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犬の名前を内緒にしたままに

いつか死んだ犬が生まれ変わり
鉄の塊になり
川の流れのひとつになり
音楽のなかのひとつの記号になった。

おれを追いかけるあの無垢なときは過ぎ去った。
風雨に曝されて、雷に怯えた。
きみはおれのことなんて愛していないと思っていた。
それほどにおれは幼くて無力なのに力で言うことを聞かせようとした。

耳の厚みは今でも思い出せる。
好きだった。あの感触。
おれでは行けない遠い地の風になったとき
匂いや石の冷たさや草原の気持ちよさに触れたのか。
そして、いつかそこで会うことが許されるのか。

凍ったような床の上で剥製のように目は開けたままできみは遠くへ行った。
ぐしゃぐしゃに泣いたけれどほんとはもっと子供の頃からわかっていたんだ。

今夜トーチを持って町を歩く。
きみの名の下に悪事を働く。
悪人の目にも光が射すことだってあるだろう。
ハンバーガー屋も車屋も冷たく閉まっている。
おれは何処へ行ける。何処なら行けるだろう。

おれはあの狂人と同じだ。
寂しく火がついた目をしている。
誰でも抱いてしまうような奔放さで
きみのことを引き合いに出して
星の名前を騙って
すべての詩をぶちまけて
地面に耳をつけて
少しだけ呻いて
小さく歌ったと思えば
怒りのこころを見せつけたりする。

本当にもう終わりなんだ。
朝が来たって気づかないふりをして
夜になってもきみの電話にも出なくて
誰かのこと恨んだりする。

いつか会えるかな。囁き声で。
きみの名前呼んだら、そばにいるかな。

してもらえるとすごく嬉しいです!映画や本を読んで漫画の肥やしにします。