楽食探訪:本物のわらび餅って?
食べたい、食べたい。ぜひ、食べてみたい。
人には、そう強く願うものがある。
その機会を心待ちにしている時間が楽しかったりする。
でも、それほどの熱い想いもなく、
知らないものだから食べてみたいと、
ぼんやりと考えているものもある。
それは、知識欲と言っても良いだろう。
知りたいという気持ち。
私にとっては、「本わらび餅」という存在がそれなのだ。
子どもの頃、家の近くまで、
リヤカー屋台を引いた「わらび餅屋さん」が来ていた。
確か、おばちゃんだったと思う。
鐘をチリンチリンと鳴らしながら、近づいてくる。
その音を聞くと、食べたくて仕方がない。
私は、小銭を握りしめて、走って行く。
おばちゃん、ひと皿ちょうだい!
ひと皿とは言っているが、その頃は、
たこ焼きを入れる竹の舟に入れていたので、
皿ではないけれど。
おばちゃんは、氷水に入ったわらび餅を網ですくい上げ、
決してキレイとは言い難い手ぬぐいで水気を拭いて、
竹の舟に盛り、上から砂糖入りのきなこをふりかける。
それを家に持ち帰り、一所懸命にゆっくりと味わう。
ゆっくり食べなければ、
辺りがきなこだらけになるからだ。
ひんやり冷たいわらび餅は、非常に旨い。
残ったきなこも舐め尽くす。
何度も何度もこの屋台に走って行った記憶がある。
子どもの頃の鮮明な思い出だ。
やがて大人になり、
ショッキングなことを知ることになる。
あのわらび餅はニセモノだったと。
粋な大人の出入りする甘味処で出されるわらび餅は、
とろ〜んとしていて、茶色いものが多い。
私の知っているわらび餅は、
透明で、少し両端の尖った俵のような形。
プルンプルンとしているが、とろ〜んではない。
私が食べていたものは何だったのだろう、
という疑問が沸き起こる。
ショックだった。
私が食べていたのは、芋の澱粉だけで作ったものだった。
あの屋台のおばちゃんは、幼気な私を騙していたのか。
まぁ、貧乏人を喜ばせるための
社会のしくみのようなものだけど。
それからの私は、わらび餅という言葉を聞くたびに、
本わらび餅を食べたいと考えてしまうようになった。
でも、食べたい食べたいと強く願うものではないので、
また、すぐに忘れてしまい、時は流れて行く。
そして先日、ついにその日はやって来た。
普通にスーパーで買い物をしていると、
棚に“わらび餅”の文字が。
茶色い佇まいは、
私のわらび餅ではないことを示している。
おっ!
もしかして、これは?
裏面の原材料名を見ると、これは……本物。
これまでも売っていたのかもしれないけど、
興味が薄かったせいで、見逃していたのだろう。
これは、買わなければ。
やっと手に入れた、小さな願い。
どれほど美味しいものなのか。
家に帰り、別添えのきなこを掛けて、そっとパクリ。
ブヨブヨ、グニグニ。
美味しそうな表現ではないけど、
感じたままを書いている。
味は、ニセモノと違って、ある。
そう、味があるとしか書けない。
例えるものが浮かばない。
紅茶のような、薄いほうじ茶のような。
中に砂糖が入っているらしく、ほど良い甘さは感じる。
これが、本物。
粋な大人が食べる、本わらび餅。
そんなに旨いか?
というのが、正直なところ。
結構高い値段で売られているけど、
それほどの価値があるとは思えない。
私は、ニセモノの方が好きだ。
美味しいと思う。
またひとつ、小さな憧れが落胆へと姿を変えた。
後日、このわらび餅が「本わらび100%」
ではないかもしれないことを知った。
「わらび粉」という表示は、曖昧な表現だという。
本わらびは入っているが、他に混ぜものがあるかも、
ということらしい。
いわゆる業界の裏事情だ。
まぁ、私は得心したので、わらび餅への興味は捨て去る。
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