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CPAが良ければいいのか、感動すればいいのか


マス広告にもPDCAを回して成果重視で行おうというWeb広告的な風潮が入り込んできている中で、上の記事の議論は常に広告にまつわるすべての人に付きまとう問題である。

広告主やブランドとエージェンシーとの間で、広告においてよく議論になることはなんでしょうか。それは、広告主は「売上など結果の出る広告」を目指し、エージェンシーは「クリエイティブの質が高い広告」を目指すという齟齬です。

施策の規模が大きければ大きいほど、今日のマーケティングでは媒体を横断したマルチな広告、もしくはPRの配信が重要になっている。

媒体単位で見れば代理店ごとに得意不得意こそあるものの、TVCMだけ流しても商品購入までの導線は見えづらく、またリスティング広告をはじめとしたWeb広告だけを配信してもTVCMほどの認知獲得を望むなら逆に費用がかさむといた具合に、限られた媒体に絞った広告配信は限られた成果しか得ることはできない。

マスとWebという二項対立的な構図はすでに崩壊しつつあり、逆に言えばこの垣根をより平坦にしていくマーケティング施策を進めていくことこそが、クライアントサイドにとっても代理店にとっても生き残る方法であるという認識は間違っていないはずだ。

しかしながら、マス広告とWeb広告の決定的な違いとしては、両者の「成果」の認識の違いによるクリエイティブの価値の従属的な齟齬である。

TVCMにおける良いCM、カンヌで評価される広告などもこれに当たるのだろうか。マス広告における良い広告、もしくはエンゲージメントの高い広告というのは、映像作品としてのクオリティも当然求められる。

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「泣けるCM」とYouTubeで検索するとおびただしい数の感動的なCMが出てくるが、これらのCMのおかげでジュースが何本売れたか、何件の契約が取れたかというのは、これは店舗での陳列のされ方や、競合他社が類似した製品をどのような形で売っているかなど、CM以外での変数が多いためそろばん勘定には向いていない。

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一方でWeb広告の方は、例えばリスティングでは100万円の配信で何件の製品購入や何件の契約が獲得できたかは明瞭なデータとしてフィードバックされる。

リスティングをはじめとしたWeb広告は複数の広告を同時に配信し、獲得件数や費用対効果を比較して新しいクリエイティブに差し替えるという形態が一般的であるため、一つのアカウントに対するクリエイティブの数はマス広告と比較にならないほど多い。

Web広告の場合は、クリエイティブがいくらきれいなものであっても、またどれだけ感動的なコビーを考えたとしてもそこに成果がなければ評価されることは少ない。

そんな中で広告のデジタルとマスが横断されて、より統合的なマーケティングが発達したときに危惧されるべきなのは、「映像文化としての広告」という側面が失われることである。

つまり製品やサービスがたくさん売れる広告が良い広告であるという規範の波の到来は、映像作品としてのCMの価値が脅かされる危険性を内包している。

更に言えば、広告はメディアによってその信憑性を保護されているという側面も忘れてはならない。

スマートフォン上の広告においてユーザーの抱いているイメージは邪魔、煩わしい、もしくは怪しいと答える人が少なくないのが現状である。

これに関してはどちらかといえばプラットフォーム側の改善も重要ではあるものの、Web広告が分析可能であるからTVをはじめマスにも思考様式を適用させたいというのは、あくまでユーザーの望んでいることではなく、費用対効果を重要視する企業サイドの願望なのである。

仮にマス広告にPDCA、ABテストを適用できるようにプラットフォーム側が柔軟化したとしても、テレビに出せるクオリティのCMを作成しないことには、マス広告の文化的な側面を損ない、ひいてはプラットフォームとしての効果を落としかねない。

統合型のマーケティングの風潮は広告代理店の競合としてコンサルが参入しつつあり、逆に広告代理店もコンサル業務に手を伸ばしているという業界のクロスオーバーも影響しているのかもしれないが、広告の文化的側面や、媒体ごとの広告の在り方を無視して施策を練って成果を得られると考えるのはあまりにも楽観的と言わざるを得ないだろう。




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