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花を壊す

おれにはわからないことが100個以上ある
それは昨晩寝るまえに数えたからわかるんだ
月が板っぺらのことや、人間の頭には蛍光色の水が溜まってるということなど
誰もが知っていそうでおれだけの秘密のようにも感じる
そうしているうちに朝が来て準備をした
鏡の前に立って毎日少しずつ変化する顔を確かめる
ブラシで身体中磨いて産毛を撫でてやるんだ
朝ごはんはパンツだけ履いて食べる
目玉焼きは油をひいて裏を火事で焼けた木の肌のようにする
椅子はべたべたしている、というか部屋中が皮脂汚れのようにべたべたしている
作業着を着て家を飛び出す
懸賞で当たった家だから近所の家よりも外見はきれいだった
おれはそれをよく見てから会社に向かう

工場ではゴムでできた人形を作る
タイヤをぶった切ってそれを薬品で溶かして人形にするんだ
子供向けの人形のシリーズの乳母車に乗り損ねた赤ん坊の人形を専門に作っている
「やってられないよな」誰かが誰かに小さく叫ぶ
おれは割と気に入っているんだ
おれにはおれの哲学があり、それによって仕事も乗りこなし人生について考えることだってできる

仕事は機械のトラブルで午後になる前に帰された
おれは煙草屋に寄って毎回違う種類の煙草を買う
疲れ切った老婆が返事もせずに煙草を取り出す
おれだってお礼なんて言わない
これはただ石と石の関わりだ
石は話さない

二日前に映画で殺されていた役者がほんとうに殺されてしまった
テレビではそのことばかりやっている
自分の死について考えれば冷たい土の感触を想像する
考えながら瓶のビールを二本飲んで眠りの感覚を掴もうとしていた
外で近所のひとが集まりバーベキューをしている
開け放った窓から脂のにおいが入り込んでくる
おれは誘われない
みんなおれの家を羨んでいるんだ
中からじわじわと朽ちていっていることも知らずに

やがて夜が来ておれは着替える
昔の潜水服を着て
銛が飛び出す銃を持って車に乗り込んだ
おれはあわてたように煙草を吸う
車を飛ばして隣町まで行く
夜の高速道路は色の洪水だ
すべての車が焦っているように思えた

道のはずれにあるガソリンスタンドにはコンビニがあった
そこに決めておれはコンビニに乗り込む
店主がひとりだけいてクロスワードをしていた
おれの方を見ると驚いて立ち上がる
「金をあるだけありったけくれ」
彼がお金をレジから取り出して渡してくる
おれはそれを奪うように取って車に乗り込む

その足で元いた町に戻り花屋に寄った
小さな露店の花屋だ
彼女は盲目で、だが花に詳しかった
おれは花をすべて買い取る
「ほんとうにいいのですか?」
おれは返事をせずに金を握らせてその場を去る

家に帰るとたくさんの腐って朽ちてしまった花がバスタブに溜まっていた
おれはそこに新しい花を覆いかぶせるようにして置いた

明日はきっと仕事は休みになるだろう
おれは眠り夢を観た

山火事からの飛び火で町のすべての建物が焼けて
おれの家ももれなく焼け落ちる
みんな暗い気持ちで立ちすくむ
そうなるとやっと近所のひとがおれに声をかけてきた
「あんたの家立派だったのに災難だったな」
「いや、どの家だって立派だった」
許し合えたことの喜びでなみだがこぼれる
空からは腐った花が降り注ぎ
こどもがそれに触れようとして母親に叱られていた

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