あこがれのネイル
『ミズノさん』というキャラクター⬇️
の特徴上、青く塗っておりますが、私(ミズノさんの中の人)の手はほぼこんな感じ⬇️
こう言ってはアレですが、お世辞にも『白魚のような……』的な手ではありません。結構力強く頼もしい印象を持たれがちな手をしています。
爪の形も、マニキュアが映える感じではない。それにほぼいつも手荒れを起こしていて、職業柄、指紋もかなり曖昧になっています。
指紋が曖昧になる職業って、お前何して食っとんねんと思われそうですね。特に罪は犯していません。大丈夫、普通の会社員です。
学校ではざっくりと分子生物学をやっていたのですが、就職先的に手指洗浄消毒の回数が多く、且つ有機溶媒を高頻度で取り扱います。
なので、溶けちゃうのです。
⬆️の連中は脂肪を溶かす性質を持っておりますから、指先は、働けば働くほどツルッツル(悪い意味)になり、持ち手のないものやオシャレなグラスを片手で持とうものなら、自覚なく片っ端から落として割る始末。あ、と思った時にはもう遅い。
さて有機溶媒のお話について、脱線したわけではありません。今回の本題みすらある。
というわけで本題。
このお仕事をしていると、ネイルができません。
マニキュアが溶けちゃうし、溶けるだけならまだしもコンタミ(contamination)なんか起こそうものならタダじゃ済まない。殺されても文句は言えません。
( wet 系の理系進学したが故に人権を失った)学生の頃から現在に至るまで、ネイルとは『ほぼ』無縁です。他学部他学科の女の子は色とりどりの綺麗な爪をしていて、それがあんまりかわいいものだから、いいなあとうらやましくなって、声をかけて見せてもらった記憶があります。
その節は快く見せてくれてありがとう。不審者扱いしないでくれてありがとう。得体の知れない試薬やらなんやらが付いた薄きったねえ白衣で話しかけてごめんね。でも友だちになってくれてありがとうね。
学部にもよりましたが、全体の男女比でいえば圧倒的に男性の多い学校だったため、研究室も教授から院生から同期からもちろん男ばかり、彼らは気持ちの優しい理系男子たちなので、同じ研究室の女子を悪く言うことなど決してなかったのですが、それでも『おいミズノ、〇〇科の◇◇さんの爪、見た? ピンクだったよ』と話題をふられることはありました。
なんだよ、やれってか、と受けて立とうとすると『だめだよ!コンタミしたらやばいじゃん』とすぐさま否定するあたりがいいやつなのですが。
まあしかし、『ピンクだったよ』だってさ。
パンツでも拝ませてもらったのかと思ったよ。
分かるよ、かわいいよね。
かわいい女の子がかわいいネイルしてたら、そりゃかわいいよ。しかもピンクだもんな。かわいいのかたまりだよな。
実を言えば私はこの、同じ学年だけどちょっと年上の『ピンクだったよ』の男の子が結構好きだったので、今でもピンク色のマニキュアに憧れがあります。かわいいでしょう。
先ほど『ほぼ』と書きました。
どうしてもマニキュアを塗ってみたくて、水商売のバイト先のママから借りて、塗ってみたのです。
もう、冗談みたいに赤いマニキュアでした。
とんでもねえ赤。
還暦のお祝いみたいな赤でした。
とてもではないけれど、『よく似合う』とは言い難い仕上がりに、酔っ払いたちは散々笑ってくれました。高いバイト代をもらっていたのでその場では『豚に真珠〜!理系にネイル〜!』(※よく思いついたと感心している)などとやっておりましたが、まあ、帰ってみれば涙が溢れてしかたありませんでした。
つらかった。
だって、本当に塗りたかったかわいいピンクのマニキュア、この調子ではどうも、似合わないに違いありませんでしたから。
月日が経って、私は野球グローブみたいなゴツゴツの手の男性と結婚をしました。
現場でよく働く立派な男の人の手です。
指輪のサイズなんか、彼、25号もあります。
私の手なんか容易く粉々にできるくらい力もありますが、『ミズノちゃん、爪がちーっちゃい!!赤ちゃんみたい!!指の骨なんかこれ、発泡スチロールなんじゃないのお?!』と独特の表現で怯えて、いつもそっと触っています。三十路の指を捕まえて発泡スチロールとはなんやねん。安田化すな。
お嬢さんの頃に比べると怖いものもずいぶん減ってきて『似合わなかろうがなんだろうが好きなものは好きなんだからピンクだろうが青だろうが気に入ったマニキュア塗ればええがな女子大生ってだけでハイブランドやろが、つまりわしはハイブランドの延長線上じゃ、ええい、いったらんかい』の精神になった私は、『ピンクのマニキュアなんかした方が良いですか?』と夫に聞きました。
して、と言われたところで仕事に差し障りがあるのでしませんが、とりあえず聞いてみたのです。
『好きなら塗ればいいけど、だってミズノちゃん、仕事で邪魔になるでしょ、指紋溶かして仕事してる女の人が嫁さんになるとは俺も思わなかった。塗らなくても、ピンクで可愛いし、いいじゃない。』
だそうですよ、若い頃の私よ。よかったね。
この調子で生きていたら、還暦の頃にはスーパーハイブランド延長線上おばあちゃんになっている見込みですから、その時には、あのときの還暦のお祝いみたいなとんでもない赤いマニキュア塗ってやったって、いいかもしれないね。
ピンクよりもきっと、華やかに似合うさ。
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