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マイケルという友人の話

私にはマイケルというあだ名の友人がいる。

マイケルと知り合ったのは大学1年の頃だ。彼とは学部違いだが、何かの講義で一緒になり、いつの間にか友人になっていた。ちなみにマイケルは純日本人だ。どこにもマイケル要素はない。Hey!とかHello!なんて言わない。見た目だけで言ったら九州男児だ。ただ私がマイケルというあだ名を意味もなくつけただけだ。しかし、このあだ名が先へ先へとどんどん先行してしまい、殆どの友人たちがマイケルの本名を知らないという事態に陥ってしまった。結局マイケルの本名は知られることなく、友人たちは卒業を迎えることとなる。

マイケルは関東圏内の郊外から通学しており、毎日眠そうにしていた。マイケルは二限目前には通学してくるが、眠いとの事で校舎とは別棟にあるベンチで昼寝をするのが日課だった。三限は出るのか確認するとそのまま寝るらしく、結局彼は四限終わりにようやく起きてくる。それが日常茶飯事だった。当然単位は落としていた。しかも必修科目だ。結局、彼は落とした必修科目を四年次まで再履修していた。勤勉とはかけ離れてはいるが、私は彼のマイペースな人となりに救われていた。私は勉学を軽視するわけではないが、彼という人を形成するのにとりわけ勉学という要素は必要なかったのかもしれない。そこに彼がいればそれで良かった。なぜなら彼は底なしにいいやつなのだから。

彼は特にサークルには参加していなかったが、私の所属しているサークルによく顔を出していた。当然マイケルと呼ばれ、後輩にもマイケルさん、マイケル先輩と呼ばれていた。後輩にもよくなぜマイケルというあだ名なのかを聞かれたが、理由はないと答えるだけだった。マイケルはマイケルだ。ビッグマックはビッグマックだし、ハイボールはハイボールだ。ちなみにマイケルはサークル室でもよく寝ていた。サークル参加していないにも関わらず、まるでサークルの中心メンバーの如くそこに存在していたのである。後輩にもマイケルが何者かとよく問われていたが、マイケルはマイケルだと答えるだけだった。

たまにマイケルと一緒に大学に行くこともあった。ある日彼は珍しく意欲的に二限に出るつもりだったのか、パッと見いきいきとし、なんだか張り切って通学していた。エナメルのスポーツバッグを揺らし、意気揚々と風を切っていたのである。些末な事で申し訳ないが、二度言いたいので二度言わせてもらうと、マイケルはスポーツバッグを愛用していた。彼は運動部でもなければスポーツ系サークル所属でもない。何故エナメルのスポーツバッグなのか。一度聞いた事があるのだが、理由はデザインでもなく手に馴染むからとの事だった。手に馴染むという理由がいまいちピンとこなかったが、そこは彼の主義や精神性が反映されているのだと私は思った。ちなみに一、二年時は白のエナメル、三、四年時は、後継機の如く黒のエナメルだった。私はマイケル以上にエナメルのスポーツバッグが似合う男はいないと思っている。

マイケルはアニメやゲームが好きだった。私は大学からアニメにハマりだしたので、彼とはよくアニメ談義をしていた。マイケルはアニメはアニメでも萌え系などはあまり興味がなく、ミリタリー物、日常系などを好んだ。ゲームに関しては太鼓の達人が好きなようで、マイスティックを持っていた。その腕前を披露することなく卒業してしまったのが悔やまれる。

マイケルの女性関係に関しては特にない。女性との交友があった気配が一切ないからである。語ることもなければ、マイケルのパーソナリティを考慮し、語るべきではないと考えている。

単位を落とし続けた結果彼は大学5年目を迎えた。その後の彼については全く知らない。連絡がつかないのである。ただマイケルの事は今でも友人だと思っているし、できれば彼の消息を知りたいと私は考えている。


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