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感受性検査結果から抗菌薬耐性機序を予想する~最適治療抗菌薬の選び方③

最適治療抗菌薬選択に必要な、感受性試験結果の解釈の仕方のお話を続けてまいります。

今回は、薬剤感受性の判定
 S:susceptible
 I:intermediate
 R:resistant

の結果から、薬剤耐性機序を予想する、抗菌薬選択に大変重要な内容となります。

予めお伝えしておきますが、感受性の判定”S"、”I"、”R"から薬剤耐性機序を予想するため、正確な薬剤耐性機序がわかるわけではないという点はご注意ください。

しかしながら、臨床現場で臨床的に有効な抗菌薬を選択するためには十分に使える可能性があるものと考えております。

それでははじめましょう~

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微生物学的診断が「大腸菌」”Escherichia coli”と予想もしくは確定された時点で、最適な抗菌薬を選択するためにまず知って置かなければ行けないのが自然耐性の抗菌薬です。

特定の菌種に対し、特定の抗菌薬が「自然耐性」である場合、もともと効かないのでしたね。


ですから、そもそも「自然耐性の抗菌薬」は感受性試験をするまでもなく「耐性」”R"と判断されるのです。

では、上記スライド大腸菌の自然耐性の抗菌薬~読者の皆様はおわかりになりますか?

             こたえ

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大腸菌Escherichia coliは、ペニシリンG(PCG)に自然耐性なのです。

ですから、大腸菌はPCGの薬剤感受性試験を実施する必要はもともと無いのですね。

微生物学的診断が大腸菌Escherichia coliと予想もしくは確定された時点で、ペニシリンGが最適治療抗菌薬の選択肢にはならないからです。

「でも、大腸菌がペニシリンGに自然耐性なんて知らないよ~」

そうですか。知りませんか。

だったら、「勉強」すればいいんですよ~

皆様は『予想』するために「勉強」するんでしたね? 
参考:ヒトはなぜ勉強するのか?

さらに続けていきます。

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上記スライドの通り、大腸菌Escherichia coliが微生物学的診断と予想(もしくは確定)される場合には、B~Hの抗菌薬は治療薬選択肢になる可能性があります。

それでは、上記B~Hのすべての薬剤に感受性”S"≒自然耐性のみである場合には、どの薬剤が最適といえる抗菌薬でしょうか?

最適な抗菌薬の選び方をご参照ください。


①最大限の治療効果
②最小限の副作用
③最小限の耐性菌出現
④最小限のコラテラル・ダメージ

この①~④を考えるのでしたね。

①~④をこの順番で検討して、まだ複数の抗菌薬選択肢がある場合には

⑤コスト・薬価
⑥抗菌薬供給状況

⑤~⑥も検討して最終決定してください。

例えば、大腸菌が原因微生物として頻度の高い急性単純性膀胱炎もしくは急性単純性腎盂腎炎であれば、自然耐性のみの大腸菌が検出されれば、ABPC(アンピシリン)静注もしくはAMPC(アモキシシリン)経口が最適な抗菌薬となる可能性があります。

(注意:実際の処方をされる場合には、アレルギー、副作用、相互作用、腎機能障害、肝機能障害等を十分に検討してから行ってください。以下全てに共通の注意事項です)

ここからが本日の最大のテーマ~薬剤感受性結果から耐性機序を予想する~です。


大腸菌の薬剤感受性判定結果から、βラクタム系抗菌薬に対する耐性機序を推定する問題です。
薬剤耐性機序は様々なものがありますが、ここでは簡単に理解するために単純化しております。

まず、大腸菌のβラクタム系抗菌薬に対する、主要な耐性機序を知る≒勉強する必要があります。

冒頭のスライドをご参照ください。

左端に、推定獲得耐性機序とあります。
・(自然耐性)
・ペニシリナーゼ
・セファロスポりなーぜ
・ESBLs
・AmpC型βラクタマーゼ過剰産生
・カルバペネマーゼ

各耐性機序別に、代表的な各抗菌薬の判定基準を記載いたしました。

あとは、大腸菌の薬剤感受性判定結果をこの表にあてはめて耐性機序を推定することとなります。

それではモンダイです。

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                こたえ

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こたえ
①予想耐性機序:ペニシリナーゼ産生
②有効性が期待される抗菌薬

 ペニシリナーゼで分解されないβラクタム系抗菌薬
  ・CEZセファゾリン、CTMセフォチアム、CTXセフォタキシム、
   CTRXセフトリアキソンABPC/SBTアンピシリン・スルバクタム合剤、
   TAZ/PIPCタゾバクタム/ピペラシリン・・・

重要:薬剤耐性機序が推定できると、感受性結果が記載されていない薬剤についても、有効性が期待されるかどうかが「予想」可能となる!

それでは次のモンダイです。

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                ↓

こたえ
①予想耐性機序:ESBLs
②有効性が期待される抗菌薬

   セファマイシン系抗菌薬CMZ、カルバペネム系抗菌薬MEPMなど 

ESBLs産生大腸菌の最適治療抗菌薬は、いろいろと議論のあるとことです。
(またそのうちお話させていただきますね)

次のモンダイ

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               こたえ

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                ↓

①予想耐性機序:AmpC型βラクタマーゼ過剰産生
②有効性が期待される抗菌薬
   第4世代セファロスポリン系CFPMセフェピムなど
   カルバペネム系MEPM等

AmpC型βラクタマーゼ過剰産生による耐性機序の場合、CMZの薬剤感受性判定はS~I~Rと様々です。でも、Sであっても、筆者の経験上はMICの数値は高めになることが多いと思います。薬剤感受性結果は、S・I・Rの判定だけではなく、MICっぽいものの数値も重要となるのですね。

本日最後のモンダイ~ちょっとムズカシイですよ!

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               こたえ

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                ↓

①予想耐性機序:ESBLs+AmpC型βラクタマーゼ過剰産生
②有効性が期待される抗菌薬:カルバペネム系抗菌薬MEPM等

どうでしたか?正解できましたか?

薬剤耐性機序は、検出された同一菌株が複数の薬剤耐性機序を保有・発現している場合があるのです。ですから、単一の薬剤耐性機序ばかりに目をむけていると足をすくわれる可能性があるのですね。

今回は、薬剤感受性判定結果から、原因菌種の薬剤耐性機序を予想するお話でした。

感受性結果から、薬剤耐性機序が予想できるようになると、感受性検査結果を実施していない、結果に記載されていない抗菌薬についても、ある程度「効く」か「効かない」か?
が予想可能となります。

読者の皆様も、まずは臨床現場でモンダイとなりやすい大腸菌の抗菌薬感受性結果から、薬剤耐性機序を推定する努力をしてみてください!

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