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もしも新型コロナ緊急対策支援のクールジャパン878億円が映画、TV産業現場に向いた支援だったら?

経産省の新型コロナ緊急対策はクリエイティブ産業現場の担い手を徹底無視する姿勢の表れ

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経産省 令和2年度補正予算の事業概要https://www.meti.go.jp/main/yosan/yosan_fy2020/hosei/pdf/hosei_yosan_pr.pdf

経産省が新型コロナ緊急対策支援のために作った令和2年度補正予算の「コンテンツグローバル需要創出促進事業」の878億円ですが、この制度は文字通り1円たりとも日本のクリエイティブの作り手が今を生きるための支援とは言えません。

そもそも、クールジャパン政策は、日本のクリエイティブ産業の現場雇用 やインフラに投資を呼び込むという概念が完全に無視されてきました。

一方、諸外国には映画、アニメ、TV産業支援を行なっている国が多数あります。これらの支援の支援の対象は、100%その土地の産業現場のサービス、商品、賃金に消費に限定されています。

言い換えれば、クリエイティブ産業支援を打ち出している国で、ここまで日本のクリエイティブ産業の担い手への支援を徹底無視する国は日本くらいだと言ってもいいです。

そこで、今回の878億円と同じお金を持った政府がどのような支援を打ち出し、どのような効果を生み出したかここで紹介したいと思います。

カリフォルニア州の支援と経済効果

ハリウッドがあるカリフォルニア州は、かつては映画、テレビ産業の都として君臨していま した。しかし、近年ではニューヨーク州、ルイジアナ州、ニューメキシコ州、ジョージア州な ど国内の他州だけでなく、カナダ、イギリスなどが潤沢な予算の「プロダクション・インセン ティブ」を打ち出し、プロダクション誘致を推し進めてきました。

その結果、これまで当然のようにカリフォルニア州に留まっていた映画やテレビの仕事が、 州外に流出するようになりました。これらを指して、カリフォルニアから逃げてしまった企画いう意味で「ラナウェイ・プロダクション」(Runaway Productions)と呼ばれています。 カリフォルニア州はこうした流出に歯止めをかけようと、2016年に新しい映画、テレビ産業支援のための法案を通過させ、新制度「The Basics 2.0」を開始しました。

この「The Basics 2.0」とは、2016年から2020年まで継続して映像産業を支援する 5年間のプログラムで、それまでカリフォルニア州が設置していた年間1億ドル(110億 円)の映画、テレビ産業支援の予算を、約3倍の年間3・3億ドル(363億円)にまで引き 上げました。

カリフォルニア州の「プロダクション・インセンティブ」における映画の場合の受給資格は、 総制作コストの75%以上をカリフォルニア州内のサービス、商品、賃金に消費すること、もし くは、撮影日数の75%以上をカリフォルニア州で撮影することとなります。そして、助成対象を州内の経済に貢献する制作活動に限定し、映画やテレビプロダクションが州内で消費する商品、サービス、「ビロー・ザ・ライン」の人たちへの賃金に一定率の助成をかけています。

例えば、テレビドラマとインディペンデント映画に対しては、州内の撮影消費経費に25%を 税制優遇(Tax Credit)で還元します。スタジオ映画の助成率は20%となっています。また、 撮影だけでなく州内で映画音楽の作曲、録音、(75%以上の)ビジュアルエフェクトなどのポストプロダクションを行った場合にも、カリフォルニア州で制作する映画の場合はボーナスとして5%の助成が上乗せになります。 

この制度の支援のベクトルは「ビロー・ザ・ライン」コストであり、「アバブ・ザ・ライン」であるハリウッドスターの高額報酬の一定率を税金で支援するようなものではありません。

『日本の映画産業を殺すクールジャパンマネー 経産官僚の暴走と歪められる公文書管理』 第 4 章 官製映画会社構想のそもそもの過ち p173ー175

上記の「The Basics 2.0」ですが、2018年11月にカリフォルニア・フィルム・コミッションが中間報告書を発表しています。

この報告書の公表時点までに拠出された税金は8億1500万ドルとなっていて、本日の為替レート$1=107円で計算すると約872億円で、ほぼ新型コロナ緊急対策支援のクールジャパンと同額です。

しかし、このお金でカリフォルニア州が何を得たのかというと、約6兆4200億円(600億ドル)の州内の撮影関連の直接消費と記されています。

このうち、クリエイティブ産業現場で働く人の所得に回ったお金は2407億円(22億5000万ドル)、撮影に関するサービスや商品を提供する事業者に回ったお金は2022億円(10億8900万ドル)とされています。また、この総額872億円の支援を受けた作品は、1万8000人の俳優と、2万9000人のクルーの雇用を創出しています。

カリフォルニアと成果と日本と単純比較するはできないのは承知していますが、私がここで示したいのは、あるべき支援の姿は本来こういうものだということです。800億円以上の税金を使うのであれば、成果目標をカリフォルニア州のように産業現場で働く人の雇用、所得を第一に考えるべきです。

クールジャパンの評価は極めて抽象的で、産業現場で働く人に2400億円の所得が生まれたなど数字で示されることはありません。

ましてや、今は「非常事態」です。新型コロナウィルの影響を乗り切るには今を生きるための支援を優先させるべきだと考えます。新型コロナ危機に便乗するかのように、経産省の省益と、過去無駄が多いと指摘され予算が半減されたクールジャパン事業予算増額の錬金術の口実に使わせてはいけないと考えます。

必要性、緊急性のないこの予算が直ちに停止され、日本のクリエイティブの担い手に向いた施策に変換することを強く訴えます。


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