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『友達じゃない』(先行販売)


※こちらのテキストは2024年2月20日現在のものであり、2024年3月20日から行われる初演では、内容が一部変更になる可能性がございます。あらかじめご了承ください。


※BOOTHにてPDFデータのご購入も可能です。


※公演期間中に改めて決定版のテキストを販売する予定です。





あらすじ

友達だと思える人がいないことがコンプレックスだった吉村は、北区周辺で路上ライブをしている売れないシンガーを追っかけることだけが生きがいだった。
ある日、いつものように赤羽駅前で彼の歌を聴いていると、偶然通りすがった真壁という女性に出会う。「また会えるかも」とかろやかに去っていく彼女と、吉村は「友達になりたい」と思う。


登場人物

〈初演キャスト〉

吉村(村人)
〈A飯尾朋花/B中島梓織/C小澤南穂子〉
26歳。女性。正社員(事務職)。東京都北区在住。

真壁(めきゃべつ)
〈A冨岡英香/Bタナカエミ/C百瀬葉〉
28歳。女性。フリーター(倉庫内作業員)。東京都北区在住。

つとむ
〈A小林駿/Bてっぺい右利き/C藤家矢麻刀〉
25歳。男性。シンガーソングライター。北区周辺で路上ライブをしている。

有山
〈Aタナカエミ/B百瀬葉/C冨岡英香〉
25歳。吉村の同僚。 

小川
〈A中島梓織/B小澤南穂子/C飯尾朋花〉
25歳。吉村の同僚。


季節は夏の終わり。

真夜中。まだ少し蒸し暑さが残っている。
荒川を隔てて、吉村と真壁がいる。
二人はまだ互いの存在を知らない。

吉村は自宅にいる。部屋は人並みに整頓されている。
真壁は川辺にいる。電灯もなく、草木も手入れされていない。

吉村は、布団に横になって、動画サイトを観ている。
最初から最後まで夢中で観ているわけではなく、途中で違う動画に移ったりする。よくある企画だが、にぎやかな雰囲気。ときどき鼻で笑ったりする。
個人で活動している人の動画ではなく、グループで活動している人々の動画が多い。

ふと、虚無感に襲われる。
動画を停止して、スマホの画面を伏せて、布団の上に置く。

吉村、再びスマホを手に取り、動画を観始める。
おすすめに出てきた「つとむ」というシンガーソングライターの動画を開く。

♪1「退勤」
ひとりになれた 夜にも慣れた
扇風機の音 湯を沸かす音
生きたくなくて酒を飲むのに
死にたくなくて野菜とか食う
風呂に入らなくちゃな
誰かに言われなくても
布団に入らなくちゃな
できなくはないからね
気づいてほしいだけ
気づいてほしいだけだね
さみしくないふりが
ばれてほしいだけだね

吉村、目を見開き、やがて身を起こし、食い入るようにスマホを見つめる。急いで立ち上がり、去る。

真壁は、体育座りのまま、ただじっと川を見つめている。ときどき酒を煽る。
ゆっくりと立ち上がり、去る。

つとむの曲が止まる。

字幕
「友達じゃない」


季節は秋の始まり。

定時。吉村の職場。
吉村、爆速で帰る準備をする。
必死の形相だが、♪1「退勤」を小さく鼻歌で歌っている。

有山、ひょっこり顔を出して。

有山   吉村さん

吉村、我に返る。

吉村   はい?
有山   今日このあとなんかあります?
吉村   なんか?
有山   小川さんとご飯行こうかって話してて
吉村   あー、
有山   あやっぱなんかあります?
吉村   ・・・ やっ、
有山   (さえぎって)わ!!
吉村   はい!
有山   ごめんなさい!!
吉村   はい?
有山   なんかあるかの質問の答えの前に誘っちゃった
吉村   あー、
有山   ごーめんなさーい
吉村   いやいや、
有山   あ、まだ誘ってはないか、ご飯行こうかって話してて、までですよね
吉村   あ、たしかに
有山   誘います!
吉村   あ、はい
有山   (改まって)小川さんとご飯行こうかって話してて、吉村さんも一緒に、どうですか?
吉村   ・・・ えと、
有山   (さえぎって)あ!! ごめんなさい!! わたしまた!!
吉村   あ、いや、
有山   なんかあるか答えてもらう前に!!
吉村   ぜんぜんぜんぜん、わたしがはやく答えないのが悪いんで
有山   やっぱなんかありました?
吉村   ・・・ ごめんなさい、ちょっと用事があって
有山   ですよねなんかそんな感じでしたよね最初から!
吉村   すみません
有山   いやいや、かえってすみません、気使わせちゃって
吉村   いやいやいや
有山   いやいやいや
吉村   あの、また、機会があったら
有山   はい、また誘います!
吉村   お願いします
有山   はい
吉村   はい
有山   ・・・
吉村   ・・・
有山   大丈夫ですか出なくて?
吉村   はい?
有山   あともう帰るだけ、みたいな状態ですけど
吉村   あ、はい
有山   帰ってください
吉村   あ、帰ります
有山   あ、なんか帰ってくださいってなんか嫌な言い方ですね! 帰って大丈夫ですよ!
吉村   あー、ぜんぜん、もう、ぜんぜん、大丈夫です
有山   (落ち着いて)おつかれさまです
吉村   (落ち着いて)お先に失礼します
有山   はい、おつかれさまです

小川、出てくる。
吉村、小川とすれ違う。

吉村   あ、おつかれさまです
小川   おつかれさまです

吉村、去る。

小川   帰っちゃった?
有山   うん
小川   まあ、ですよね
有山   どこ行く?
小川   あのー、あそこ
有山   あそこ?
小川   あのー、蛇口ひねったら酒出るとこ
有山   やだよ、こないだめっちゃ酔っぱらってたじゃん
小川   めっちゃ酔っ払いたいから行くんだよ
有山   違うとこにしよう

など言いながら帰る準備をする。

有山   え、吉村さんってさ、帰ったら何してんだろね
小川   あー、
有山   なんかぜんぜん想像できなくない?
小川   ・・・ 洗濯とかしてんじゃない
有山   そういうことじゃなくて

吉村、爆速で赤羽駅に向かっている。
なんかぶつぶつ言っている。

吉村   ごめんごめんごめんごめん、「あっやべ」って思っちゃってごめん、「なんだこの時間」って思っちゃってごめん、いっつもふんわり断っちゃってごめん、だったらさっと帰ればいいのに嫌われたくなくて中途半端に会話に付き合っちゃってごめん、二人が思ってるほどいい奴じゃなくてごめん! ごめんねえ! でも、わたしには、一人で走らなければいけない理由がある。そのために、二人とは適切な距離を保たせていただきます。今日も一日おつかれさまでした!

一瞬立ち止まり、振り返る。

吉村   でも、友達。

すぐに走り出す。

吉村   二人は友達。有山さんと小川さんが友達であること、これからせんべろの街・赤羽で飲んだくれること、「酔っぱらいすぎ(笑)」と笑い合うこと、思い出みたいなのが増えていくこと。そしてそこにわたしはいないこと。あのひとに会いに行く道中、いまその真っ最中、考えずにはいられないのは、なぜだ。じゃあたとえば有山さんと小川さんと友達になったらってそういうことでもない。いやそういうことでもないとか言ってごめん。ごめん、ごめんなんだけど、うん。友達って、そういうことじゃない。こういうことうんうん考えてたらいつのまにかアラサーになってしまった。こないだまで高校生だったのに、ひとと仲良くなる方法がいまだにわからない。大人の着ぐるみ着てるだけで、仲間に入れてって言えない子供です。ああもう助けて、はやく帰らせて、はやくあのひとに会わせて~、え~? どうしてこうなった? いやまあふつうに、全部自分のせいなんだけど、


赤羽駅。
つとむがやってくる。

吉村   !!

吉村、立ち止まる。
つとむに話しかけるでもなく(なんなら距離をおきつつ)演奏が始まるのを待つ。
つとむ、準備ができる。

つとむ  すみませんじゃはじめますー

吉村、小さく拍手をする。
つとむ、♪1「退勤」を歌い始める。

演奏の途中、自転車で通りかかった真壁が立ち止まる。
吉村の隣に立つ。つとむの歌を聴く。
吉村、少しだけ、真壁を意識している。

演奏が終わる。
吉村、小さく拍手をする。
真壁、大きく拍手をする。

つとむ  わー、ありがとうございます
真壁   すごーい(拍手をしている)
つとむ  すごい、でかい、拍手が
真壁   あ、ほんと? ごめんごめん
つとむ  いや、でも、ありがとうございます
真壁   はじめて聴いたけど、すーごいよかった!
つとむ  おー、ありがとうございます
真壁   よくここらへんでやってるの?
つとむ  ああはい、赤羽とか王子とか
真壁   あ、そうなんだー! わたしもここらへん
つとむ  あ、そうなんすか
真壁   うん、職場は埼玉なんだけどね
つとむ  あー、川口とかですか
真壁   そうそう
つとむ  川口だったらぜんぜん通えますよね

吉村、真壁とつとむが話しているのを聞いている。
のがバレないように、スマホを見ているふりをしている。

真壁   ええじゃあまた聴きたいな、すごいよかった
つとむ  すごい言ってくれますね
真壁   すごいよかったから。あ、写真撮ってもいい?
つとむ  いいですよ
真壁   やったー

吉村、すごい二人を見てしまいそうになるが、耐える。
真壁、つとむを撮り、そのあと自撮りで自分とつとむを撮る。

真壁   売れたらみんなに自慢する
つとむ  わー、売れたいすねー
真壁   売れて売れて、で、埼玉スーパーアリーナ
つとむ  目標でけー
真壁   目指す分にはどんだけでかくてもいいからね
つとむ  そうっすね
真壁   そうそう
つとむ  あ、あの、僕一人のやつだけでいいんですけど、エアドロでもらってもいいですか
真壁   ああ、いいよー
つとむ  ありがとうございます

真壁、エアードロップで写真を送っている間に、吉村に気づく。

真壁   おねえさん、
吉村   (さもなにも気にしていなかったかのように)はい?
真壁   写真撮りましょうか?
吉村   写真?
真壁   二人の
吉村   二人、二人の
真壁   うん
吉村   あ、え、あ、はい
真壁   おっけ

吉村、真壁に促され、スマホを差し出す。
吉村、真壁に促され、つとむの隣に並ぶ。

つとむ  あ、どうも
吉村   あー、あー、はい
真壁   おねえさんはよく来てるの?
吉村   あ、えー
つとむ  よく来てくれますよね
吉村   !?!?
真壁   あー、照れちゃった
吉村   あっ、わ、だめだ! だめです!
つとむ  あ、だめですか? やめますか?
吉村   だめじゃないです! はい、すみません!

真壁、つとむと吉村の写真を撮る。

真壁   はいー、おっけー
吉村   すみません(真壁に)
真壁   いやいや
吉村   すみません(つとむに)
つとむ  なんで?
吉村   こ、これからも、応援してます!
つとむ  あ、ありがとうございます
吉村   はいっ、はい・・・

つとむ、荷物をまとめながら。

つとむ  あ、じゃあ僕、そろそろ、夜勤あるので
真壁   ああ、行ってらっしゃい
つとむ  行ってきますー

つとむ、去る。

吉村、真壁、なんとなく気まずく、去り方がわからない。

真壁   あ!
吉村   (声が大きいのでびっくりして)はい!
真壁   ああ、ごめんなさい
吉村   あ、いえ、
真壁   ツイッターフォローするの忘れた
吉村   ああ、
真壁   ここ、ここに、ねえ
吉村   はい
真壁   ここに書いてあったよね
吉村   はい
真壁   「つとむ」で検索・・・ してもこの世の大量のつとむが出てくるだけだよね
吉村   ・・・
真壁   おねえさんもしかして知ってますか?
吉村   あ、つとむくんの、
真壁   うん
吉村   はい、一応
真壁   あほんと! ちょっと教えてもらってもいい?
吉村   あえっと、t、
真壁   あ、見ないで言える感じ?
吉村   すみません
真壁   謝ることじゃないよ、すごいすごい、
吉村   すごくはないです
真壁   t、ね
吉村   t、s、u、t、o、m、u、d、a、y、o
真壁   「つとむだよ」
吉村   あ、はい、あ、で、アンダーバー
真壁   アンダーバー
吉村   2、1、0、6
真壁   ・・・ 「つとむ」?
吉村   はい(なんかうれしそう)
真壁   すごいつとむだね
吉村   そうなんです
真壁   あー、でてきたでてきた
吉村   あ、よかったです
真壁   ありがとう、
吉村   いえいえ
真壁   あー、あなんか、今日はここでやってまーすみたいな、
吉村   ああ、はい
真壁   告知されるんだ
吉村   そうなんです
真壁   えー、じゃあまた来よう
吉村   あ、
真壁   ここらへんなんです、わたしも
吉村   あー、へー(白々しく)
真壁   ん?
吉村   あ、いや、そうなんですね

真壁、自転車にまたがる。

真壁   おねえさんよくいるんですもんね
吉村   あ、まあ、よく、というか・・・
真壁   そしたらまた会えるかも
吉村   そうですね
真壁   じゃあまた

真壁、去る。

吉村   また、

吉村、スマホを見る。
自分と推しとのツーショットを見てしまい、スマホをぶん投げそうになる。
が、通知が来たのでぶん投げずに見る。

つとむのツイート
「今日は赤羽駅前でした。ありがとうございました。」
(真壁が撮ったつとむの写真)

吉村   わー、

吉村、顔を上げる。

吉村   なんだったんだ・・・

吉村、とぼとぼ歩いて帰る。
ときどき立ち止まって、つとむのツイートへのリプライを考える。

村人(吉村)のリプライ
「今日も楽しかったです!!!!(お写真撮っていただいてしまってすみません!!!!)」

まもなく、同じリプライ欄に、めきゃべつというアカウントから、つとむのツイートへのリプライが現れる。

めきゃべつ(真壁)のリプライ
「はじめて路上ライブで立ち止まったよ。聴けてよかったー!」

吉村   めきゃべつ・・・

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