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千代駅事件

 こんにちは。飯田線が好きな高校生です。毎日登下校で利用していますが、たまにそれ以外の区間でも乗って、駅訪問を楽しんでいます。多くの線路がある大きい駅から単線の小さい駅、特急停車駅から秘境駅まで、さまざまな駅に訪問してきましたが、数ある駅訪問旅の中で今でも、あの千代駅への訪問は忘れられません。

秘境駅・千代へ

 これは私が駅訪問をするようになったばかりのこと。高校生の私は、この日は休日であるにも関わらず午前中に模試があった。ならば午後の時間を思い切り楽しもうと、何処かの駅に訪問しようと考えていた。しかしどうせなら、今までひとりでは行ったことのない「秘境駅」へ行こうと考え、この千代駅を目的地に選んだのである。

 乗ってきた列車から降り、列車は去っていく。ついに秘境駅の地へきたんだという達成感と共に、これから始まる駅の“探検”へ心を弾ませ、駅の撮影を始めた私であった。
 千代駅の脇の人家で作業中のお爺さんが出てきて、駅の紹介をしてくださった。千代駅の思い出、かつての鉄道遺構、…様々な話はどれもこれも興味深かった。
 さらにそのお爺さんは「天竜川までは5分降りていけば着く」という。彼の面白い話の中、これだけは少々疑いたくなったが、道なき道を降りていくと本当に5分ほどで天竜川に着いた。

天竜川の流れ

 遠くには飯田線の橋梁とトンネルが、そして頭上には近年完成した「そらさんぽ天龍峡」が見える。美しく険しい自然の中に線路や道路を通した人間の力を見たような気がした。ただ、たまに車の騒音が響いてくるのは残念であった…。
 ゆったりと、尚且つ力強く流れる天竜川を眺めていると、自然と気持ちもスッキリしてきた。水を触ってみると、思ったより冷たい。川辺を歩きながら、ゆったりとした午後の時間を過ごした。

事件発生…

 事件といっても大して重大なことではない。
 天竜川を楽しんだ私は、駅へ戻ろうとした…しかし、もと来た“道なき道”が何処か、分からなくなってしまった…。とは言えすぐわかるだろうと思いながら、千代駅までの崖に道らしきものが無いか探していたのだが、なかなか見つからない。どこだろうと探し回っていたが、自分の背丈をゆうに超えるほどの草木に阻まれて全く分からなかった…。
 ふと足元を見ると、足元の砂に人間のものではない足跡があるのを見つけた。まるくて爪のようなものがついており、そして大きい。そう、これは紛れもなく、熊の足跡であった。
 このまま迷っていては、やがて日も暮れて熊の餌食になってしまう。崖を登っていこうかと考えていると、遠くに見える橋梁を373系の特急伊那路が通過していった。ということは…あぁ、もう40分も迷っているのか。今まで秘境駅訪問をやってきたわけではないのに初めてのときにこんな大胆なことをするべきでは無かったと後悔した。

ついに脱出!

 生えている草の種類や特徴的な木や竹などを目印に、端から端まで探し回っていると、漸く上へ行けそうな場所を発見した。草にまみれながら崖を登っていくと、向こうには飯田線の架線が見えた。よっしゃぁ!ついに脱出できた! この時の安心感は、今でも忘れない。
 1面1線の構内に屋根だけの待合室があるだけの駅が、これほどの安心感を与えてくれるなんて、思いもしなかった。

 もう辺りは暗くなってきて、私はやってきた列車にのってこの駅を後にした…。いざ去るとなると、不思議とこの駅にもっといたくなった。出発する列車の後ろから遠ざかる駅を見ていると、また絶対に、ここへきてやるんだという気持ちが生まれてきた。

 これが私の、思い出深い初めての秘境駅訪問です。これほど恐ろしい経験をしたにも関わらず私は秘境駅により興味を持ってしまい、その後の数々の駅へと訪問するきっかけとなったのでした。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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