで、その感が鈍っているものだから、いくら刃を研いでも、いつものように台を直しても、一向に切れる鉋ができない。

そう言う時は、まず焦ってはいけない。
一息入れて、少し違う事に気を紛らしてみる。
そして、少し違う角度から、違う観点から物事を見直してみる。

目の前の刃研ぎや、刃口の調整の事は一旦忘れて、他のところに目を向けてみる。

すると、もしかしてという気づきがあり、これが大当たりだったりする。

2時間ほど、あーでもこーでもと全く切れなかった鉋が、その気づきで、ちょっとした調整をしたら、水を得た魚のように、急に鉋が走り出した。

台尻側の下端の一直線は、刃口の一直線と水平を保たなくてはいけないのは当たり前なのだけれど、普段刃口側ばかり削って台尻側の下端との面を出していた。すると、気がつかないうちに、台尻が厚いまま残り、刃口や台頭の方ばかり削って面を出していた事になる。要するに、微妙に台尻が厚く、台頭の方が薄くなってきていた。鉋台がへっぴり越し状態である。すると、鉋刃の切削面に対する角度がより鋭角になり、とうとう刃先ではなく、私の研ぎが丸歯なので、しのぎ面が切削面についてしまい、一向に削れないという事に気がついたのである。

したがって、台尻を台頭と同じ厚さになるように調整してあげたところ、以前の様に鉋が走り始めた。

午前中の2時間ほど、うまくいかず悶々としていたのだが、昼前に漸く問題を解決して、スッキリとして昼食に着く事ができた。

そして、午後は、鉋で仕上げた作成中の真空管アンプの箱の塗装に入る事ができた。これで、気分的にスッキリと大晦日を迎えられそうである。