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世界は実は5分前に始まったのかもしれない

「世界は実は5分前に始まったのかもしれない。」
藤田は突然言い出した。
「何をまた馬鹿なこと言ってるの。そんなこと、あるわけないじゃない。」
私は即座に否定したものの、内心、この後の話を心待ちにしていた。藤田はいつも突拍子もないことを言い出す。周囲が呆れるようなことを言い出す。しかし、話を続けていくと、なるほどそういうことか、と納得してしまうことが多い。私は藤田が続きを話すのを待った。
「ありえない、とは言うものの否定はできないだろう?僕らの想像を絶するような存在が、5分前に、いや、1分前、5秒前だっていい、唐突にこの世界を作り出したという説を君は否定できない。」
「否定できないって、、、5分前は私たちあの公園にいたじゃない。そもそもこの世界は何十、何百億年も前に、ビックバンによって誕生したって、学者が研究を重ねた上でそう予想してるわ。」
流石の藤田も今回は暴論が過ぎる。そう思った。しかし、
「確かにそう言われてはいる。でもね、その、5分前は公園にいた、という僕らの記憶も、それどころかそれ以前の人生十数年分の記憶すら世界が作られたのと同時に植え付けられたものだとしたら?学者たちが研究を重ねてビックバンによって世界が誕生したという認識すら作られたとしたら?僕が東大を目指して受験勉強していたというあのかけがえのない日々の記憶さえ作られたものだとしたら?ありえないと感じる感性すら作られたものだとしたら?そもそも僕らの常識は通用しないんだ。否定はできないだろう。ならば、ありえない話ではないじゃないか。」
とてつもない屁理屈だ。しかし、確かに否定はできない。腑に落ちないが納得せざるを得ない。いかにも藤田らしい屁理屈ばった論調に私はぐうの音も出なかった。だが、藤田のそういう所は嫌いじゃない、というのが本音だ。むしろ、、、
「ところで、」
藤田がまた突然話を切り出した。
「僕が君のことが好きだ、と言ったら信じるかい?」
「なっ、、何をまた馬鹿なこと言ってるの!?あ、ありえないでしょそんなこと!あんたが色恋になんか興味ないだろうし、その、え、」
ありえない。藤田が恋愛感情を持つなんてありえない。しかし、藤田はこう続けた。
「しかし、僕が君のことが好きかどうか、つまり僕の心の内の本当の気持ちなんか、僕以外分からないだろう?君に僕の心は読めない。だから嘘かどうかも分からない。否定はできない。ありえないことは、ないじゃないか。」
藤田は顔を赤らめ普段より早口でそう捲し立てた。
「ほんと、馬鹿げてるわよ、あんた、、、///」

そんな屁理屈ばった藤田が、私は嫌いじゃない。いや、、、大好きだ。
〜Fin〜

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