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ぐずぐずくず

 皿に乗った一目で手作りだとわかるシンプルなケーキを頬張る。
「うま。良いよね、ケーキ作れるのって」
「こんなの、ホットケーキミックスと卵と牛乳とココアと混ぜて炊飯器スイッチポンでおしまいですよ」
「すげーな炊飯器」
「おや、尊敬の眼差しが家電に奪われた」
 気を使わない会話が楽で良い。
「なあ、これ食ったらちょっとエロいことしようぜ」
「しないよ。アホか」
「なんで」
「彼女持ちの男と、彼氏持ちの女で、エロいことは、しない」
「部屋に上げるのはアリなのに?」
「……それはまあ、言っても友だちですし。友だちと、エロいことは、しない」
 ちぇー、と口先でだけ残念ぶって、残りのケーキを頬張る。こいつとはエロいことはしない。そんな気もない。ただ、時々言ってみたくなる。彼女にマンネリを感じるとき、絶対安心な相手に意味もなく投げるのだ。

 1人になった部屋で、2人分の食器を洗う。
「勘弁してくれよ、まったく……」
 彼氏がいない女は、よく知った男を部屋に上げることに抵抗がない。片思い中の相手なら、尚更。
 あいつがどうでも良さそうなテンションでくだらないことを言うときは、彼女とうまくいっているときだ。刺激にもならないような言葉を投げるだけで満足するほど、順調なくせに。
「いい迷惑だぜ本当」
 ハッと鼻で笑ってみせる。どうしようもない。
 間違いなくまた、この部屋に上げるのだ。
 静かに胸を弾ませながら。

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