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景気ウォッチャー調査(2020年9月)

 景気関連指標のなかではかなり早く発表されるのが,景気ウォッチャー調査.9月の数字があまりにによすぎると思った人も多いでしょう……

調査期間は9月25日から月末.何かそんなに特別なことありましたっけ? 今回は謎の改善をみせるウォッチャー調査の秘密.実は種も仕掛けもある改善です.ついでに本日の結論はコロナショックに関しては景気ウォッチャー調査あんまり重視しない方がいいよというもの.んでお馴染みですが,本題の前に景気ウォッチャー調査ってそもそも何なのかから.

(今日経済学賞発表日ですが,このnoteはだいたい前日に書いているのでこの件は水曜のラジオあたりでお話しします)

誰に聞いているのか?

 景気ウォッチャー調査に関する報道では「働く人に景気の実感をたずねる内閣府の調査で,タクシーの運転手などを対象に景気の実感を尋ねて数値化します」みたいな説明がついていることが多いです.でも正直この説明微妙なんだよなぁ.
 確かに同調査は「働く人に景気の実感をたずねる」ものですし,「タクシーの運転手」にも聞いていますけど,タクシーの運転手さんって回答者の2%ほど(9月調査では2050人のうち44人)だけなんですけどね……ちなみに一番多くの人数聞いているのは,「スーパー店長・店員(6.0%)」「百貨店売り場主任・担当者(5.7%)」「コンビニエリア担当者・店長(5.5%)」です.なのでどちらかと言うと物販小売の現場感覚が強く反映される傾向があります.
 なお,回答者の7割は上記のようなBtoC関連の人たち.あとは,BtoB関連のビジネスの経営者・従業員が2割程度,雇用関連(派遣業者や求人広告会社,職安職員)の現場が1割程度となっています.

何を聞いているのか

 このようなひとたちに,以下のような質問を5段階評価(例えば(1)なら1良い 2やや良い 3どちらとも言えない 4やや悪い 5悪い)で回答してもらっています.

(1) 現在の景気についての質問です。今月のあなたの身の回りの景気は、良いと思いますか、悪いと思いますか。
(2) 今月のあなたの身の回りの景気は3か月前と比べて良くなっていると思いますか、悪くなっていると思いますか
(3) 将来の景気についての質問です。今後2~3か月先のあなたの身の回りの景気は、今月より良くなると思いますか、悪くなると思いますか。

 そして,各回答を「良い100点,やや良い75点,どちらとも言えない50点,やや悪い25点,悪い0点」として2050人の平均点をとると「景気ウォツチャー指数」のできあがり.いわゆるDI(Diffusion Index)という指数作成方法です.ちなみにこの3つ以外にそれぞれの理由について聞く項目もあります.

 さてここまで読んでいただければわかるように,景気ウォッチャー調査には(1)現状水準判断,(2)現状方向判断,(3)将来予想の三種類が存在します.

……なんですが報道されるのはなぜか(2)の三ヶ月前との比較ばかりなんですよね.少々詳しい報道でたまに(3)にふれられるくらい.なぜか(1)が公表資料等でも参考数値扱いなんです.
 まぁ「なぜか」というよりも,この統計の目的自体が景気の方向変化をいち早くを知るためなので当然ではありますが……現下の景況を考える記事に用いるなら現状水準判断も見なきゃいけないはずなんだけどね.

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 実際,「方向性」についてはコロナ前どころではなく消費増税前よりもよいくらい.理由は簡単です.質問が「3か月前と比べて良くなっていると思いますか、悪くなっていると思いますか」ですから.さすがに6月よりはよくなっているでしょう.

 改善の大きさや速度,内容を一切見ないで集計されるDIのクセがいかんなく発揮された結果「コロナ前への回復」かのような指標がでてしまったというわけ.

 「水準判断」についてはそこまでの改善は見せていません.ただし……こちらもけっこう改善してはいます.これもまたアンケート調査の罠.悪すぎる状態が続くと,しばらくしてなれてくるんです.慣れてしまって悪いと答える人が減る.景気が良いときも同様です.ちなみに,水準に関するアンケートが重視されないのはこれも理由の一つだったりします.

 そんなこんなで景気ウォッチャー調査.変化の方向性を探る(景気のトレンドに変化はあるか)をいち早く知るためには重要.なので上がったか下がったかは重要ですが,異なる時点と比べて今の景気を考えるためには役に立たない指標です.ご注意を.



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