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法律を歪め、口頭やりとりが支配するクールジャパン行政

クールジャパン版の口頭決裁

今、東京高検検事長の定年延長に関する法解釈変更をめぐる「口頭決裁」の説明が物議を醸しています。

実は、『日本の映画産業を殺すクールジャパン』で扱う官民ファンドを使ったクールジャパンにおいても、政府が官民ファンド設置の根拠法の解釈を歪め、口頭手続きが支配する行政というものが存在しています。

事件の背景

舞台は、経産省所管の官民ファンド産業革新機構(現 産業革新投資機構)が60億円の投資決定を行った映画会社All Nippon Entertainment Works(ANEW)です。

以前、本書の一部を公開して事件の経緯をご紹介しましたが、こちらに改めてまとめます。

法に則った投資決定プロセスとは?

産業革新機構やクールジャパン機構などの官民ファンドには、設置するにあたり根拠となる新法が作られています。

今回したいのは、産業革新機構設置の根拠法である旧「産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法」(産活法)です。

この法律には官民ファンドの投資決定のプロセスでは、支援基準を満たす必要があるだけでなく、経産大臣に意見を伺う義務があると定められています。

簡単にまとめると法に則った適切な投資決定プロセスとは次の通りです。

産業革新機構

↓  意見照会を送付

経産大臣

↓  意見回答を送付

産業革新機構

このように、まず産業革新機構が「このような案件に投資をしたいと思うが大臣どう思いますか?」という意見照会を経産大臣に送付します。

次に、その意見照会を受けた経産大臣が、その投資案件対して「運用においてはこのように努めてください」などの意見を産業革新機構に回答を送付します。

ここに、現在確認できる経産省の最新の見解を述べて国会答弁があります。ここでもANEWは、旧産活法に基づいて産業革新機構が投資決定を行った投資案件であると語られています。

産業革新機構から株式会社オールニッポン・エンタテインメントワークスに対する資については、当時の産活法の規定に基づき、支援基準に従って、社会ニーズへの対応 性、成長性、革新性の観点から産業革新機構が評価し、出資決定したと思っております。 (内閣委員会会議録第二十一号 平成三十年六月二十六日)

実は、これ真っ赤な嘘です。

法律を歪めた投資決定プロセス

事実、映画会社の投資決定のプロセスは次の通りで、経産省もこれを認める発表に至っています。

経産省

↓ ANEW設立を打診

産業革新機構

↓  意見照会を送付

経産大臣

↓ 意見回答を送付

産業革新機構

経産省の「当時の産活法の規定に基づき、支援基準に従って、社会ニーズへの対応 性、成長性、革新性の観点から産業革新機構が評価し、出資決定したと思っている」との説明に反し、事実は「経産省が投資案件の打診を行い、産業革新機構が国からのクールジャパンの打診に沿うように投資決定を行った」と、本来の法律の投資決定手順が歪められているのが分かります。

さらに問題なのは、法律プロセスにある大臣意見照会の中身です。

本書では証拠の公文書付きで解説していますが、なんと当時の海江田万里経産大臣は、産業革新機構から意見照会を受けてから即日中にこの大臣意見を発出しています。

常識的に考えても、意見照会を受けたその日のうちに、専門性の高い映画会社設立に係る60億円もの巨額投資決定に対し、詳細な意見など述べられるはずがありません。

私は経産省に対して情報公開請求を行いましたが、設立経緯に関する文書は出てきませんでした。しかし、客観的証拠と照らし合わせ、経済産業省による本開示決定 が全ての情報を開示していない不当な処分であると思い、行政不服審査法に基づく異議申し立てを行ったところ、情報公開・個人情報保護審査会の諮問で、経産省は2年間もひた隠しにしてきた驚きの新事実を白状するに至りました。

隠された内部決裁書と口頭手続き

この諮問の中で経産省は、経産大臣の意見送付には、内部の決裁文書が別に存在すると明かし、この時の意見は経産省が事前に作った複数の「回答案」のうちの一つだとわかりました。

つまり、法律に規定された投資決定手続きの「大臣意見」とは、経産官僚が自分たちが打診した投資案件について、経産官僚が自分たちの意見を述べたものに過ぎず、民主的手続きを経ていることを装った茶番劇に過ぎませんでした。

さらに、経産省は、情報公開・個人情報保護審査会の諮問の中で、設立経緯に係る公文書が存在しないことについて次の通りの説明を行なっています。

経済産業省は平成23年6月27日付け通知(文書1)を受領する前に、産業革新機構から株式会社ALL NIPPON ENTERTAINMENT WORKS に対する支援方針及び「文書1」の 発出予定について口頭にて説明を受けており、「文書2」による回答の準備をしていた。

そのため、「文書1」を受領すると直ちに決裁し、同日付けで「文書2」の回答及び事業 所管大臣である経済産業大臣宛ての通知文書を発出した。

平成23年6月27日以前は、産業革新機構から口頭でのみ当該出資について説明を受けており、本件請求対象文書に該当する文書を取得しなかったということは、不自然、不合理とまでは言えない。
(平成29年11月1日 情個審第3353号 答申書 情報公開・個人情報保護審査より抜粋)

60億円の公的資金運用の投資決定において、この国では口頭上のやりとりで支配可能な形骸化したプロセスがまかり通っていたのです。

本来、官民ファンド設置の根拠法とは、公平公正な官民ファンドの運用を担保するものであるはずなのですが、この国ではクールジャパンの名の下に、体を成さない法律が作られ公金が運用されています。

「口頭」を理由に言い逃れを図る行政の危険性

結局、こうした法律にそぐわない投資決定を受けた官製映画会社は、22億2000万円の実投資を実行し、何ら成果を出さないままほぼ全損に当たる21億8600万円の損失を発生させました。

ただし、国民が法律を則ったプロセスを経ていたとは到底言えない公金投資の失敗を検証しようにも、この国には公文書や記録が残されていません。そして「口頭のみのやりとりだった」を理由に、公文書記録が存在しないことは不自然でも不合理でもないと最終的処分を下しています。

「口頭のみでのやりとり」にはこうした危険があるのです。

「記録を作らず検証されなければ逃げ勝ち」という歪んだ行政を通さないためにも、あらゆる分野で「口頭決裁」行政は許していけないと考えます。


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