見出し画像

新型コロナウィルス緊急対策クールジャパンをめぐる経産省と補助事業者との由々しき関係の過去

新型コロナウィルス緊急対策支援で復活した878億円のクールジャパン助成金

先日の投稿でもお伝えしたとおり、経産省は、新型コロナ緊急対策支援の令和2年度補正予算「コンテンツグローバル需要創出促進事業」に878億円の予算を計上しています。

この間接補助金基金の基金管理業務は、1週間の短期公募、1件の応募の結果、NPO映像産業振興機構に委託されています。

実は、同様のクールジャパン事業は2012年度補正予算から続いていて、これまで5回に渡り403億円の税金が投じられてきました。そして、この全ての事業を請け負ってきたのが映像産業振興機構になります。

しかし、本書『日本の映画産業を殺すクールジャパンマネー 経産官僚の暴走と歪められる公文書管理』で扱う第一回目事業の入札においては、国と補助事業者との構造的な問題を確認しています。

さらには、補助事業者がこの補助金を使っって主催したフランス カンヌ映画祭でのジャパンデイ プロジェクトとというイベントに、補助金の担当課課長が来賓として招かれています。

詳細につきましては、下記に本書の一部を公開しました。

こうした歪な過去を持つ国と補助事業者の関係に、今回あらたに878億円が注がれるわけです。果たして、このクールジャパンの878億円は、国民が新型コロナウィルスで苦しんでいる中で本当に必要で、緊急性がある予算だとこのまま押し通していいのでしょうか?

経産省による希望委託事業者の意思表示

『日本の映画産業を殺すクールジャパンマネー 経産官僚の暴走と歪められる公文書管理』第7章カンヌ映画祭と疑惑のクールジャパン補助金/異動間際の海外出張 p305-307より

J ―LOPを巡る映像産業振興機構(VIPO)への疑問は、ジャパンデイ プロジェクト
への不透明な補助金流用だけではありません。この補助金制度には予算要求の段階から、経産省とまだ入札するかもわからない映像産業支援機構との構造的な問題があったことも指摘すでしょう。

経産省がJ ―LOP予算の概算請求を行った時に作成した「コンテンツ海外展開等促進事業費補助金」という資料の事業説明には、事業の委託先として「VIPO等を想定」と記されていました。

当たり前ですが、国が公共事業を入札にかける際、あらかじめ委託先の意思表示をすること は談合に当たります。独占禁止法の中の「入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員によ る入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律」第二条は、次のようなことを「入札談合 等に関与する行為」と定めています。

二 契約の相手方となるべき者をあらかじめ指名することその他特定の者を契約の相手方 となるべき者として希望する旨の意向をあらかじめ教示し、又は示唆すること。

経産省はその後、この資料が不適切であったと気づいたのか、「VIPO等を想定」の一文 を削除しています。*1

ただ、委託先の入札結果を見ると、3件の応募から経産省の「想定どおり」に映像産業振興 機構(VIPO)が受諾しています。その後に作られたJ ―LOP+の60億円、2015年年度補正予算のJLOPの67億円、2016年度補正予算のJLOP4の60億円、2018年度 補正予算のJ ―LODの30億円と、総額372億円もの同種の経産省事業において、その全てを映像産業振興機構が受託しています。*2

予算要求の時点から採択事業者の意思表明をしていた経産省と映像産業振興機構との深い関係は、カンヌ映画祭のイベント事業にも影を落としていました。

同省メディア・コンテンツ課の柏原課長の出張は、映像産業振興機構の「来賓」として招か れたものと説明していました。また、後に開示された「出張報告書」によると、経産省の出張の目的をこう記しています。

世界の映画祭・同併設見本市の中でも映画産業が最も重視しており、政府支援も手厚い とされる、カンヌ映画祭・同マーケットを視察するとともに、コンテンツを所管する各国 政府の担当者が集う機会を捕まえ、各国の政府担当者と意見交換を行い、他国のコンテン ツ産業支援策について聴取することで、今後の我が国のコンテンツ支援策の検討において 参考とするための情報収集を行うことも、重要な目的の1つとして設定した。

経産省からの開示文書などの情報からわかっていることは、この時柏原課長は、現地でカンヌフィルムマーケットのディレクター、スペイン文化省に属する映像産業支援組織である El Instituto de la Cinematografía y de las Artes Audiovisuales(ICAA)のマーケティング 部長、カナダの政府系映像産業支援組織 Telefilm Canada の宣伝部長の3名と意見交換をしたということです。 この3名をジャパンパビリオンに招いた意見交換の場を調整し、経産省に伝えていたのはジャパンデイ プロジェクトのブランディングマネージャーで、映像産業支援機構所属の森下氏 だとわかっています。 

つまり、経産省職員の出張は自らまとめた出張報告にある「重要な目的の1つ」すら自発的なものではなく、同省の補助金を受け取る側の映像産業振興機構によってお膳立てされたもの だったと言えます。

そして、この柏原課長ですが、カンヌ映画祭への出張直後すぐに異動となっています。柏原 氏の出張後、日本にはカナダやスペインのような制作現場に向いた支援策が生まれていないこ とからも、異動間際の課長が補助事業者に接待されるような形でカンヌに出張してパーティー に参加する必要性があったのか、個人的には大いに疑問を感じます。

*1:VIPOとは映像産業振興機構の略称です。

*2:総額372億円の内訳には2012年度補正予算155億円が含まれます。本書には書かれていませんが、2019年度補正予算 コンテンツグローバル需要創出促進基盤整備事業31億円の実施され、これも映像産業振興機構が事業受託しています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?