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【書評】『地球星人(新潮社)』 村田紗耶香

以前『コンビニ人間(文藝春秋)』を読んで以来
村田さんの作品を読むのは二回目です。

『コンビニ人間』では
一見フィクションに思える内容に惹きつけられたのと
主人公の価値観がぼくのそれと似ているのを感じたことを覚えています。
このことから今回の『地球星人』には大きな期待を寄せていました。


「常識は伝染病なので、自分一人で発生させ続けることは難しい。」

こんな言葉がありました。

自分のことを宇宙人だと主張する夫婦(奈月と智臣)の二人と
宇宙人だともなんだとも思ってない奈月のいとこ(由宇)が三人で一ヶ月ほど一緒に生活しているシーンでした。

奈月と智臣は世間一般で言われる“変わり者”。対する由宇は一般的に言われる“普通の人”。

しかしここでは由宇がマイノリティ。
つまり由宇の常識は通用しません。発生させ続けることが難しいのです。
反対に奈月と智臣の常識が<常識>となり由宇に伝染します。

由宇のような常識は、マジョリティであるがゆえにこの世の<常識>になり得ているだけであって、あくまでも万人の<常識>ではありません。

こんなことを感じました。


続けて
「常識に守られると、人は誰かを裁くようになる。」

という文がありました。
由宇や陽太(奈月の別のいとこ)は奈月や智臣に彼らの<常識>を日々突きつけてきます。

「そろそろ結婚する年だし、子どもとか考えてないの?」
だとか
「奈月が由宇と二人で寝泊まることになったら智臣のことを気遣ってしまう。」
だとか。

二つの例のようなことは、上でも述べたように
あくまでも多数派の<常識>です。
要するに
由宇や陽太、他ほとんどの人はその<常識>に囚われているだけ。

奈月や智臣のように
二つとも気にしない常識の人もいるだろうから、
この無意識の<常識>の押し付け(少数派への裁き)は怖いなと思いました。
価値観の違いについては慎重になるべきです。


冒頭にも述べたように
村田さんの作品は『コンビニ人間』と合わせて二作品しか読んだことがありませんが、
フィクションのようなものを語りつつ
それがしっかり現実にあるという事実を踏まえた物語が好きでした。
ただ今回のラストは少し行きすぎたように思えます。
小説だから発想を飛ばして当たり前だし、作品にとやかく言える立場でもないですが、現実を超越してしまったようなストーリーで少し残念でした。

どのようなものなのかは是非自分でお確かめください。笑

ラストこそこのような感想になってしまいましたが、やはり村田さんの考えや物語はぼくの好みに合うものでした。
これからまた他の作品も読んでみようと思いました。

『地球星人(新潮社)』 村田紗耶香



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