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雨の粥の13篇の詩集

雨の粥の13篇の詩集

空港

展望デッキの裏で涙に暮れる
月明かりのうろこ雲が
隣りまで降りてきて
雲の上で会ったよねと告げる
そんなはずないよと言いかけて
国内線の離陸する音を聞いている




記念日

僕ら背伸びして盗み見た
柵の向こうの海を
ポケットに忍ばせて電車に揺られる
カフェのテーブルで一筋の雨になる
椅子の背に凭れて覗き込む万華鏡
今日は僕らが目を覚ました日




水死人の夢

枕元の小さな森の中
眠りの水漉を通って濾過された
私の悪魔が佇んでいるのです
封を切っていない手紙の水底に沈んだ
中世の様式の暗い礼拝堂で
熱に浮かされるまま
生い茂る川藻を口に詰込んでいました




流した涙の暗闇の色が
あなたのポストに届きましたか
返事は求めてないけれど
一度でいいから肝を冷やして
開いた封筒を取り落としてほしいの




沈黙

嘴のない鳥たちが
狭い階段に明かりを灯した夜
窓に映り込んだブラインドが
解けた
歓談がグラスの氷にぶつかる間
指先で震えるブラックホールが
私たちの間の言葉を飲み込む




前髪

誰もいない夜のプール
高さ数十メートルの飛び込み台
怯える足を引きずった
思い切って飛んだ水面で
広がった前髪が夢を見ている
そうかこの世界は
前髪が見ている夢なんだって
今さらだけど気がついたの




ベゴニア

空の向こうの窓のあなたと
繋がりを感じていられるなら
時計はとまり部屋の色が消え
名前も忘れて
いつしか片目だけ眠ったまま
蔦の絡まるアーチをくぐり抜け
ベッドの上でベゴニアが開いている
ああ
あなただ
そこにいたの




シャッフル

海の底に潜ってさ
仮面の博物館に行って
ずっと着けてた仮面を
生まれて初めて外してさ
取っ替えひっ替えして遊んだの
鏡に映った顔に驚いて
壁をズドンとやったらね
水が押し寄せてきたからさ
近くにあった仮面を被って
帰ってきたよ
いま被ってるの
どんな仮面?




メレンゲ

耳たぶに血が滲むまで川岸に
繊細な炎がふわり
暗い丘陵に沿って漂う
喧しいメレンゲを載せた
不穏なショッピングカートが
涯てしなく連なっている




こぼれ出した宇宙

マニキュアの壜を放り投げ
こぼれ出した宇宙を
運動靴が踏んで駆けていく
塵火花の星雲も伸ばした掌の上に
僕ら全てを手にし全てを知り
怖いものなんて何もなかったね




ひと休み

心の深海で瞬きしよう
奇妙な音階を並べ岩陰に寝そべろう
丸いあぶくを口から吹き出して
あなた自ら自身を責める言葉もなく
黃金色の猫毛を撫でていられたら




瞳の中

瞳の中にn個の宇宙があると仮定して
支柱が曲がっている洋燈を携え
私たちは洞窟に潜っている
通路には不確かな獣たちが佇んでいる
光を当てると瞳の宇宙に吸い込まれる
形の定まらない微細な影たちに
愛を伝えよと私たちを呼ぶ声が聞こえ




夏の匂い

夏の匂いが近づいて
素足で歩いた駅のホーム
鏡を覗き込んで
私は誰かの幽霊だって気づいたの




あとがき


なんかこう、もうちょっと長いのが書きたいと思うこの頃です。


原稿用紙2枚クラスの詩って好きです。
読むにも書くにもちょうどいいバランスで。

原稿用紙換算で捉えるっていうのは、余白も含んじゃうってことで、詩には不可欠な考え方だと思うのです。

少なくとも今のモードとしては。
あ、流行の意味ではなくって、私の何々モードってやつで。


今のモードといえば、最近書いているものは短くて読みやすいと思う。短いほど読みにくいっていうタイプの詩も世の中にはある中で。

読みやすいっていうと語弊があるかも?
言葉の意味を追いやすい、みたいな。


言葉の意味って、詩にとっては一つの要素に過ぎないけれども、意味を取りやすいと読むときの一口大が大きくなるというか、いわゆる(?)クリスプな文体ってやつだと思っておりまふ。


では、おやすみなさい。




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