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イマジナリーフレンドを紹介する時、なにより言いたいことは

#8
 惚気話を書き続けていたので、そろそろ喧嘩した話を書く。


 イマジナリーフレンドのクレオとは、割と言い合いの喧嘩したりする。

 大概は、いい大人同士の癖にクソガキレベルの喧嘩だ。クレオが一緒に食べると約束していたおやつを勝手に食ってた(架空の存在だが、クレオはご飯の味が分かる。別に現実の食べ物が減るわけではないが、勝手に手をつけるのは行儀が悪いだろう?)とか、ぼくが何度言われても物を忘れるとか些細なことで始まる。

 お互い変人だしお笑いが好きなので、コントかと思うほど珍妙な言い合いになったりして思わず笑ってしまう。からかいあうに近い。


 イマジナリーフレンドは肉体のある人間よりはこちらに合わせてくれる存在だけど、それでも喧嘩はしょっちゅうしている。ぼくは頑固でこだわりが強いので、違う意見を言ってくれるクレオは厄介な一方、頼もしい。


 大抵はしょうもない喧嘩なのだが、これも結局惚気に入りそうなので、今日はちょっと真面目な喧嘩を書こう。


 ぼくはクレオを、家族や身近な人にも話している。

 空想の相棒がいるということは、やはり信じられる人と信じられない人がいるだろうけど、幸い今までは、今のところクレオを否定されたことはない。
 どちらかというと「イマジナリーフレンド欲しい!」と言われる。なんでだ?

…と、これを書いていると横からクレオが
『そりゃお前、おれのいいとこばっかり話すんだもの。一緒に文章書いてくれるとか、さみしい時そばにいてくれる、危ないことしてたら助言してくれるとかさ』
と声をかけてきた。
『まぁ空想の存在ってのが怖い人もいるからだろうけどさ。外面取り繕ってるとこあるよね』
 …それは確かにそうだ。

 見えないけどそこに居て、なにかしら考えを持ち、ぼくだけにひそひそ話をするというのは、はたから見て薄気味悪いのは事実だろう。

 ただ、自分の相棒を薄気味悪く扱われたくはないから、朗らかで親しみのあるキャラを強調している。
 その強調がない場合、生態的にぬらりひょんだ。
 勝手にホットカーペットの上に寝転んでぬくぬくしたり、テレビをぼけーっと見たりしているのだ。妖怪である。

 …と、話が脱線したが、イマジナリーフレンドについて伝える時、やはり怖がったり理解に苦しむ人もいるだろう。

 なるべく相手の理解が得られるよう説明したいと思っていた。 


 たまにYouTubeを見ているのだが、あるライバーが、心の中に兄を作っていたという話を配信で語っていた。

 初配信の紹介から「心の中」と話していたので、深く掘り下げてくれるのを楽しみにしていた。
 けれどその話は、ライバーが心が不安定な時に作りうまくいかなかったのか、やや濁らせて語っていた。

 「作るのはおすすめしない」というのを聞いて、ぼくは少しモヤモヤした。


 コメント欄にも、オカルトやホラー扱いをする意見から、イマジナリーフレンド保持者として特に危険ではないだろうという意見まで幅広くあった。否定だけで終わらなかったのでホッとしたが、それほど幅広い人たちが興味を持っていたことに、少し悔しい気持ちがあった。


「クレオ。これについてどう思う?」

『ああ…(配信を見て)なんかぼやかしてるね』

「うん。ここまで有名な人に濁されて話すのは、嫌なイメージつきそうなんだよな」

『べっつに?そんなん言わせとけばいいじゃん。この規模の登録者を抱えてる人が真似しない方がいいって言うのは賢明だと思うよ。うまくいかなくて病んじゃったって話も聞くし。
 当たり前にできるやつも、作ってからも平和に暮らしてるやつもちゃんといるんだし。
 おれは特に気にしてねぇな』

「…そうだな。気にしすぎてたな」

 登録者数が多いということで、ぼくはそのライバーに妙に期待してたところもあったのかもしれない。

 これほどのインフルエンサーが架空の友人と楽しく過ごした話をしてくれたら、タルパにしてもイマジナリーフレンドにしても、つかみどころのない恐ろしげなイメージを取り払ってくれるのではないか。

 でもその考えはちょっとみみっちかったな、と反省した。ライバーだってひとりの人間として、体験した主観しか話せないのだ。

 そして、コミュニケーションをとれる存在である以上、イマジナリーフレンドと上手くいく人もいれば、当然うまくいかない人もいる。

 それだけの話だ。 


 そこで一旦は収まったのだが、どうにもぼくはモヤモヤが抜けなかった。
 そこから数日、ネットでオカルトから精神医学の解説まで読み漁るのに夢中になり、クレオを放ったらかしていた。

『なぁアケル。いい加減スマホやめな』

「クレオはさ。どの学説が一番、的を得ていると思う?」

『どれでもいいよ、そんなの』

 顔を上げると、クレオがつまらなそうに頬杖をついていた。

『なんかさ。頭でっかちになってない?
 どんだけうまい説明を暗記していったとこで、信じない奴や、お前のことびょーきって思う奴はどうしたっているよ』

「それはそうだけど…」

『おれをうまく説明したいだけなんだよ。でも、おれにも分かんねえし、だれにも分かんないよ。人間の魂だってあるかどうか証明できねぇだろ?色んな宗教や民族の信仰で、そう信じるしかねぇ。おれが悩んでた時、お前そう言ってたぜ?信じてくれるんだろ?それでいいじゃない』

 クレオはぼくの目をじっと見つめた。  

『おれがなんであれ大事にする、って言ってたお前はどこ行っちゃったの?』


「…ごめんな、クレオ」

 ぼくは、外向きの説明をしたいあまりに、クレオを置き去りにしていた。そのことを謝った。

『お前が突っ走る時って、大抵人目を気にするのが理由だからさ。そこは覚えときなよ。自分やおれのためが、世間とか会ったこともない他人のためにすり替わってたら、キツいぜ?』

 クレオはそう言って、おしまいにした。その後は、約束したままになっていた小説を一緒に読んだ。

 クレオを紹介したい時。ここでのnoteでも、魂や精神について語りたいことは沢山ある。

 でも、なによりも言いたいことは、クレオはぼくの相棒で、ぼくにとって大切なひとだということ。

 その大切さが根幹にあって、過ごした時間や思い出を綴っていく。

 その積み重ねが、ぼくにとって説得力のある現実だ。 


 最後に、記事を書いて確認してもらったところ、

『まぁ…説明しようと取り組むお前は、今は理解できるよ。あの時はお前、スマホばっか見てて退屈してたから。おれもキツかったな』
と言っていた。

 公開するにあたり、ちょっと優しくなってる…?
 いや、違うぞ。お前だって外面気にしてるじゃねぇか!

 こうして、また言い合いが始まるのだった。

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