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経産省が違法な公文書不開示で隠した疑惑の50億円クールジャパンコンテンツファンド設置手続き

覆った違法黒塗り開示

先日、経産省による公文書の黒塗り開示の違法性について審査請求を行なっている情報公開・個人情報保護審査会から、経産省が処分を取り消す意見を出したとの通知を受けました。不開示決定をした原処分が取り消されるということは、今回の黒塗り開示が違法であったということを意味します。

審査請求の原因となった公文書

本件の請求の原因となったのが、2018年の3月にクールジャパン機構が51.5億円の支援を決定したNerflixなどで海外展開を行う日本の映画やドラマの制作運転資金を支援するコンテンツファンド「ジャパンコンテンツファクトリー」設置の手続きに関係する文書になります。

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このように、経産省は公文書番号、公文書の日付、大臣意見の一部を黒塗りにしました。

これに加え、この世耕経産大臣(当時)発出の行政文書には、これとは別に同省のクールジャパン政策課が内部で決裁した際の決裁文書が存在していたのですが、内部決裁文書は存在しないとの処分を下していました。

公文書番号には日付を用いた名称が使われている場合が一般的ですので、経産省は何がなんでも日付を隠し通したい意図があったのだと思います。

経産省は公文書番号と日付の黒塗りについて次の不開示理由を説明ています。

文書番号、日付及び本文一部の記載については、公開することを前提していない当該法人と経済産業省とのやりとに関する情報であり、これを公にすることにより、今後、経済産業省の事務又は事業に関する情報収集が困難になるなど経済産業省の事務又は事業の適正な遂行に支障をを及すおそれがあることから、法第5条第6号に該当するため、不開示とした。

また、世耕経産大臣の意見の協業に関する一部黒塗り部分については次の不開示理由を述べました。

対象支援活動に関する具体的な投資戦略の情報であって、公にすることにより、同業他社が容易に模倣するおそれがあり、株式会社海外需要開拓支援機構の事業運営に支障を来し、当該法人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある。

以上のことから、支援対象事業者の協業に係る法人等の情報の記載部分を法第5条第2号のイの不開示情報に該当するとしてこれ絵を不開示とした原処分は妥当である。

繰り返しますが、これらの不開示には理由がなく、原処分が違法であったことことは既に確定しています。

では、どのようにして経産省の不当な不開示処分が覆ったのか説明したいと思います。

過去に同種の情報が開示されていること

今回の審査請求において、私の異議申立ての理由は二点ありました。

●経産省が存在するはずの内部決裁文書を隠しているのではないか?

●日付、大臣意見の黒塗りは違法で、これら開示すべき情報を不当に隠しているのではないか?

結論から申しますと、約1年に渡る審査請求の諮問の中で、経産省は不存在としていた内部決裁文書について「あらためて省内のハードドライブなどを調査した結果、文書を保有していることが判明した」との旨の回答をしています。

今回の開示決定は本来の30日の開示期限を30日延長する特別措置を経て開示されました。さらに、内部決裁文書という本件の開示請求に係る基本的な文書である性質上からも、審査請求にかけられ後に省内のハードドライブをあらためて捜索しなくとも特定できそうなものです。

一方、公文書番号、日付、世耕大臣の意見の一部の黒塗り開示の部分については、当初は黒塗りを貫き争う姿勢を見せていたものの「あらためて検討した結果開示することとする」とだけ述べ、原処分が不当な不開示だったことを認めました。

今回の審査請求の理由の根底にあったのが、経産省が過去に同種の行政文書を開示していた点になります。

私は拙書『日本の映画産業を殺すクールジャパンマネー』で日本の映画産業の問題政策の一つとして取り上げました産業革新機構(現 産業革新投資機構)が60億円の投資決定を行い設立した株式会社All Nippon Entertainment Works(以下、ANEW)に関する公文書について情報公開請求を行なっています。

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産業革新機構とはクールジャパン機構と同種の経産省所管の官民ファンドです。大部分に公金が用いられているこれらの二つの官民ファンドは、同種の法律によって国の監督と公文書の作成が義務付けられています。

ANEWとは日本の知的財産を元にハリウッド映画作りを目指すついてコンテンツファンドであると説明していました。ジャパンコンテンツファクトリーは海外展開する映画やTVのプリセールを担保に制作資金のつなぎ融資を行うコンテンツファンドです。つまり、官民ファンドが作った公金によるコンテンツファンドというくくりにおいては同種のサブファンドになります。

こちらの海江田経済産業大臣(当時)が発出したANEWへの意見文書ですが、今回違法な黒塗りを行った世耕経産大臣(当時)のジャパンコンテンツファクトリーへの意見文書と同種の法的手続きの中で作成された行政文書です。

このように、同種の情報公開請求が行われた場合に、開示不開示の判断が異なることが許されないことはいうまでもありません。

ちなみに今回一部黒塗りにされた経産大臣の意見とは、法律で”公表すること”が義務づけられている情報に当たります。経産省による「公開することを前提としていない情報であるため不開示とした」との理由はこの点においても即座に不当だと判断できます。

私が内部決裁文書を隠しているのでは?と意義を申し立てできたのには経産省の文書隠蔽の”前科”を把握していたことにあります。実は、経産省はANEWの開示決定の時も内部決裁文書を特定せず、審査請求のなかでようやくその存在を明かした経緯がありました。

もしかしたら同じ手口で内部決裁書が隠されているのでは?と半信半疑で審査請求の理由に加えたのですが、案の定、今回も当該公文書を隠していたことが判明しました。

いずれにせよ、先例の情報公開の裁量に反した違法な黒塗りが開示に変更されたことは至極当然の結果だったと思います。

経産省が違法な黒塗りで隠したかった不都合とは?

あるはずの内部決裁文書を不存在とする、開示すべき情報を違法に黒塗りにする、民主的な行政の担保となるべく情報公開制度を経産省は何から何まででたらめの限りを尽くし違法に操っていたわけですが、なぜ経産省は内部決裁文書と公文書の日付を隠す必要があったのか?黒塗りの下には国民に知られたくない不都合があるのでは?

こうした思いから私は不存在とされていた内部決裁文書の開示請求をあらためて行い、文書を取得しました。

すると、黒塗りが解かれた内部決裁文書を見るにと本件のコンテンツファンドの疑わしき設立手続きが浮かび上がりました。

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今回開示された文書により、黒塗りにされていた公文書の日付はそれぞれ「2018年3月6日」と「2018年3月15日」だと判明しました。

この日付は単なる日付ではなく、クールジャパン機構設置の根拠法である株式会社海外需要開拓支援機構法で規定された支援決定プロセスに関連する日付になります。

クールジャパン機構が出資を決定するには法律で下記の手続きが定められています。

①2018年3月6日:クールジャパン機構が主務大臣である経済産業大臣に対して「ジャパンコンテンツファクトリーへ投資を行うつもりである」旨を通知 (法第二十四条2)

②2018年3月14日:経済産業大臣は、対象事業活動支援 の対象となる活動に係る事業を所管する大臣大臣に、意見照会があった旨を通知(法第二十四条3)

③2018年3月15日:事業所管大臣はクールジャパン機構に対して、ジャパンコンテンツファクトリーへの投資について意見を述べる。(法第二十四条4)

一枚目の公文書のとおり、クールジャパン機構が①の手続きを行なった日が2018年3月6日になります。

続いて②の手続きですが、今回の事案は、クールジャパン機構の主務大臣とクールジャパン事業の所管大臣は同じ経済産業大臣になるので、同3月14日に世耕経済産業大臣は自分で自分に②の通知を出しています。これが二枚目の公文書が示す手続きです。

最後に③の手続きとして同3月15日に世耕経産大臣がクールジャパン機構に対し「日本のコンテンツの着実な海外展開につながるよう、適切に事業にとりくまれたい」等の意見を出し、三枚目の公文書をもって通知しています。

しかし、これらの日付には出資決定の適法制において重大な矛盾が生じています。

辻褄が合わない説明資料の日付

この法律はクールジャパン機構の出資決定を経産大臣がきちんと監督する目的に定められているのですが、当然、公金投資案件を精査し、意見を述べるには、クールジャパン機構から提出される投資案件を説明する資料が必要になります。

これについては、経産省の内部決裁書に添付されていた別紙にも、クールジャパン政策課の課長が行う確認事項として「資料の交付」が記載されています。

(1)株式会社海外需要開拓支援機構の支援決定について(通知)(20180306商第10号)(決裁文書)(ドラッグされました)

今回のケースでも、経産省は確かにクールジャパン機構から「個別作品に対する海外展開支援ファンド」という本件投資案件の説明資料の提出を受けているのですが、注目すべきは資料の日付です。

提出された資料の作成日は3月16日となっていて、経産省内部決裁、大臣意見発出の”後”となっています。

(1)個別作品に対する海外展開支援ファンド


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通常、クールジャパン機構がジャパンコンテンツファクトリーについて経産大臣に説明するには、投資案件を説明する資料を①の3月6日時点で提出していなければなりません。

資料作成が3月16日であるとするならば、国の手続きが行われた3月6日から3月15日の間には投資案件を説明する肝心の資料が存在していないことになります。

世耕経産大臣は一体何を根拠に「日本のコンテンツの着実な海外展開につながるよう、適切に事業にとりくまれたい」などというもっともらしい意見を出していたのでしょうか?

以前、Noteに書きましたが、このコンテンツファンドは設立に関係する政府会議の段階から吉本興業に近いファンドでもあります。

今回の公文書が明かした事実は、国は「投資ありき」で利益相反体制で運営するコンテンツファンドへの公金投資決定を決裁し、後付けの日付の資料をもって手続きの正当化を図ろうとしていたことになります。

何度も言いますが、この国の手続き”法律”です。この法手続きに瑕疵があったとすれば、51億5000万円もの公金を拠出した公的フィルムファンドであるジャパンコンテンツファクトリーそのものの適法性にも問題があると私は考えます。

国がこうした官民ファンドを使った公金運用のガバナンスを定めた法律を無視し、手続きにおける不都合の証左となる公文書を違法な黒塗りで隠し通せば不都合が消えて無くなる、そんな経産省のやり方には酷い悪質性を感じます。

こうした不可解な手続きを経て設立され既に2年以上運用されているジャパンコンテンツファクトリーには極めて不透明な運用実態だけでなく、本来法律で認められていない運用を可能にする妙なカラクリまで作られています。こちらについては、また次回まとめたいと思います。

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