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最適な抗菌薬の選び方

本日は、抗菌薬適正使用の具体的な方法についてお話いたします。

まず前提として、2つの感染症診断
 ・臓器・解剖学的診断
 ・微生物学的診断

この2つの診断が適切であることが、感染症診断が適切であることが、感染症治療を適正なものとするのに必要でした。

そして、微生物学的診断(予想・推定もしくは特定されたもの)が「細菌」の場合に、感染症治療薬(抗微生物薬)として「抗菌薬」が登場いたします。

もし、微生物学的診断が「細菌」以外であれば、抗菌薬はそもそも「不必要」となりますね。(「抗菌薬」は「細菌」を治療対象とする「抗微生物薬」でしたね)。

ここまでの前提条件をみたしたものについて「抗菌薬適正使用」の根幹をなす、最適な抗菌薬を選択するための方法・順序のお話をさせていただきます。

抗菌薬をどのように選ぶのか?

第一段階は2つの感染症診断の確認ですね。
 ・臓器・解剖学的診断
 ・微生物学的診断

を認識し、感染症治療効果が得られると想定される「抗菌薬の選択肢」を列挙します。

この際に、できる限り沢山の「抗菌薬の選択肢」を上げられることが、その後の感染症治療をラクにすることになります。

それは、ある抗菌薬使用中に副作用等でその抗菌薬が継続困難となった場合に、治療薬選択肢が沢山あれば、代替抗菌薬を速やかに選択できるからですね。

第二段階は、副作用や問題となる他の薬剤との相互作用の確認となります。

第一段階で、できる限り沢山の抗菌薬選択肢を上げるほうが望ましいのは、副作用や相互作用で選択できなくなった場合に、代わりの抗菌薬選択肢をあらかじめ「予想」し準備しておくことが可能となるからです。

第二段階までで、「治療効果」「副作用」で抗菌薬を選ぶことができました。

この「治療効果」「副作用」で治療薬を選ぶことは、感染症以外の疾患の治療薬を選ぶ場合にも行われていることですので、読者の皆様にも納得が行くのではないかと想像いたします。

次に第三段階です。

ここからが感染症治療・抗菌薬選択に特有のものとなります。

第三段階では、本ノートの最大のテーマである「薬剤耐性(AMR)問題」の視点からの選択です。

薬剤耐性菌の産生および選択を最小限とする発想からの抗菌薬選択ですね。

これまでの、多くの感染症・抗菌薬治療の教科書では、この第三段階までの記載が多かったように思います。

ここからさらに筆者は、最適な抗菌薬選択~第四段階を提案いたします。

それが「最小限のコラテラル・ダメージ」という発想からの抗菌薬選択です。

コラテラル・ダメージとは?

簡単にお話すると、「抗菌薬が目的とする病原菌以外の正常細菌叢を攻撃し、正常細菌叢を殺菌・減少させてしまうこと」となります。

近年、腸内細菌を中心に、人間のカラダに住んでいる「正常細菌叢」”normal flora”の果たす重要な役割が徐々に明らかになりつつあります。

このヒトの生命維持に大変重要な正常細菌叢。

これを殺菌・減少させてしまう可能性があるのが「抗菌薬」の欠点なのですね。

ただし、全ての抗菌薬が等しくヒトの正常細菌叢を殺菌・減少させてしまうわけではなさそうです。

ヒトの正常細菌叢の中で、量的・質的に大変重要な、腸内の「嫌気性菌グループ」

このグループへの影響が少ない抗菌薬を選択すること。

これが、一つのコラテラル・ダメージを減らす抗菌薬選択となるのですね。

最適な抗菌薬選択のまとめ

①2つの感染症診断に基づいた、「最大限の治療効果」が予想される抗菌薬選択肢を列挙する。

② ①で挙がった抗菌薬選択肢の中で、「最小限の副作用」となるように抗菌薬選択肢を絞る。

③ ②で絞られた抗菌薬選択肢の中から、更に「最小限の耐性菌出現」となるように抗菌薬選択を見直す。

④ ③の段階で、複数の薬剤選択肢がある場合、「最小限のコラテラル・ダメージ」となる抗菌薬を最終的に選択し処方する。

以上が、最適な抗菌薬を選択するための4条件となります。

では、これら4条件で抗菌薬選択肢を限定しても、まだ複数の抗菌薬選択肢がある場合にはどうするか?

筆者は、「薬価」と「供給状況」を考慮して最終的に処方する抗菌薬を選択するようにしております。

今回は、「コラテラル・ダメージ」については簡単にしかふれませんでした。

コラテラル・ダメージについて詳しいお話は下記をご参照ください。




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