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公金22億円を溶かしたAll Nippon Entertainment Worksとは?

『日本の映画産業を殺すクールジャパンマネー』 第1章 株式会社ANEWと消えた22億円 一部公開

『日本の映画産業を殺すクールジャパンマネー 経産官僚の暴走と歪められる公文書管理』がメインで扱う映画産業行政におけるクールジャパン問題は、やはり官製映画会社All Nippon Entertainment Works(ANEW)についてです。

「日本のIPを原作にハリウッド映画を作る」と意気込んだこの映画会社は、何ら正当な成果を示さずただ同然で身売りされ、公的資金出資の22億円をほぼ全損しました。

本書では、これまで私が語って来なかった22億円の行方を探るべく、ANEWが発表した7企画の1作品1作品の開発状況と、映画企画開発のコストを検証しています。

さらに、2018年に行われた国会で追及された際、経産省はこのクールジャパンの失敗について「一定の政策成果はあったと認識している」と結論づけています。

この事業を始める前、政府は「日本で働く人の一人一人が豊かさを実感できるグローバル戦略」との旨の説明をしていました。これを映画産業に置き換えるならば、ANEWへの60億円の先には「日本の映画産業現場で働く一人一人が豊かさを実感できる」が政策ビジョンになければおかしいのです。

果たして、この22億円の公金投資は、本当に政府が国民と会話したこの約束において「一定の成果」なるものが認められるものなのか?

これに加え、官民ファンドに係る法律を超えた経産官僚支配の暴走についても徹底検証を行いました。

本書発売前に際し、All Nippon Entertainment Worksとは何なのか?事件の背景を幅広く知ってもらうべく、第1章冒頭部分を今回ご紹介したいと思います。

公金22億円を溶かした官製映画会社とは?

2011年8月、経済産業省商務情報政策局文化情報関連産業課(以下、メディア・コンテンツ課)課長の伊吹英明氏と、産業革新機構 マネージングディレクターの髙橋真一氏が、株 式会社 All Nippon Entertainment Works(オールニッポン・エンタテインメントワークス: 以下、ANEW)の設立を発表しました。
この会社は、政府の「日本を元気にするコンテンツ総合戦略」という知的財産戦略に基づき、 産業革新機構が100%、 60億円の出資決定を行う形で、同年10月に設立されました。
ANEWの事業目的は「日本の物語のハリウッド映画化を促進することを通じて、日本の映画、放送 コンテンツなどIP(知的財産)の海外展開の成功事例を加速させる」というものでした。
産業革新機構とは、旧「産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法」(産活法) に基づき設立された、経済産業省が所管する官民出資の投資ファンドです。「オープンイノベ ーションを通じて次世代の国富を担う産業を育成・創出する」ことを投資理念としています。 ただし、一般的には「官民ファンド」と呼ばれているものの、運営するための資金の95%以上 は政府出資の財政投融資から拠出しているため、極めて「官製ファンド」に近い投資ファンド であり、「経済産業省の別の財布」とも言われています。

ANEWは設立から4カ月後の2012年2月、アメリカから招聘したサンフォード・R・ クライマン氏が最高経営責任者に、黒川裕介氏が最高執行責任者に就任すると発表し、実質的な業務をスタートさせています。産業革新機構の髙橋氏もANEWの代表取締役と取締役を歴任し、事業所管となった経済産業省も「政策実現のお手伝い」として、ANEWに職員を出向 させました。この出向した職員とは、現在は経済産業省の知的財産政策室長という幹部職に就いている、渡邊佳奈子氏になります(2019年12月25日付 経済産業省幹部名簿より)。
ANEWは、国策である「クールジャパンの推進」に深く関係しており、その中でも特に重要な案件であると位置付けられていました。
国の総合的な知財戦略をまとめた報告書では、ANEW設立を「クールジャパンらしさを追求した新たな発掘・創造の推進」の施策例のひとつとして紹介しています。また、クールジャパン戦略等を協議していた政府会議の「コンテンツ強化専門調査会」では、 「60億円という『すごいお金』がクールジャパン戦略のハイライトになりえ、一般の国民にも クールジャパンで国が何をやろうとしているのかを提示するもの」という旨の意見が出ていました。 
この「コンテンツ強化専門調査会」では、経済産業省の職員がANEW設立準備についての説明を行っています。つまり、ANEWは設立される前から国が密接に関係する投資事案であったということです。
さて、 60億円の投資決定を受けた産業革新機構は、ANEWに対して、設立時の2011年10月に資本金、資本準備金合わせて6億円の出資を実行しました。続いて、2013年 月に5億円、翌2014年 月に11億2000万円と、合計2回の追加投資を行い、最終的な投資額は22億2000万円に上りました。ちなみに、同機構はこれらの追加投資の時期、金額のいずれも非公表としていました。
産業革新機構に係る法律には「支援基準」が規定されており、ANEWの場合は次のように、 「支援基準に適合している」と経済産業省から評価されました。
(1)社会的ニーズへの対応                         わが国の産業資源のひとつであるコンテンツにおいて、小説・漫画・TV・映画等のコン テンツを海外に展開し、海外市場における収益化の機会を最大化するためのコンテンツホ ルダーと海外市場をつなげるものであり、社会的ニーズに対応している。
(2)成長性
1 新たな付加価値の創出等が見込まれるか
コンテンツのグローバル展開を支援するものであり、大きな成長が期待される。
2 民間事業者等からの支援供給が見込まれるか
コンテンツを有する民間企業及び当新会社へのオペレーション協働が見込まれる民間事業者からの将来的な資金供給を見込んでいる。              3 一定期間以内に株式等の譲渡その他の資金回収が可能となる蓋然性が高いと見込まれるか                                 新会社は、配当により資金回収を図ることを想定しており、投資資金の回収が可能となる 蓋然性は高いと考えられる。新会社が役割を終えた後、経営陣、パートナー企業又は第三者への譲渡を想定している。
(3)革新性                                                                                                                           国内に埋もれているコンテンツ資産を海外に繋げることで、オープンイノベーションの実 現を行い、海外で稼ぐコンテンツ産業の新しいビジネスモデルを確立するものであり、革新性がある。
(平成23年度産業革新機構の業務の実績評価について 経済産業省)

しかし、投資決定時はこのように雄弁と語られていた将来への見通しは、早々から乖離します。さらに、日本側の経営最高責任者は次々と交代し、問題が続きました。最終的に、「適合している」とされていた支援基準は何一つ、体現されることはありませんでした。
経産省の幹部は、国会の経済産業委員会などで再三にわたり、「3年」という一定期間内で 収益化すると説明していましたが、肝心の映画製作に関しては7本の企画が発表されたのみで、 配当を得るどころか1本も実際に作られることはありませんでした。
『日本の映画産業を殺すクールジャパンマネー』 第1章 株式会社ANEWと消えた22億円 より

 


 











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