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さよならと鳥は言ったか

おれが死のうと決めたのは先月のことだった
鏡の海を渡り、砂の星を越えてやっとのことで家に帰ったときにふとそんな気分になった

おれの身体の空洞に住む鳥は言う
「やめておけやめておけ。お前はそんなタマじゃない。無理さ。言うだけさ。」
おれは本当にそうしたいんだと鳥に伝えるとやたらめったら羽ばたいて気分が悪い
おれは怒って硬貨を飲み込む
カツンと音がして鳥は静かになるがロボットみたいに同じ動きを繰り返す羽目になった

図書館に行って調べると
青いロブスターを食ったら安楽に死ねると本に書いてあった
おれはロブスターを食わしてくれるレストランへ行くがボイルする過程でどうしても赤くなること
青いロブスターをそのまま食うのは法律で禁じられていることを知った

だからおれは桟橋から糸を垂らしてロブスターがかかるのを待った
鳥がまた身体で暴れて回路をひとつ引っ張った
記憶がめちゃくちゃに再生される

きみのことを思い出す
隕石降る町で触れたその頬も
海で飛んだ帽子、燃える車
眠りにつく瞬間の顔…

気づくと100年が経っていた
おれは埃をはらって海に飛び込む
魚もイカも貝もすべてが巨大だった
おれはどんどん潜る
岩の影にロブスターを見た
おれは手を伸ばし掴む
「青いロブスターだ!」
その時天と地が逆転しておれは宇宙へ落ちていく
おれは慌ててロブスターの殻を剥いていく
鳥は内側から暴れてついにおれの外へ飛び出した
あんなに一緒に暮らしてきたのに
挨拶もなしにいっちまうんだ

おれは笑っている
おれは死ねるんだ

「それにしてもあの子のこと想ってこんなに時間が経つなんて」
「祈りみたいじゃないか」

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