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ホスト問題?の論点

 にわかに話題となっている悪質ホスト問題ですが...右も左もみんな規制好き過ぎだろ^^

 私はかつて『夜の経済学』(扶桑社,2013)という本を出版したり,なんだりでそれなりに風水関係には詳しい方だと思うのですが,正直ホスト業界のことはあまり知りません.飲食店経営の方のお供?でいったことがあるくらいなので,業界の空気感も知らない.でもさ...声高にホストへの規制の必要性を訴える政治家,左右問わずの言論人さんもホスト事情に詳しいわけでもなさそうなわけで.

 個人的には「ホストでの遊興費が数百万・数千万円にものぼり」「その売掛を支払うために性風俗店や個人売春をしている人もいる(……これも変な表現で客側から見たら買掛だよね)」という状況はなんか良くないなぁとは思う.しかしですね,感情の上で許せんぞと思うときにこそ,

・良くない消費行動(だと自分が思う)という感触から取引を規制することの問題
・ほんとに実効性のある規制なんて出来るの??という問題

に想いをはせなければなりません.


論点整理

 ホストという業態のもつ問題点を「改善する」ために「規制が必要だ」という主張は二段階にわけて検討が必要です.

Ⅰ. そもそも規制すべきなの?

・自発的取引を規制する根拠
・現行法での対応可能性
・規制にコストをかけることの妥当性

Ⅱ. そもそも規制できるの?

・代替的なサービス,業態の存在
・売掛取引規制の実効性

自発的取引の規制

 まず前提として,ホストクラブ問題は「ぼったくり問題」ではありません.セット料金数千円で飲むつもりが何百万も請求された……のではなく,自発的に大金を支払ってホストクラブのサービスを購入しているのです.
 ホストに興味が無い人にとってはあり得ないことに感じるのでしょうが,趣味嗜好への支出とは,いずれも同好の士意外にはわからないものです(骨董趣味などを想起ください).

 自発的な取引を「自分がおかしな消費だと思うから規制すべき」という主張は妥当性を欠きます.自由主義経済の大原則として,取引の自由,営業の自由は高いレベルで保護されるべきです.

 経済学(主に「法と経済学」といった分野)において,規制すべき取引は「外部不経済のある経済行動」に限定されます.その消費行動が関係の無い第三者に重大な被害を与える可能性が高い取引は規制すべきです.その典型が麻薬や覚醒剤の規制です.麻薬や覚醒剤の常習者が常軌を逸した行動,暴力行為に及ぶことで全く関係の無い人が犠牲になるのは社会的に許容できないでしょう.
 麻薬・覚醒剤規制の経済学的な根拠は,本人が廃人になるからではありません.経済学者の多くは(個人的には心をいためるところですが,経済学的には)自主的に覚醒剤を使用した人がどうなろうとあまり興味はありません.重視するのはあくまで「当人以外に被害が及ぶか」であります.

 実際の取引関連法・規制もこの「外部不経済原則」に近い発想のものが中心です.たばこの規制が受動喫煙対策と銘打たれていることなどがその典型でしょう.スモーカーがたばこを吸うことが問題なのではなく,喫煙が非喫煙者の健康に被害をあたえることを規制根拠とするのです.

 このように説明すると,ホスト狂いで家族がめちゃくちゃになる(本人以外に被害が及んでいる)etc.といった指摘があるかもしれません.これは規制根拠としては薄弱です.父親のギャンブル依存によって家庭が貧しい,息子・娘が働かないので生計が破綻しそうだ……としても,それによって取引規制や労働強制が行われることは過去にありませんでした.
 家族の行動で他の家族に影響が生じていることを根拠とした規制は過去に例をみないことです.そして,ホスト問題は過去に例のない特別な規制根拠によって規制するほどの重大問題なのでしょうか.日本における規制の運営方針を大転換するほどの大問題であるとは私にはとても思えないのです.

現行法での対処と取締コスト

 この他,悪質ホスト問題については売春を強制された/事実上の人身売買である/売掛の取り立て時に暴力を振るわれたetc.の問題が言及されることがあります.

これはホスト規制の是非と何ら関係の無い話です.
だってこれ...現行法で取り締まられていますから...
人身取引(または強要罪・売春防止法違反)であり傷害罪ですから.

 ホストが売掛の回収のために風俗店に女性を紹介し,風俗店での報酬をホストが店から受け取った場合...これは人身取引(人身売買)に該当する可能性が高くなります.また,脅迫等をもって風俗店で働くことを迫れば強要罪.そのために暴力を振るえば傷害罪なわけです.

(だからこそ,現在も「悪質ホスト」が逮捕されたりしているんです^^)

ホストが自身の売上に関する売掛金は回収できない場合……ホスト自身が支払わなければならないとのことです.だからこそ,ホスト側は「その女性が絶対に払えない金額」のツケで飲ませることはありません.自分で自分の首を絞めるだけです.

(自分で自分の首を絞めた結果として,犯罪に走るホストがいるわけですからコレはコレで問題)

ホスト問題において「到底払えるわけもない金額の売掛金が……」という話が出ることがありますが,これは文字通りには少しおかしい.(風俗や個人売春で)払えるからこそ掛けで飲ませているのです.

 現行法において違法な行為は現行法で規制されています.「いや!現在の取り締まりでは手ぬるい」という方は...ホスト問題のために刑法や警職法の運用を変えろというのでしょうか? 
 そこまでの極論ではなくとも,警察はもっとホストによる違法行為をしっかりと取り締まれとの意見もあるかもしれない.しかしですね……いま警察ってそんなに仕事さぼってるんですかね? また,交通事故や窃盗,薬物取引に組織犯罪に対応する人的資源をホスト対応に回してまで対処すべき社会的な重大問題だとは私はとても思えないんです

自発的取引と売掛問題

 ここで話は元に戻ります.ホスト問題の要諦は,女性客が自主的に(何らかの方法で)高額のホストへの支払いをしている……ところにあります.自発的な取引なので,規制(を法的に定義して実施する)の足がかりが乏しいんです.

 そのため,状況を改善するためにはNudgeを用いた解決策が妥当と言うことになるでしょう.例えば,売掛による営業を禁止すると言った措置が議論に上ることがある.私も売掛規制はそれなりに検討する価値のある提案だと考えています.その場の勢いで高額の売掛が生じてしまい,その後,担当のホストに嫌われたくない一心で売春等での金策を行う……ことを防ぐには,現金またはカードでの決済しか認めないという手法があり得るでしょう.

 これならばカード会社や消費者金融の与信審査の範囲でしかホストに貢ぐことは出来なくなる.

 ホストのために消費者金融・カードローンの支払いがかさんだというところまで政府・法が面倒を見る必要は,私は,ないと考えています.そこまで踏み込むと,ブランドバッグや旅行までも規制しなければ整合的ではなくなってしまいますからね.

 しかし,この売掛規制……結構難しいのではないかと考えています.「売掛を禁止する」とは何をすることなのかがわからないからです.例えば,多くのホストクラブはキャバクラと同じ風俗営業許可の1号店(接客を伴う飲食店)として営業しています.1号店での支払いに掛け(売掛金での決済)を禁止したとして。。。ホストと女性客の間の貸し借りを禁止することはできません.
 そしてここが問題なのですが,多くのケースで女性は強制されて掛けを支払っているわけではない.すると,当日の飲食費を現金・カードで決済できなかったとして……それをホストがたてかえ(たことにして)後日,女性とホストの間で個人間の貸借の返済を行うという手順で現在と全く同じスタイルでの営業が続けられてしまうわけです.(というか現時点で事実上そうなっている店もあるそうです。。。だからホストは売掛が回収できないと店に弁済しているのです)

 掛け売りが禁止された場合,担当ホストによるたてかえが実体として掛け売りであることを示すことができれば...女性客は売掛の支払いを免れることが出来るかもしれません.

 しかしですね...現時点でも女性客が売掛から逃げることはそんなに難しくないそうなのですよ.二度とホストに行かないと思えば.多くのホスト個人はそんな強力な取り立て手段をもっていません.
 問題は少なからぬ女性客が「二度とホストに行かない」とは考えていないところにあるんです.担当ホストに好かれたい/嫌われたくない一心で掛けを払い続けている女性が警察に行って現在の買掛金が事実上の掛販売であったことを届け出る……という状況はとても一般化できないのではないでしょうか.
 これまた繰り返しにはなりますが,仮に「二度とホストなんかに行かない!」と女性側が思い切れば,現行法でも対処の方法はあるんですよ.自己破産できますから.しかし,現在でも十分可能な対応手段があるのに,それを使う客が少ないことにこの問題の特性があるのです.

 ちなみに,私は売掛規制はやってもよいかとは考えています.象徴的な意味はありますし,大手などでクリーンな営業(?)を行う店が増えることで悪質な店舗が集客できなくなっていくという効果もあるかもしれない.
 しかしですね.ホストは「悪い男に貢ぐ」という大昔からあったものを「継続的に行い,組織的に運営している」という業態なのです.

 このような昔からあった問題を法的に規制することは...規制の妥当性,そして規制をしたとしてその実効性にどうしても難が残る.ホスト問題は経済取引に関する法的規制を考える上で非常によい思考実験ではないかと思います.

 規制は言うに易く……行うに難いのです.





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