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男の僕がメイクを始めた結果、恋人と別れたが自分らしくなれた話

あの失敗、あの別れがあったからこそ、いま自分らしくいられる。

自分らしくいることはとても難しく、最高に楽しい。

自分らしくいることは、最高に「自由」だ。

メイクとの出会い

 当時僕は付き合って1年ほどになる恋人がいた。関係は良好で、このまま何もなければ付き合い続けると思っていた。

一方で僕には容姿に対するコンプレックスがあり、特に肌に対するコンプレックスが強かった。肌や青髭を隠すためにマスクをしたり、額のニキビを隠すために前髪を長く伸ばしていることもあった。

そんなとき、偶然手に取った雑誌は僕に衝撃を与えるものだった。目に飛び込んできたのは、年齢が変わらない読者モデルの男性がメイクをしてレディースの服を着てヒールを履いている写真だった。レディースの服を着てメイクをするが女装でもないファッション、いわゆるジェンダーレスファッションである。

近年K-POPの流行もあり加速度的に男性のメイクをする割合は増加しているが、まだまだマイノリティだ。僕がその雑誌と出会ったのは約6年前、道端でメイクをしている男性を見る機会は一切なく、その概念自体が存在していなかったと言っても過言ではない。

しかし僕はそのファッションに強く惹かれた。

「僕の求めているものはこれだ。」と感じた。

そして翌日僕は、母のBBクリームをこっそりとメイクポーチから取り出し顔に塗ってみた。メイクの知識はないため塗り方はテキトーだった。

鏡を見た。

いつもは鏡を見ることが嫌いだった。

少し緊張した。

コンプレックスであるニキビの赤みや毛穴、青髭は目立たなくなっていた。

そのときの高揚感はクリームのベタベタした不快感を忘れさせるほどだった。そこから僕はメイクと共に生きることになる。

メイクをした自分と恋人の出会い

 いつも通り恋人と待ち合わせをした駅は全く違う風景に見えた。当時の僕はまだメイクをしていることを周囲に話すことはできなかった。

馬鹿にされたらどうしよう、引かれたらどうしよう、バレたらどうしよう、、

緊張しながら恋人を待った。

改札から出てくる恋人はいつもと何も変わらない笑顔だった。その表情に安心し緊張の糸が少し緩んだ。そしていつも通りの並木道の途中、恋人の一言で一気に僕の心拍数が上がった。

「なにか塗ってるの?」

たったそれだけ、たったその一言で僕の頭は恐怖心に支配された。咄嗟に僕は「あぁ、日焼け止めだよ。なんか色ついてるんだよね。」と誤魔化した。自分自身を偽ることに違和感を覚えながらそう答えることしかできなかった。恋人がどんな表情をしているのかを確認することはできなかった。その日の会話は覚えていない。

恋人の告白

 メイクを始めた日から僕はYouTubeのメイク動画を見漁り、はじめは緊張したがドラッグストアでコスメも買うようになっていた。周りの視線を気にしながら、ベースメイクだけだったがメイクをするのが当たり前になっていた。そんな不安定で新しい当たり前が恋人の突然の質問で大きく揺らぐ。

「最近メイクしてるよね?」

恋人に質問を投げかけられた。

「うん、してるよ。」

その一言を返すのにどれだけの勇気が必要だっただろう。真っ白になりそうな頭の中で、抱く必要のない罪悪感をなんとか押しのける。

「男の人がメイクって変だよ。」

きっと今までも気になりながら核心を突くことを我慢していたのだろう。恋人もはっきりとした口調だったが言葉を振り絞っているように見えた。恋人がメイクをする僕に対して自分の気持ちを初めて告白したのだ。

その日、僕は何故か謝ることしかできなかった。大きな違和感を抱えながら。今ではその違和感こそが「自由」の芽だったのだと確信している。

恋人との別れと「自由」の始まり

 その日から僕はメイクを続けるかどうか悩んでいた。いや、答えはきっと出ていたが決断ができていなかっただけかもしれない。そしてようやく気持ちの整理がついた頃、僕は既に「自由」と「失敗」へと歩き始めていた。メイクをするかしないかという、人によっては取るに足らないことで恋人と別れることはきっと多くの人からすると「失敗」なのだろう。それでも僕は自分らしく「自由」に生きることを選んだ。

「メイクはやめられない、それでもいいなら一緒にいてほしい。」

そう言いながら、本当は別れが来ることはわかっていた。メイクをした男性を見たことがなかった恋人がそれを受け入れられないことも十分に理解していたし仕方のないことだったと思う。答えは予想通りのものだった。

その別れがあったからこそ、思いっきり前に進めたのだと今なら思う。きっと何の別れもなく何の決断もせず何も捨てずに進んでいたら、今の僕はいなかったのだ。別れという「失敗」が背中を押してくれた。

 それからも白い目で見られた経験は何度もあった。しかしあの別れを凌ぐ痛みはない。むしろメイクをしていることで嬉しいことの方が多かったと感じる。容姿のコンプレックスは軽減され少し自信を持つことができた。人から褒められることもあれば、教えてほしいと言ってくれた人もいる。何より自分らしくいられる。

 さらには夢も持つことができた。「男性でもメイクをしてもしなくてもいい」世の中を創りたいという夢だ。これは男性でも女性でも関係ないが、メイクをすることを強制することは絶対にしない。しかしメイクをすることで少しでも自分に自信が持てる人がいるならば、その選択肢が傍にある状態を創りたい。

 あの失敗があったから、僕は自分らしく「自由」に夢を追いかけられる。



  


#あの失敗があったから

#ジェンダー

#メンズメイク

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