見出し画像

クールジャパン映画会社と経産省の嘘

作られるはずもなかった映画

『日本の映画産業を殺すクールジャパンマネー』では、経産省が主導的立場で設立し、産業革新機構(現 産業革新投資機構)からの22億2000万円の実投資をほぼ全損させた株式会社All Nippon Entertainment Works(ANEW)を追及しています。

本書が注目し、検証した一つにANEWの業務実績における経産省の嘘説明があります。

経産省は、ANEWの経営があたかも順調であるかのような答弁を国会や政府会議で繰り返していました。しかし、巨額の公金損失を生んだANEWの実態は、当時の説明と大きく異なります。

第一号案件『ガイキング』

2012年12月、ANEWは映画の企画開発の第一号案件として『ガイキング』の実写映画化を発表しています。

『ガイキング』は東映アニメーションと、映画『ターミネーター』やドラマ『ウォーキング・デッド』を手がけたゲイル・アン・ハード氏がCEOを務める制作会社Valhalla Entertainment がパートナーになっていた作品です。

この発表から約半年後の2013年5月24日、第183回国会経済産業委員会において、経産省は『ガイキング』が「撮影準備中」と答弁しています。また、その1ヶ月前には、2年後程度を目処に収益化が図れるとも説明しています。

しかし、映画製作において「撮影準備中」「収益化の目処が立つ」と定義するには必ず備わっていないといけない条件があります。

●脚本

●資金調達にかかる契約

脚本なしでは予算は決まらない

第一に、脚本は映画作りの基礎になります。

映画製作には的確な予算管理が必要となるのですが、脚本がなければその物語がどのようなスケールになるのか、撮影がどのくらいの期間で、何が必要になるのか、など映画製作を運営する上で必要な予算を決めることができません。

例えば、『ガイキング』のようにロボットが登場する映画では、CGによる壮大な戦闘シーンなどが想定されます。例えば、脚本に描かれる戦闘シーンが1回になるのか、3回になるのかだけでも資金調達で集めなければいけない金額が大きく変わります。

しかし、経産省が国会で「撮影準備中」と説明していた当時、ANEWには『ガイキング』の脚本は存在していませんでした。厳密に言うと、この時はまだ脚本家とすら契約を交わしておらず、脚本すら書かれていない状態でした。

映画製作の定義において「撮影準備」とは、決まった予算内でプロダクションをどう運営するかの「準備」を意味します。したがって、脚本家と契約すらない段階で、スケジュール、撮影プランなどを検討する「撮影準備中」の段階に入ることはできません。

脚本なしに資金調達契約締結することは限りなく低い

ANEWは映画の企画を開発する会社であり、自らが映画製作の資金を出資することはないと説明しています。つまり、自己資金で映画を作ることはありません。したがって、ANEW の作品には、必ず第三者との「お金」の契約が存在していなければおかしいはずです

配給会社や投資家と契約を締結する際に求められることが多いのが「必須条項」(Essential Clause)というものです。これは、この作品にはこの監督を起用します、この主演俳優を起用します、といった覚書で、投資家にとっての判断材料になります。

当時の『ガイキング』は脚本も書かれていない段階ですので、未知の脚本を元に出演を決める主演俳優などもいなかったと推察されます。もちろん、当時のANEWが監督や主演を発表したこともありません。

2013年の時点でANEWが『ガイキング』における資金調達を完了していた可能性は極めて低いことは想像できましたが、2018年になり、国会で追及された経産省は「新事実」の公表に至ります。

 共同開発契約を締結した第一号というのが平成二十八年十月ということで、やっと一本出た状況でございます。

ANEWが初めて契約締結を交わしたのは2016年とあり、その作品もANEWが第6段企画で発表した『藁の楯』だったそうです。

つまり、経産省は2018年になって、2013年当時の『ガイキング』に資金調達にかかる契約すら存在していなかったことを告白したのです。

経産省の嘘の代償

産業革新機構の投資案件には法律によって支援基準が定められています。その一つは「一定期間内 での投資回収の高い蓋然性が認められる」になります。

もちろんん、投資ですので、見込んんだ支援基準が見込み違いで失敗することもあるでしょう。

しかし、脚本も、契約もない映画企画『ガイキング』は、実際に作られて完成することも、ましてや配給され、2年を目処に映画から配当を得ることもありえない状態だったと言えます。

このことからも、ANEWの法律の規定にある支援基準として認められていた「一定期間内 での投資回収の高い蓋然性が認められる」との将来見通しは、早々から破綻状態だったことがわかります。

当時、経産省はANEW職員を出向させるだけでなく、毎年ANEWの業績をチェックすることが法律で義務付けられた立場にいました。

つまり、ANEWの内情を知っているはずの経産省は、2013年の国会答弁で正確な事実を国民に伝えず、自分たちが企画したクールジャパン映画会社の経営が順調であるかの旨の偽りの答弁を行っていたわけです。

その後、ANEWには5億円、11億2000万円の追加投資が実行されていきました。

もしも、2013年の国会答弁で「撮影準備中」の段階に来ている、でなく『ガイキング』は脚本も契約も備わっておらず製作実現は不透明な状態、と正確な事実を説明していたら、この追加投資は起こり得たでしょうか?

経産大臣のご理解頂きたいこと

2018年4月6日に行われた衆議院・経済産業委員会で、世耕弘成経済産業大臣は、公明党の富田茂之議員の質問に対して、次のとおりの答弁を行っています。

産革機構というのは、もちろん国のお金が入っているわけですから、基本的にそれをき ちっと有効に使っていくということが大変重要でありますが、一方で、投資ファンドとい う性格を持っているわけなんですね。特にベンチャーとかというところになりますと、これは必ずしも一つ一つが全部プラスになるとは限らない、場合によっては全損ということもあり得るわけであります。

産革機構全体で見れば、ベンチャー以外も含めたやつではプラスになっていますから決して、国から預かっているお金を何か毀損しているという、全体としてはそういうわけではないということはまず御理解いただきたいというふうに思います。

(第196回国会 経済産業委員会 第5号 平成 年4月6日)

ベンチャー投資なので全損もあり得る、産業革新機構全体では儲かっているので特段に問題ではない、このように語る当時の世耕経産大臣に「まずご理解いただきたい」のは、 世耕大臣が長して責任を追うべき経産省が、ベンチャー投資ファンドが投資判断に係る業績の重要な部分である『ガイキング』の進捗について誤った情報を流して、公金投資を引き出していたという事実です。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?