【全文無料】劣後ローンとDES

先日,三原じゅん子先生主催のオンライン勉強会で,求められる経済政策についてお話しさせていただきました.そこでの提言について,

との感想をいただきました.今回はその劣後ローン・劣後債提言の説明です.勉強会の内容は,本マガジンのエントリで書いてきた,

・「緊急支援策のタイムリミット」(本編は無料です)
・「融資型支援制度の賞味期限 」(全文無料です)

の要約……つまりは,

・企業毎に必要な金額が異なりすぎるため,支援の主力はどうしても融資型にならざるを得ない
・融資までのラグは給付で埋める(なので持続化給付金の実行を急ぐという現在の方針はより徹底と周知してほしい)
ただし融資型スキームには大きな問題が...

という現状を報告した上で,7月以降増加する債務超過企業への対応について提案いたしました.

借金は借金なんですよね

 融資型のスキーム最大の問題は「返さなければならないこと」です.だから給付が必要という提案をしている人は多いですが,これはなかなか難しい.
 同じ資本規模でも産業によって売上も利益も全然違う.例えば,資本金1~10億円の企業で比べると営業利益の平均額は宿泊飲食(1.6億円)~陸運業(6.6億円)と大きな隔たりがあります(法人企業統計・2018年).地域や,それこそ企業の個別事情によってもショックの大きさが全然違うのです.そのため,

仮に1社1億円支給しても……足りない会社にとっては全然足りない!

わけです.「足りない額を正直に自己申告してもらう」ためには融資スキームが妥当ということになる.借金は借金ですから,無駄に多く申告するインセンティブはありません.
 無利子・無担保・無保証人での企業融資については,経済産業省のHPにまとめられています.今次のコロナショックのダメージを5年から15年程度に「散らす」措置というわけです.今年の損金を繰り延べる期限の延長などと組み合わせると,一定の効果を発揮するでしょう.

融資スキームの限界

 その一方で,融資スキームの限界は債務超過に陥った場合です.資産よりも負債が多い状態ですと,新規借入は事実上困難です.コロナ禍があけたとして,運転資金の借入が出来ない状態では経営は早晩行き詰まるでしょう.法人企業統計などをみると,7月頃から債務超過に陥る企業が増加すると予想されます(「融資型支援制度の賞味期限 」を参照ください).すると……コロナ禍が収束してもどうせ倒産ならば,いまのうちに廃業しておこうという動きが加速します.
 現行の融資スキームが機能するのは債務超過になるまでなのです.その期限は刻一刻と迫っています.

借金ではない借金

 ここで検討に値するのが劣後ローンの仕組みです.劣後(れつご)というのは,返済の優先順位が低いという意味.

 一般ローン10億,劣後ローン10億の負債総額20億の企業が倒産し,残った財産が13億円しかないという場合……一般ローン10億が優先され,劣後ローンの貸し手には3億しか入ってこないというタイプのローンです.

 劣後ローンを抱える企業への新たな融資を行おうとするとき,金融機関は「劣後ローンよりも自行の貸付けの方が優先される」ということがわかっているわけですから,仮に負債額が大きくても企業価値が一般ローンの額を上回っていると踏んだならば融資に踏み切ることが出来ます.

 劣後ローンは借金ではありますが,返済順位が低いことで一種の自己資本のような役割を果たしうるというわけです.

そんな商品あるのかいな?と思われるかもしれませんが,日本政策金融公庫では以前から新企業育成や企業再生事業などを対象に,金融検査場自己資本とみなすことができる劣後ローンを提供しています.

5年から15年間の間,利益に応じて金利が変動する仕組みで,借金ではない借金ができるわけです.

 この仕組みを拡充し,劣後ローンを提供することで,(一般負債>資産という意味での)債務超過を回避しながら必要資金の貸付が実施できます

 無論,この融資は金融機関側から見たら損です.ただでさえリスクが高い融資を無利子・無担保・無保証人で行い,しかもそれが劣後するのですから.そこで,金融機関に対しては同ローンの実行額に応じてインセンティブを付与する必要があります.一般の融資と同等の利益率が見込めるように,融資額に応じた手数料を支払うとよいでしょう.
 現在,市中銀行の預貸率(貸付/預金)は6-7割.270兆円ほど預金の方が多い状態です.つまりは270兆円近いの貸付余力がある.これは企業支援の主力になり得る金額です.

 一方で企業にとっては,劣後ローンは有利すぎる仕組みです.既存の債務を全部劣後ローンに借り換えたいことでしょう.そのため,劣後ローンの借入限度額を「予想される(前年比)売上減の×割まで」のように定める必要があります.ここで重要なのは「予想される」のところ.「見込みで貸して事後精算」……融資実行から1年後に「2019年と2020年の実際の売上低下幅」を超える劣後ローンを借り入れていた場合には差額を一般貸付に変換するといった条件をつけておけば,過剰な利用を防ぐことが出来ます.

いっそのことデット・エクイティ・スワップ(DES)

 なお,ある程度規模の大きい企業(イメージとしては地場で多くの雇用を抱える地元指折りの中堅企業)さらには大企業については,劣後ローンよりも,本会計年度末の経営状況をみて負債(デット)の一部を株式(エクイティ)に転換(スワップ)するという手法の方が望ましいこともあるでしょう.これは文字通り借金(デット)が株式という資本にするという方法です.債務超過企業の再建などにあたってこれまでも用いられてきた手法です.
 ただし,株式を保有することが将来のメリットになり得る(配当を得られる・売却益が出る)企業にしか適用できないのである程度の規模の企業向きのスキームです.

 DESを行う条件(損失のX割まで来年DESできるなど)などを定め,金融機関に対して「事前DES約束付き融資」の実行額に応じたインセンティブを支払う.これによって地域金融機関が自発的に事前DES約束付き融資の実行を進めることになる.繰り返しになりますが,現在預貸ギャップは270兆円!国債を上回る(要はプラスの^^)インセンティブがあれば金融機関は動き出すのではないでしょうか.

 銀行への公的資金注入,JAL再建など……金融機関や大企業が公的資金による再建を行った例は数多くあります.「Too Big To Fail」の言葉どおり,「大きくて潰せない」企業を政府は財政資金で救済してきました.しかし,いま問題なのは「Too Many To Fail」……コロナ禍によって倒産の危機に瀕するビジネスは多すぎて,これがまとめて破綻することの影響は過去の金融危機・大不況の比ではないかもしれないのです.このような状況では政府の財政資金による救済が必要です.


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