楽食探訪:幻想だった、「ほっともっと」への憧れ。
都会暮らしの時に、
ほか弁屋さんを特に意識したことはなかった。
安くて、美味しくて、すぐに買うことのできる
便利なお店ではあったが、
いまほど“渇望”する存在ではなかった。
田舎には、当然、ほか弁屋さんは少ない。
と言うより、ある方が珍しい。
ところが、我が家から車で30分走れば、
なんと、2軒の「かまどや」がある。
田舎で、この存在感は大きい。
ほか弁は、ときどき食べたくなる。
スーパーやコンビニのそれとは、まったく別物だから。
できたてで温かいお弁当は、やはり美味しい。
家に帰る30分で、ある程度は冷めているが。
それでも、美味しい。
とても有り難い。
有り難い存在であることは重々承知している。
でも、でも、飽きる。
田舎に住んでいるのに、
何を贅沢なことを言っているのか
と怒られるかもしれないけど、
都会で生まれ育った私はわがままなのだ。
たまには、別のほか弁屋さんで買いたい。
「ほっかほっか亭」も食べたい。
テレビコマーシャルで美味しそうなお弁当を見せてくれる
「ほっともっと」も食べたい。
そんな思いを抱き始めたのは、もう10年以上前のことだ。
和歌山にお店はないものか、
とネットで探し始めたのもその頃。
「ほっかほっか亭」はあったが、遠い。
まぁ、「ほっかほっか亭」は、
大阪にいる時によく利用していたので、
それほど強い思いはなかった。
憧れは、「ほっともっと」。
「ほっかほっか亭」から分裂した、
比較的新しい企業なので、利用したことのない、
未知の存在だった。
田舎暮らしを始めたからには、
いろんなことを諦めなければならない。
それはわかっている。
どうにもならないことなので、
あまり考えないようにした。
でも、食べたい、食べたい、食べたい、が募っていった。
それから、時々ネットで出店を確認していたら、
その数年後、和歌山にとうとう進出してきたではないか。
何て素晴らしいできごとなんだ。
これは、行かなければ。
と思ったけれど、車で1時間半以上は掛かる。
出店された地域は時々行く場所だけど、
わざわざ出掛ける場所イコール「外食」となってしまう。
田舎者には当然のことだ。
遠くまで行くからには、
あれやこれや行ってみたいお店がある。
となると、ほか弁屋さんは利用できない。
ジレンマ。
そこから、ウジウジする日々が続く。
もっと近くにできないのだろうか。
せめてあの辺りに、と思う。
またまた、数年。
遠出した帰り、家まで40分ほどという場所に、
あのマークを発見。
えええぇぇぇ〜〜〜〜、こんなところに?
とうとう、やって来た。
憧れのお店が、近くにできた。
40分を近くと言うのはどうかと思うが。
これほどの感動は、そうそうあるものではない。
失礼ながら、ほか弁屋さんに喜んでいる自分がおかしい。
でも、嬉しかった。
その数日後、車でそのお店に向かった。
弁当を買いに、40分。
最初に何を買うかは決めていた。
ほか弁屋さんの基本中の基本。
「のり弁当」だ。
安い価格で、どれほどの価値を生み出しているかで、
そのお店の意気込みがわかる。
やっと買うことができた。
やっと食べられる。
初体験に、ガツガツしてしまう。
食べ始めて、1分。
あれ〜〜〜〜〜。
おや〜〜〜〜〜。
こんなものなのかぁ〜〜〜〜。
おかしいなぁ〜〜〜〜。
美味しくない。
魚フライは、たんぱく過ぎる。
ちくわ天は、小さ過ぎる。
かろうじて、きんぴらと漬け物は美味しいが、
肝心なご飯がマズい。
ウソだ。
こんなはずではない。
私の夢は……。
私の憧れは……。
思い続けた月日はどうなる?
アァ〜〜〜〜〜〜!
落胆!
これでは、「かまどや」の方が旨いじゃないか。
あんなに美味しそうなコマーシャルを流していたのに、
現実はこれか。
ショックが大き過ぎる。
私は、数日立ち直れなかった。
でも、ふと考えた。
もしかしたら、他のお弁当は美味しいのかも。
安いのり弁は手を抜いているのかもしれない。
まぁ、手を抜いていたら、それだけでダメなお店だけど。
しかし私は、ほんの小さな希望を抱いた。
よし、別のお弁当をもう一度買ってみよう。
で、しばらくしてから、また足を運んだ。
車だけど。
「和風幕の内弁当」。
これは美味しいかもしれない。
…………ガァクゥ〜〜〜〜〜〜ン!
マズい!
私が何年も憧れていた存在は、ただの幻だったのだ。
人生の大切な時間を無駄にしてしまった。
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