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雨、都心、自由

雨の渋谷を歩く。
空気は冬を纏い、風は頬を刺すように吹き抜けていく。
決して嫌いではなかった。
こういう日は夜空がひどく美しい。
見上げても重い濃灰色の雲が確かな質量を持って広がっている。
すれ違う人々も、同じ方向へ歩く人も
皆、空を見ずに俯いている。

自由に生きたいと願う。
歳を重ねる度に、それは「制約の中で」という前置きがつく。
どこに逃げ出したとしても自由なんてものはどこにもなくて
どこに逃げ出したとしても何かしらの障害が立ち塞がる。
壊れてしまいそうな心は
結局壊れてしまうなんてことはなくて
壊れてしまいそうな脆い形のままで
そうして今日も生き続ける。

ビニール傘が好きだ。
落ちてくる雨粒が見えるから。
小学校の頃に気になっていた女の子は
僕と同じ帰り道をいつも先に少し走る。
真っ黒な長い髪と、赤い長靴。
何故だろうな。
僕が気になる女の子って
思い出すと後ろ姿ばっかりだ。

思い出がまた一つ消えていく。
どんな思い出だったのかも思い出せない。
半透明な記憶。
確かな質量をもった現実。
思い出が一つ一つ塗り潰されていく。

過去の連なりが今ならば
今の僕が僕であるという確かなものは
確実に一つずつ失われていき
今日を終えた今日が
また過去として僕を作り上げていく。


貴方のその気持をいつか僕も 誰かに返せたらなと思います。