小説講座 売れる作家の全技術(大沢在昌)

 小説の書き方系(以下、書き方本)の本を読み始めた当初からこの本の存在は知っていたが、題名が鼻についてなかなか手が伸びなかった。書き方本を十冊以上読んで、自分の中ではこれ以上は小説を読む事と書く事に集中しようと思っていたが、なんとなく、本当になんとなくポチっとしてしまった。売れっ子作家になるために小説家を目指しているわけではないが、かと言って、売れなければ作家を続けることは敵わない。大沢在昌の書く小説はエンタメ系なので、私の目指す純文学とは畑違いだが、だからと言って得られるものがないとは限らない。いや、もしかしたら畑違いだからこそ、得られるものがあるかもしれない。……「なんとなくポチ」と言ったが、その程度の事は考えていたと思う。そしてその考えは、遥かに上のレベルで当たった。読み始めてすぐに、大沢在昌の勢いに飲み込まれてしまった。小説の技術についての本ではあるものの、この本は大沢在昌の熱を大いに感じることができた。次へ!次へ!とページを進めたくなる。この本こそが一級のエンタメ小説にさえ思える。
 この本は、実際に行なわれた大沢在昌の小説講座が元になっているので、本の中には実際の受講生十二人も登場する。彼らは講座期間中、小説を四度提出し、その度に大沢は一つ一つ批評している。この批評の熱量がすごい! 「本気で小説家になって欲しいから、俺も遠慮せずにお前らに全てを伝える!」その気持ちが文字通り熱を感じるほど伝わってきた。この熱をくらったら、甘っちょろい考えで小説家になろうとしている人なんかは、簡単に燃え尽きて灰になってしまうだろう。読み終わって、自分の中にあった「小説家になりたい」という思いが、大沢の熱の影響でさらに大きくなっていた自分を、とりあえず誇りに思う。
 小説家になってそれを続けていく、その事の覚悟を問われる一冊。エンタメとか純文学とか関係なく、文字を書く仕事を目指す人には必読ではなかろうか。
 
 

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