変な虫
夕日がきらきらと輝いている。
長かった自粛生活もそろそろ終わりだ。
私は、夕日を見るために近所の公園に向かった。
細胞の1つ1つに、夏フェスの日の夕方のエモい記憶が刻み込まれていて、身体じゅうがそれを求めるのだ。
SUPER☆GiRLSのラブサマ!!!、神宿のUltra Cheerは夏の夕方によく合う。
大阪☆春夏秋冬のLet you flyは、暗くなってからの方がいい。
スマイルガーデンの白ライトは夜の闇に映えるから。
きっとこんな話をしても誰もわかってくれないんだろうな。
でも、それでいい。自分の好きな風景は、自分が愛しまくってやればいい。
そんなことを考えながら、私は公園の入口にある長い階段の中腹に腰かけた。ここからは広い公園が一望できる。
最近の子供たちの間では、スケートボードのようなものが流行っているらしい。
日が暮れるまであと少し。早く貸して、と少年たちがスケートボードを取り合う。
あぁ、この子たちが産まれるより前から、私はヲタクをしているのか。
心臓が少しキュッとなった。
私の中の<ヲタク>も、いろんな経験を経て、公園でスケートボードを取り合うくらいの年齢になったのか。
ふと目線をそらすと、階段の手すりに1匹の虫がいる。
真っ黒な体が、赤い光線を映して、てらてらと輝いている。
私は、この虫のことが気になった。
別にたいした虫ではない。どこにでもいるような地味な虫だ。
ハエのような、カメムシのような、アリのようなかたちをしている。
どこにでもいそうな虫だけど、今まで1度も見たことのない虫だった。なんていう名前の虫か、そういえばわからない。
そんな存在に私は心を惹きつけられていた。
虫なんて大嫌いなはずなのに親近感が湧いた。
おまえは、普段どこでなにをしているんだい。
アリのように一生懸命に働いているのかい。
それとも、人を刺すハチみたいなマネで生き延びているのかい。
おまえの仲間は、この町にいるのかい。
おまえの卵を産んでくれるようなパートナーはいるのかい。
この街に、おまえとおんなじ種類の虫はおまえしかいないのかもしれないよ。
その変な虫は、「余計なお世話だ。」とでもいうように、太陽の沈む方向へ飛んで行った。
太陽の沈む方向に、いったい何があるのか。私は知りもしない。
きっと、そっちには、あの変な虫がたくさん集まる、地下のライブハウスみたいな場所があるんじゃないかな。
虫だって、人間の日常生活に現れて、ブンブン飛び回るだけが全てじゃない。
自分たちの気の合う仲間と、楽しく暮らせる秘密の園があれば、それでいいじゃないか。
私は、腰を挙げて、背伸びをした。
仕事が始まったら、飲食をしながらアイドルのライブを観覧できる秋葉原の劇場にいってみよう。
学生の頃とは違う、新しい秘密の園をみつけないといけない。
アイドルとお互いに傷をなめ合えるシェルターが、今の私には必要のような気がする。
自分の存在を承認してくれる可愛い女の子が、社会人1年目の私には刺さる。
夏フェスの熱狂は、脂っこいトンカツのように、若い日の思い出になっていくのかもしれない。
(まっすー)
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