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創作のタネ「日本現代怪異事典」

本屋でなにげなく手にとった書籍が、創作する上で非常に役立ちそうな本だったので紹介します。
それは笠間書院刊 「日本現代怪異事典」(朝里樹 著)です。
私が付けるなら、この本のキャッチコピーは「創作資料の資料、あるいはインスピレーションの種」。

「日本現代怪異事典」はどんな事典か

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「日本現代怪異事典」は、戦後から現代まで、日本全国ありとあらゆる“怪異”(=超自然的な存在・現象・呪い・占い・物体)にまつわる話をまとめた事典です。
ベタなところでいえば「こっくりさん」「トイレの花子さん」「口裂け女」などから、ネット発の都市伝説「八尺様」や「きさらぎ駅」、ミスター都市伝説・関暁夫さんがテレビで広めた「ゾルタクスゼイアン」まで収録されており、初版第一刷の発行は平成30年1月と、比較的新しい。

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そんな膨大な数の“怪異”を引くための索引は、五十音順だけでなく、「都道府県別」「類似性」「出没場所」さらには「使用凶器」と、かゆいところに手が届く仕様。
妖怪・都市伝説・オカルトの類いがお好きな方は、単に調べるだけでなく、普通に読み物としても楽しめるかもしれません。

「日本現代怪異事典」をどう創作に役に立てるか〈その1〉

その1は、「資料の資料として」。

「オカルト」「心霊体験」という言葉や文化こそ、ノストラダムスと共に20世紀末に置いてきた日本人の黒歴史みたいなものですが、マンガ、小説、アニメ、媒体はなんであれ、今でも日本人はファンタジーやホラーが大好きです。
都市伝説も今は静かなブームですし、占いや神様、験担ぎなど、スピリチュアルなものはまだまだ馴染み深いもの。

創作するために、マンガを読むことはもちろん、映画も小説もドラマも、なんでもインプットすることは大事ですし、いざテーマが決まれば、キャラや背景を立てるために資料が必要になります。
「日本現代怪異事典」は、そんなホラーものや、なんらかのファンタジー要素の設定の“資料の資料”になるでしょう。

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事典なので、各項目はざっとした概要が書かれているのみですが、その初出はしっかり記されているので、いざもっと詳しいことを知りたいとなれば、その初出に当たればいいのです。
巻末には著者があたった参考資料も、書名・著者名・出版年・出版社と、きちんとリストアップされています。

つまり、「資料の資料」。知りたいことを知るための、まず最初のとっかかりとしての「日本現代怪異事典」。
“怪異”に関するものを調べたい時、その出所、詳しい資料は何を探せばいいのか、そのまず第一歩として役立ちそうです。

(……まあ中には2chのオカルト板のスレッドや、そのウェブアーカイブも含まれているのですが、項目ごとに「出典は何か」を突きとめて紹介している著者の情熱に驚きます。)

「日本現代怪異事典」をどう創作に役に立てるか〈その2〉

その2は、「インスピレーションの種」として。

映画を観てる時、本を読んでる時、特定のワードやシチュエーションに「これだ!」と創作のインスピレーションが降りて来ることがありますよね。

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「日本現代怪異事典」をパラパラとめくっていて、「殴る霊」を見た時、それがやって来ました。
曰く、友人が見つけた幽霊に対し「ふざけて俺が殴ってやると言い出し」、「一撃が霊に当た」り、「霊がその男を殴り返し」た。
曰く、「霊感の強い少年が」「後ろから幽霊に殴られた」。

本来、幽体である幽霊には物理的な攻撃は効かず、逆に幽霊に触られるということも稀なはずなのに……という意図で記されているこの項目ですが、「霊に殴られる」「霊を殴れる」その違和感が面白いと思いませんか?

すると、漫画原作者の私はこう思いつきます。

お祓いや呪(まじな)いの実力はからっきしだけど、霊に触れることだけができ、物理的にぶん殴ることで除霊する肉体派霊能者がいたら面白い!

「ゆらぎ荘の幽奈さん」の主人公・冬空コガラシは、一般的な霊能者としての資質はとぼしいが、霊をぶん殴ることで除霊する“肉体派霊能者”である。

……まあすぐ、すでにジャンプで長期連載になっているそんなマンガがあったことを思い出し、ち〜くしょう!と笑っちゃったわけですが。
(というかジャンプでは、“坊主が殴って斬って撃ちまくる!”「BOZEBEATS」という短命作品もありましたね。)

ここで私が言いたいのは、「日本現代怪異事典」のような概要のみで様々な怪異が網羅されている本は、同じ方向性の情報の渦だということ。
特にホラーやファンタジー要素のあるキャラや舞台、設定を描きたいならば、それに繋がるインスピレーションが湧く“引っかかり”が、きっといくつもあるはず。
そしてそんな引っかかった項目に関して、その出典・初出が書かれているのだから、気になったら、深堀りしたくなったら第一次資料に当たるためにも便利じゃないですかと。

特に日本人が好きな怪異、都市伝説にまつわる事典なので、ホラーや和風ファンタジーに関するインスピレーションを得るために、創作のタネに。「日本現代怪異事典」はオススメですよという話でした。

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というか、著者の朝里さんもまえがきにこう書いてます。

本書に書いてある情報をどう活用するかは読者の自由です。純粋に資料として読んでいただいても、出典を辿るために使っていただいても、創作の糧としていただいても構いません。

……神だ。ここまで情報を集め精査しまとめ上げたその怪異に対する情熱。敬服する他ありません。

関連書にも注目

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実は私、朝里樹さんの著書をほかにも発見し、即ポチってました。
日本現代怪異事典 副読本」と「歴史人物怪異談事典」です。

「副読本」のほうは、「日本現代怪異事典」の一部をコンビニ書籍風に解説したもので、文字ばかりの事典ではわかりづらい……という場合の補助的な位置づけでしょうか。

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「日本現代怪異事典」が日本の戦後以降のオカルト、超常現象、都市伝説を集めたものならば、「歴史人物怪異談事典」は弥生以前から昭和まで、日本の歴史上に登場する人物がどんな怪異に遭ったか、そのエピソードを集めた事典です。

項目は歴史順に掲載され、巻末索引は「人物名」「地域」のみならず「能力(怪力や、不老長寿など)」「関連性(祟られる、憑かれるなど)」で引ける仕様になっているのは「怪異事典」を踏襲した使いやすさ(?)。

怪奇現象やウワサ話ではなく、歴史上の人物に絡めたエピソード集なので、設定やストーリーよりも、歴史ものや歴史上の人物に由来するキャラクターの造形に役立つかもしれませんね。

(「歴史人物怪異談事典」は幻冬舎から発行されています。)


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