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楽食探訪:じいちゃんばあちゃんのシュークリーム。

世の中には、「ここは何で潰れないんだ?」という
佇まいのお店がある。

古くて、みすぼらしくて、暗くて、
お客さんが来ているところを見たこともない。

以前、テレビで見たことがあるが、
配達やネット販売で稼いでいるから、
店頭では売れなくても良い、
という“からくり”があるお店を紹介していた。

ある日、車で初めて通る道沿いで、
古びたマンションの1階で営業する
ケーキ屋さんを見つけた。

店頭がすべてオープンなので、
営業していることはかろうじてわかるが、
お店の人もお客さんも姿がない。

まさしく、「何で潰れないんだ?」というお店だ。

このお店も例の“からくり”で
稼いでいるのかもしれない。

お客さんの姿は見えないけど、
決まった時間にはお客さんが殺到して、
繁盛しているのかもしれない。

本当はむちゃくちゃ美味しくて、
予約販売なのかもしれない。

いかん、ハマってしまった。
俄然、興味が湧いてきた。

その日は立ち寄る時間がなかったので、
後日、絶対に行こうと決めた。

それから、数日。
嫁はんとふたりで、車で1時間半掛けて、
そのお店を訪ねた。

ショーケースに並んでいるのは、
シュークリームとシュークリームとエクレアとエクレアと
贈答用の焼き菓子のみ。

デコレーションケーキの類いがまったくない。

ここは、シュークリームが人気のお店なのか。

でも、「シュークリームとシュークリーム」
という表現をしたけど、
それほど大量に並んでいるわけではない。

ショーケースのスペースが空いているから、
シュークリームの横にもシュークリームがあるだけだ。

ここでちょっと不安がよぎる。

「外観はみすぼらしいけど、味は良い」
というお店は結構あるけど、
そんなお店をお試ししてきた経験上では、
見ため通りにマズいということの方が多い。

期待は10%といったところ。

私たちは、シュークリームとエクレアを1つずつ買った。
で、車で食べた。

まずは、私がシュークリームをひと口。
嫁はんがエクレアをひと口。

ふたり同時に、「ハハハハハッ!」。

ある意味、予想通りで納得の笑いだ。
やや予想を超えている気もするが。

シュークリームとエクレアを交換して食べて、
さらにやや笑い。

粉っぽい。
大昔食べていたシュークリームの味だ。

昭和中の昭和。
50年前には美味しかったであろう。

しかも、なぜか水っぽい。

これは、何を入れているんだろう。
何かでごまかしているのは間違いない。

ヤマザキのシュークリームより安いので、
仕方がないか。

すっげぇマズいけど、私は腹が立つことはなかった。
面白いと感じていた。

この味で、いまだお店が潰れないのは奇跡だ。

長年の常連さんが支えているのか。

それとも、じいちゃんばあちゃんが年金暮らしで、
趣味や生き甲斐として、お店を続けているのか。

そう、このお店はじいちゃんとばあちゃんがやっていた。

店頭に出てきたばあちゃんは、70〜80代くらい。

奥で作業をしているのが見えたじいちゃんは、
明らかに80代以上。

老夫婦が、静かに地道に営業を続けている。

微笑ましいことだ。

もしかしたら、近くの幼稚園や小学校から
注文があるのかもしれないと、ふと思った。

小さい子なら、美味しいと思うかもしれない。

ならば、これからも夫婦で頑張って欲しい。
潰れずに、残っていて欲しいとも思う。

私はもう買わないけど。

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